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その二十一 双子の姉妹
しおりを挟む拾った子どもに饅頭を食わせたら吐いた。
当然だ、もう何日もろくに食べてはいなかったのだから。
だから粥を食わせたら、腹が膨れたとたんにこてんと寝てしまった。
家にあげたのはいいものの、わたしに子どもの世話なんぞができるわけがない。なにせ幼少期より斬ることしか教わっていなかったのだから。
それでもひとりの生活となってからは、最低限の家事は覚えた。
いかに阿呆とて、何度も魚を焦がし、米を台無しにし、食べ物を粗末にし続ければ、それなりには喰える物が作れるようになるもの。
そしてお粥はわたしの唯一といっていい得意料理であった。
なにせ鍋に水と米を放り込んで、適当に煮込めば作れるのだから、これほど楽なことはない。
が、その考えが根底からまちがっていると知ったのは、元気になった子どもの片割れより指摘を受けたから。
「信じらんない。おかゆなめんな」
よもやの七歳児からの駄目出し。
火加減、水加減、鍋の底にくっつかないように注意して混ぜ、弱火でじっくりトロっと四半刻、塩を少々……。
自ら調理をし、わたしのアレとのちがいをまざまざと見せつけた娘は、あや。
実際に食べてみて、わたしは愕然。いままで自分がお粥だと信じていたアレは、ただの米糊の湯漬けだと知る。
へこむわたしの腰をポンと叩き「気にすんな。つぎがあるさ」と慰めたのは妹、てまり。
あやとてまりは双子の姉妹。
洗って身なりを整えると動く市松人形のよう。そっくりすぎてまるで見分けがつかない。
旅芸人一座の娘であったらしく、なにやらきな臭くなってきた京を離れて江戸を目指したまではよかったものの、途中、賊に襲われてみな散りぢりに。
姉妹肩寄せあって、どうにか江戸までたどりついたものの、八百八町どころか二千町近い広さ。右も左もわからぬなかを彷徨い歩き、ついには力尽きた。
それがたまたま我が家の門前であったと。
「そうか、ならば落ちついたら親を探すか? もしかしたら江戸に来ているかもしれん」
わたしが提案するも姉妹はそろって首をふった。
「ううん。それはない。だって父さまはばっさり斬られちゃったから」とは、あや。
「母さまは去年、はやり病で死んじゃった」とは、てまり。
姉妹には他に身寄りらしい存在もないという。
だから「好きなだけうちにいてかまわない」と告げたら、姉妹そろって殊勝な態度で手をついたのが、ほんの三日前。
だというのに、たった数日で猫をかぶるのをやめてしまった子どもたち。
まぁ、びくびくされて鬱陶しいよりかはよっぽどましにて。
かわりに、わたしは幼い姉妹にひとつだけある約束をさせた。
それはわたしが山部三成と山部白雪の一人二役を演じていることを、ぜったいに外部に漏らさないということ。
もしも約束をたがえれば即刻斬る、とまでは言わぬが叩き出す。
そう伝えれば、幼い姉妹は真面目な顔をして「わかった」と声をそろえて返事をした。
まぁ、しょせんは幼子ゆえにあまりあてにはしていない。
いざともなれば山脇正行さまの遺言もあるから、貯め込んだ金と彼女たちを連れて、どこへなりとも去ればよいだけのこと。
◇
あやとてまりは、びっくりするぐらいにしっかりしていた。
ぶっちゃけわたしよりもはるかに家事ができる。
理由は旅慣れていたから。一座での集団生活は、各々ができることを率先して行うことで成り立っていた。そんな大人たちに囲まれた環境ゆえに、姉妹は早熟に育つ。
……わたしが同じ年の頃なんて、ただ刃物を振り回していただけだというのに。
結果として、わたしは外でせっせと稼ぎ、彼女たちが家を守るという奇妙な構図が定着した。
これではどちらが保護者かわかったものではない。
いっしょに暮らすうちに、姉妹の性格の差をおぼろげながら理解する。
姉のあやは、しっかり者にて物言いもはきはきとしている。というか、慣れたら遠慮がない。それとどこか絶えず気を張っている風なのは「自分が妹を守らなければ」との強い責任感から。つまりはそういう娘だということ。
妹のてまりは、ぱっと見はぼんやりしている。しかしそれでいてよく周囲を見ている。場の雰囲気や空気を読むことに長けており、ともすればきつくなりがちな姉の手綱をうまく握っている。そして妹もまた「姉を守らねば」との想いがあるらしいことが、言動のはしばしに見え隠れしている。
とどのつまり、この双子の姉妹は、とてもいい姉妹であるということだ。
あと、いろいろとつらい身の上なのに、それを表には出さない強い子たちでもある。
なんとなく子どもとは、ぴーちくぱーちく餌をねだるばかりの弱いひな鳥のような印象を抱いていたのだが、いざ接してみるとなかなかどうして逞しい。
などと感心しつつも、わたしは己が見識の拙さを知り、あらためて自分自身にあきれた。
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