それいけ!クダンちゃん

月芝

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049 テキーラ! テキーラ!

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 リュウゼツランの開花には、ゴーグルとマスクが必須です。
 ただし、未成年に限る。
 その理由は……

 みんなが見守る中、ついにその刻は訪れました。
 百年に一度の命の祭典。
 蕾たちが、いっそう膨らんでは重なるように折りたたんでいた花弁たちを、ゆっくりと広げていく。
 ポンポンみたいであったのが、とたんにモコモコになって、まるで大きなタンポポの綿帽子のように変化しました。
 ただし色は白ではなくて黄です。

 それはとても不思議な黄色――
 琥珀のように温もりがあって、それでいてトパーズのように艶やかで、キャッツアイのように妖しい光も帯びていました。

 黄色い花弁がポンポン、ポポン。
 ぱっと一斉に咲き誇る。
 それとともに一帯にぷ~んと漂ったのは、濃厚な甘いアルコール臭です。
 アルコール度数は40%越えにて、火気厳禁!
 なんでもリュウゼツランの品種によっては、お酒の材料にもなるそうで、そこからきているんだとか。
 なんといっても百年寝かせたモノですから、芳醇な薫りは銘酒のごとし。
 ……という話です。

 お酒は二十歳になってから!

 当然ながら高校生のクダンちゃんはまだお酒が呑めません。
 だから酒の良し悪しやら、その辺のちがいはよくわかりませんけれども。
 そしてこれこそが未成年にはゴーグルとマスクが必要なわけなのでした。
 なお、お酒があまり得意ではない大人の方や、車での来園者なども、もちろんつけるのがマナーでモラルでエチケットなので、あしからず。

「うぅ、感動です」

 ついにリュウゼツランが咲きました。
 周囲からは盛大な拍手と「テキーラ! テキーラ!」との歓声が巻き起こっています。
 これはリュウゼツランの花の誕生を祝う言葉です。
 奇跡の場に立ち会えた幸運を神さまに感謝し、長い歳月を耐え忍び、がんばって見事に花を咲かせたリュウゼツランへの最大の敬意と賛辞、惜しみない祝福でもあります。

 だからクダンちゃんもちょっと恥ずかしいけれども、声を張り上げて「テキーラ! テキーラ!」と祝福を送りました。
 園芸部員たちも拳を突き上げては、口々に叫んでいます。
 なかには感極まって、ちょっと涙ぐんでいる部員もいました。
 でもその気持ち、とてもよくわかります。
 かくいうクダンちゃんも、ちょっと涙が滲んでいましたもので。

「テキーラ! テキーラ! テキーラ!」

 現場はお祭り騒ぎの様相を呈す。
 賑やかなコールは30分近くも続きましたでしょうか。
 ですが、そんな花も見れるのはほんの二日ほどだというから、儚い……
 これだけがんばって咲いたのに、たったそれだけで萎んで枯れてしまうのですから。
 いかに花の命は短いとはいえ、そのことを考えると、さすがにちょっとしんみりしてしまいます。

 するとそんなクダンちゃんの心情を察したのか、大谷部長が言いました。

「たしかにちょっと寂しいかな。でも、だからこそ笑顔でこの子の新たな門出を見送ってあげましょう」と。

 花が咲いて、枯れて、終わりではありません。
 種が落ちて、芽が出て、葉をのばし、また長い時間をかけて蕾をつける。
 終わりではない。
 命は次の世代へと紡がれていく。
 そんな目出度い場面に、辛気臭い顔は似合わないと大谷先輩はにこり。
 だからクダンちゃんも「そうですね」と微笑みました。


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