御様御用、白雪

月芝

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その二十二 人生

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 風呂上り。
 庭から聞こえる鈴虫の声を聞き流しながら、母が残してくれた鏡台の前にわたしが腰をおろすと、すかさず櫛を手にしたあやとてまりが寄ってきて髪をいじりはじめる。

「白雪さんはせっかくキレイなんだから、もっとていねいに自分をあつかうべき」

 あやが溜息まじりに小言を口にする。

「そうだよ。せっかくかっこいいのにもったいない」

 姉の作業を手伝いながら、てまりがうんうんうなづく。
 けれどもわたしは大あくびにて「へーい」と適当に返事をするばかり。
 男装をして山部三成となれば「役者だ、菩薩だ」とさわがれ、女装にて白雪として過ごせばときおり「べっぴんさん」などとからかう輩があらわれる。
 自覚はないが、どうやらわたしは世間一般でいうところの美醜においては、美に属しているようだ。
 さりとてそれがどうした?
 首切り用の刀に求められるのは、美ではなく切れ味と頑強さ。
 腹の足しにもなりやしない。
 いや、指名が増えた分だけ実入りもよくなるから、得といえば得か。
 これは……、母に感謝だな。

 ちらりと鏡越しに背後をみれば、やけに楽しそうな双子の姉妹の姿。
 自分たちの濡れた頭そっちのけにて、他人の髪なんぞをいじって、いったい何が楽しいのやら。
 わたしはてまりをひょいと膝の上にのせると、まだ湿り気が多分に残っている頭を手ぬぐいにてごしごし拭く。
 いささか乱雑な手つきにて「うにゃあ」とてまりが猫のような声をあげた。
 かまわずしっかり頭を拭いてから放り出し、次はあやへと手をのばす。
 同様にごしごししたら、姉のあやも「うにゃあ」と鳴いた。

  ◇

 双子の姉妹が我が家に転がり込んできて、早やふた月。
 そろそろ年の瀬が近づいてきた頃。
 季節のわりにはいい陽気にて。
 わたしが縁側で刀の手入れをしていたら、双子は庭先にてせっせと洗濯物を干していた。

 姉妹は、わたしが女だてらに御様御用なんぞという物騒な仕事していることについては、不自然なほどに触れてこない。
 子どもながらに気を使っているのか、あるいは家主の機嫌をそこねることを恐れているのかとも考えたのだが、どうやらそういった風でもない。
 それとなく探りを入れてみてわかったのは、彼女たちの中に根付いている価値観について。
 彼女たちは生まれたときから旅芸人の一座として各地を転々としてきた。
 めまぐるしく変わる環境と人間関係。
 流転のうちに芽生えたのは「人生いろいろ」という、やや達観した考え。
 この幼い姉妹は、わたしとはちがって広い世界を見てきたから、その分だけ大勢の人間を知っている。出会う人、別れる人、みんないろんな事情を抱えていた。
 善と悪、清と濁、悲喜こもごもが入りまじる巷を徘徊してきたがゆえに、姉妹はわたしという人間は、そういう生き物と認識しているようである。
 まぁ、それならそれでいい。
 いちいち語って聞かせるほど、我が山部家の歴史は上等なものでなし。むしろろくでなしの集大成みたいな家なので、うまく説明する自信もない。

 刀の手入れがひと段落ついたところで、わたしは小さな背中に声をかけた。

「あや、てまり、年が明けたら寺子屋にでも通うか」

 七歳といっていたから、来年になれば八歳。
 わたしの時のような中途半端ではなく、しっかりと学ぶのならばそろそろ通い出してもいい頃合いだと考えたがゆえの提案。
 我ながら「ちゃんとした保護者っぽい」と内心にて得意げになっていたのだけれども、当人たちからは「どっちでもいい」と気のない返事。
 あやにいたっては「それよりも、わたしに剣を教えて」と言われてしまう。
 が、これをわたしはにべもなく断る。

「どうして!」

 なおも食い下がるあや。幼女は必死だ。
 おそらくは大切な者を守るのならば、力がいる。力ならば剣といった考えなのだろう。
 しっかりしており賢しいけれども、しょせんは子どもだ。
 そして我が山部流の剣は、そんな善女にこそ伝えるべき類のものではない。

「どうしてって……。そりゃあ、じきに武士の世が終わるからだ。おまえたちも上方や京の都の狂騒ぶりは耳にしておるだろう? いずれこっちにも飛び火するぞ。まぁ、どうしてもっていうのならば、もう少し大きくなってから鉄砲か大砲の撃ち方でも習った方が、よっぽど役に立つ」

 刀で罪人の首を刎ねることを生業とし、せっせと仕事道具の手入れをし、日々の鍛錬も欠かさない女侍もどきから、そんなことを言われて幼女たちはあんぐり。
 ふむ。その顔はおもしろい。


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