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283 モテ期
しおりを挟む学校にて空前の昆虫ブーム到来。
といっても、おもに男子たちの間でだけれども。
きっかけは巨大な昆虫同士がバトルをするというテレビアニメ。
ゲットした昆虫を育てて、苦楽をともにし、信頼と友情を育んで、ゆくゆくは大きな大会での優勝を目指す。
あちらこちらから、アイデアをちょこちょことつまんでは、無理矢理に昆虫へと落とし込んだような設定。
なおこのアニメの世界での昆虫は戦車ぐらいにまで成長する。
はっきりいって怪獣大戦争のような、バトルシーンなのだが、これが思いのほかに子どもたちの間でうけた。
コミカライズ版もミリオンセラー、ゲーム化の企画も進行中なんだとか。
その人気にのっかって、ふだんは閑古鳥が鳴いている昆虫博物館とか、昆虫を扱ったイベントがどこでも大盛況。
ネット販売や書店からは昆虫図鑑の売り切れが続出中。図書館でも貸出予約が殺到しており、巷にはにわか昆虫博士がおおいに増えた。
そして本物の昆虫の販売も好調、ペットショップや専門店はうれしい悲鳴をあげているとかいないとか。
そんな最中にて、おもわぬ余波を受けることになったのは、キャメル色のくせっ毛と笑うとのぞく八重歯がキュートなミヨちゃん、小学二年生。
モフモフ系には蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われている幼女。だけれどもその反動なのか魚類や昆虫類にはむちゃくちゃ好かれている。
釣りに彼女をつれていけば大漁間違いなし。そしてそれは昆虫採集にしても同じこと。
カブトムシだのクワガタだの、男の子たちは大好き。
だけれども買うとけっこうなお値段。親にねだるのだって限界があるし、そもそも大半のお母さんたちは、昆虫を飼うこと自体にあまりいい顔はしない。
だけれども欲しい。
だったらどうする? 答えは簡単だ。自分で捕まえてしまえばタダじゃないか!
しかし昆虫採集は、下手をすると釣りよりもずっと難易度が高い。
遠出をして、険しい山に分け入り、足を棒にして探し回っても、一匹もみつからないことの方が多い。ビギナーズラックとかが期待できないのが山という環境。
山の神さまは子ども相手でも容赦しないのだ。
だがそんな山の神さまが唯一、微笑むのがミヨちゃん。
クラスの男子たちに頼み込まれて、しぶしぶつき合ったミヨちゃん。
結果は語るまでもあるまい。おかげで近頃では休憩時間のたびに小学校中からウワサを聞きつけては、教室に見知らぬ男の子たちがとっかえひっかえにあらわれては、「ヤマダさん、いるかな」とお声がかかる。
かといって、そうそうすべてに応じるヒマなんて彼女にはない。
彼女には彼女の生活があるのだ。だけれども断るのにも骨が折れる。
そのせいか、ミヨちゃんちょっとやつれ気味かも。
「学生の時分に、先生の同級生にやたらとモテている子がいたんだ。その頃は生まれながらの人生格差に、ただただ羨ましいとか思っていたんだけど、冷静に観察してるとたいへんそうよね。さそわれて、ことわるのも、けっこうパワーがいるから」
しみじみとそんな感想をこぼしたのは、担任のヨーコ先生。ドッジボールにて六年生相手に全力でボールをぶつける三十路手前の独身女教師。
ちなみに彼女の今週の運勢、五段階評価にて金運三、健康運五、仕事運三、恋愛運一。
「大人になるとねえ。さそうのにも気をつかうのよ。相手の都合も考えずに気軽の声がかけられるのは学生のうちだけ。社会に出たら、そうもいかないの」
しみじみとヨーコ先生。
勝手に押しかけてくる男どもにペコペコと頭を下げている教え子を見つつ、「そろそろなにか予防策をとるべきかしら」と思案顔。
するとずっと教師のボヤキにも似た話にダマってつきあっていたヒニクちゃんが、おもむろに口を開いた。
「だいじょうぶ。じきに下火になる」
右へふらふら左へふらふら。熱しやすく冷めやすいのが大衆文化。
二年前の戦隊ヒーローなんて、ほとんどの子が忘れちゃって、
新しいのにもう夢中。男も女も世は移ろいやすく、とっても儚いと思うの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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