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050 純を冠するもの
しおりを挟む喫茶店――
それはコーヒーや紅茶などの飲み物や軽食を楽しむところ。
大人の癒しの空間で、ひとりでまったり過ごすもよし、友人らとおしゃべりに興じるもよし、仕事や勉強に勤しむもよし。
みながおもいおもいに過ごす場所。
フレンチ風に言えばカフェ、和風に言えば茶房や茶寮と呼ばれており、その有り様は多彩であり、千差万別にて、互いに切磋琢磨しつつ、あるいは鎬を削り。
ところかわれば、もしくは店主かわれば、ガラリと雰囲気がかわる。
店の数だけ種類があるといっても過言ではないでしょう。
けれどもそんな喫茶店の中で、ほんの一握りの者にのみ許された称号があります。
それが『純』という文字を冠すること。
これを持つ店を純喫茶という。
純喫茶の純は、純粋の純。
純とは「そのものだけ、その状態だけで、ほかの要素が混ざらない」という意味を持つ文字。
ゆえに純喫茶は、アルコール類などは提供されず、コーヒーもしくは紅茶などの飲み物だけを楽しむことに特化した店ということになります。
若者に媚びへつらい、映えやウケを狙ったようなメニューは存在せず。
マスターが自信を持って提供するコーヒーなどで、ど直球、ど真ん中にて、真っ向勝負!
とはいえ今日び、さすがにそれだけでは商売になりませんので、他にもメニューはいろいろ。
カウンター席とテーブル席なのは、他の喫茶店と同じですが、内装は温もりと格調が絶妙に混ざり合った落ちついた木目調にて、店内の照明は暗すぎず明るすぎず。静かに流れるのはムーディな音楽。オシャレだけどけっして押しつけがましくはなく、レトロな雰囲気は居心地が良くて、つい長居をしてしまう。
名残り惜しく、しばらくしたら無性に恋しくなって、また行きたくなるステキなお店。
それが魅惑の純喫茶なのです。
〇
クダンちゃんは、いま高校の近くにある純喫茶プランタンにお邪魔しております。
ただし、ひとりではなりません。
なんと、天海先輩とふたりきり!
つばくろ高校の生徒会長である天海璃音は、自他ともにみとめる才媛にして、全校生徒の憧れの的です。
腰までのびた黒髪は艶々しており、背は高く、ウエストは細く、手足は長い。体のすべてのパーツが理想的で、黄金律の集合体のよう。
顔の造形については、あらためて言及するまでもないでしょう。
蕾のような口元から発せられる声は、ややハスキーボイスですが、それすらもが凛とした美しい御姿とマッチしており、魅力を増大させる一助となっています。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
容姿だけでなく、立ち居振る舞いまでもがカッコいい先輩です。
ウワサでは非公認ながらファンクラブなんぞもあって、その人気は他校にも広がっており、留まるところを知らないんだとか。
天海先輩とクダンちゃんは、入学式のおりに偶然にも接近遭遇し、それ以来の付き合いにて。
そんな先輩から下校時に「よければ、このあと、いっしょにお茶でもどうかな?」と誘われたクダンちゃんに断るという選択肢はありません。
で、先輩に連れられてきたのが、この純喫茶でした。
「プランタンとはフランス語で『春』、文脈の中だと『若さ』や『青春』みたいな意味になるそうだよ」
喫茶店という飲食店があることは知っていましたが、実際に足を踏み入れるのは初めてだったクダンちゃんは、ドキドキにてやや緊張しています。
そんな後輩の緊張をほぐそうと、天海先輩が教えてくれました。
窓際のテーブル席にて向かい合わせに座ったふたり。
天海先輩はホットコーヒーを、クダンちゃんは悩んだ末にクリームソーダを頼みました。
じつは背伸びをして自分もコーヒーを頼もうとしたのですけれども、そんなこと、天海先輩はとっくにお見通しだったようで「無理をする必要はないよ。ここのコーヒーはけっこう濃いから」とくすり。
それでクダンちゃんは格好つけるのをやめました。
注文した品が届くまでの間、さっそくクダンちゃんが話し始めたのは、この前に行ってきたデパートの『大昭和展』のこと。
あのイベントのチケットは天海先輩から譲られたもの。
今日はその報告がてらの、ふたりきれでのお茶会なのです。
身振り手振りを交えつつ、一生懸命に話すクダンちゃんの姿に、天海先輩は目を細めていました。
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