ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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 誰かが言った。 
 流行というモノは、一定の周期でくり返されると。

 テレビの画面の中に映し出されていたのは、近頃ブームが再燃しているクイズ番組。
 様々なジャンルから出題される珍問奇問に、次々と答えていく出演者たち。
 その顔ぶれは、博識で有名な俳優から、場を盛り上げるための若手芸人、美と知を兼ね備えた東大卒の女子アナウンサー。果ては、おバカなことが売りなっているアイドルまで揃っており、実に多彩な面々が、やいやい熱戦を繰り広げている。

 番組を視聴していた二人の女の子。
 モノクロの顔写真と、わずかな情報のみで、対象の人物を見事に言い当てた有名俳優に、惜しみない賛辞と拍手を送っているのは、性格の良さが災いしてか、なにかと級友たちから雑事を押しつけられ、クラスでもお人好しで通っているミヨちゃん。
 素直な彼女はとっても感情表現が豊かな子なので、ちょっとしたことにも感心を示すから、大人たちの受けがすこぶる良い。無自覚にふり撒かれる笑顔にて、ハートを撃ち抜かれるご老人多数。着々と支持を広げており、いずれ市長選に立候補したら最年少にてトップ当選しそうな勢いであることを、当人はまるで知らない。

「こんなにいろんなことを知ってるなんて、スゴイよねぇ」

 ミヨちゃんが話しかけたのは、彼女の隣で一緒になってテレビを黙って見つめていた女の子。クラスでも無愛想で通っているのだが、ここぞという時に、あまりにも辛辣な毒を吐くので、級友たちのみならず、先生たちからも密かに恐れられているヒニクちゃん。

 今日はミヨちゃんの家にてお泊り会。
 ヒニクちゃんはヤマダ一家から熱烈な歓迎を受ける。大学生のヒロ兄、高校生のタカ兄、ミヨちゃんのお母さんにおあばあさん、それどころかレアキャラのお父さんまで揃っていたのには、ヒニクちゃんもちょっと驚いた。
 なにせミヨちゃんのお父さんは、とっても忙しいらしく、めったに家にいない。いたと思ったら、電話一本にて出かけてしまう。公務員という話なのだが、仕事に関しては、ミヨちゃんどころか兄たちもよくわかっていないらしい。
 ヒニクちゃんとしては公安の線を疑っているが、あえて口にはしていない。世の中には謎のままのほうがいいこともあると知る幼児なのである。

 で、どうしてヤマダ一家勢揃いなのかというと、ミヨちゃんのお手製カレーが原因。
 ヒニクちゃんが泊まるときには、ミヨちゃんが大はりきり。手料理にてもてなす。
 かなり重度のシスコンの兄たちは、妹の手料理を絶対に食べたい。
 お父さんは、かわいい娘の手料理をぜがひでも食べたい。
 おばあちゃんは、かわいい孫娘の手料理を冥途の土産に。
 お母さんはお手伝いをしてもらって、うれしい。
 と、こんな理由にて、とにかく歓迎されるわけ。

 晩御飯に、丹精込めてアメ色にした玉ねぎたっぷりの、ミヨちゃん特製のカレーを堪能。
 ちょっと食べ過ぎたヒニクちゃん。ポコッと膨れたお腹をさすりながら、テレビのクイズ番組を仲良く視聴中。
 次々と出題される問題にスラスラと答える出演者たち。その博識ぶりに、ただただ感心しきりのミヨちゃんが、「かしこいねえ」とつぶやくにあたって、おもむろにヒニクちゃんが閉じていたその口を開いた。

「物知りと賢いは、ハヤシとカレーぐらい別物。けふっ」

 本当に賢いのは、自分の目で見たことを話す人のこと。
 聞いた話を、さも自分のことのように話すのは愚かな人である。
 知ってることと理解してることは、まるで違うと思うの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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