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026 そこにいる!
しおりを挟む城内の病室で目を覚ました枝垂はとても驚いた。
何に驚いたかって、あれからすでに七日も経過していることもそうだが、自分が生きていることや、かなり酷いことになっていた左腕がすっかり元に戻っていることにも。
なにやら高度な魔法を使った治療による超回復らしいのだけれども、いまだに地球の常識と感覚が抜けきっていない枝垂にとっては、どうにも頭がついていけない。
その一方でベッドにて上体を起こした楽な姿勢のままで、ジャニスから簡単な聞き取り調査を受けたのだが、それが枝垂の混乱にさらなる拍車をかけることになった。
「えっ、助けてくれた人のこと……ですか? へんてこな木偶人形? う~ん、すみません。ちょっと心当たりがありません。なにせ僕、気を失っていたもので。あの時は無我夢中だったし、最後の方は記憶もあやふやで。
にしても、そんなインパクトのある見た目の相手なら、さすがに一度見たら絶対に忘れないと思うんですけど」
動くマネキンとか、かなり強烈なキャラである。
ジャニスから「てっきり、またぞろ枝垂が星のチカラで、妙なものを出したのかと思ったのだがなぁ」と胡乱げな目を向けられるも、本当に身に覚えのない枝垂は、ただただ首を横に振るばかり。
目覚めたことにより面会謝絶が解除された。
それを聞きつけシモンらクラスメイトたちをはじめとして、マヌカ先生やナシノ女史、エレン姫などがお見舞いにきてくれたばかりか、王様や王妃様の名代までやってきた。
他にも浜辺で助けた第二初等部の子どもたちとその親御さんら、あの場に居合わせた漁港の関係者や他校の教師なども顔を出しては、感謝を述べられ枝垂の回復を祝ってくれた。
お見舞いの品や花束でたちまち病室が埋まった。
まるで政治家や大物芸能人が入院した時みたいで、これには枝垂も恐縮するばかり。
そんな騒ぎがようやく落ち着いたのは、病室に西陽が射す頃であった。
翌日は朝から夕方まで一日を再検査に費やされる。
全身をくまなく調べられ、そして……
「よーし、どこにも異状はないな。だが寝たきりで少し体力が落ちているから、しばらくは無理をしないこと。ゆっくり体を馴らしていけ。間違ってもガキどもとボール遊びなんかをするなよ」
医師のアラバンの言葉に枝垂は、ほっと胸を撫で下ろしつつも苦笑い。
以前にシモンたちに誘われてやった、足を使ったドッジボールみたいな遊び。あの時は、顔面にボールを喰らった枝垂が盛大に鼻血を吹いて、医務室に担ぎ込まれた。
だが、あれはしょうがない。まさか蹴ったボールに風魔法をまとわせて変化させたり、火魔法でファイヤーボールになったり、防御のために地魔法で土壁を出現させたりする、過激な超次元サッカーもどきだなんて知らなかったんだもの。
あの時のことを揶揄われつつ、アラバンから退院許可を得て、枝垂は城内にある自分の部屋へと戻ることになった。
☆
ひさしぶりの帰宅、懐かしのマイルームである。
お城にて居候の身だけど、なんだかんだで自分のテリトリーに戻ると落ち着く。
でも扉を開けて、一歩室内へと入るなり「あれ?」
かすかに感じた違和感に、枝垂はコテンと小首を傾げた。
別に家具の配置がかわったとか、荒らされているというわけではない。
郊外学習のあった日の朝と同じ室内の様子……なのに何かが違う気がする。
だから部屋の隅から隅へと、ゆっくり視線を動かしては、自分が感じている違和感の正体を探ろうとする。
そしてハタと気がついた。
違和感の正体はベッドの枕元に置いていた鉢植えである。
新芽がなくなっていた。どうやら枯れてしまったらしい。入院中、ずっと水をやらなかったせいであろう。
せっかくじっくり育てて、梅盆栽にしようと思っていたのに……
コウケイ国は小さくて田舎だけれども、みんな優しい。なにより食生活が充実しているのがありがたい。
来訪した初日の夕食にカレーライスが提供されて、クマさんの料理長から「星の勇者の方々でも、ニッポンからこられた若い方は、特に好まれるとお聞きしましたので。お口に合えばよろしいのですけど」と言われたときには、枝垂は感激するあまりオイオイ号泣したものである。
おかげさまにて異世界での新生活の滑り出しは好調だ。
ぶっちゃけ元の暮らしやあちらに残してきた家族に未練はない。
枝垂の家庭はちょっと複雑だったもので、家を出られてむしろ清々している。
とはいえまったくストレスを感じていないわけではない。特に愛らしいモフモフを目の前にして、ずっとお預けを喰らっている状況は生殺しみたいなもの、くっ。
ゆえにちょっとした癒しが欲しい、今日この頃。
盆栽いじりを趣味にして無聊を慰めつつ、あわよくば売り物になればしめたもの。
という枝垂の目論みは早々に潰えた。
さりとてすぐに再チャレンジする気にもなれず、枝垂はそのまま着替えて今日はもう就寝することにした。
マヌカ先生からはしばらく休んでもいいと言われている。
けれども、枝垂は明日からさっそく学校に復帰するつもりだ。なぜなら文字の読み書きをおろそかにしたくないから。せっかくいい感じで身につき始めているのに、またぞろふりだしに戻ったのでは悲しすぎる。
ただでさえ最年少のテトに遅れをとっているのに、これ以上溝を開けられるわけにはいかない。
というわけで部屋の灯りを落とし、ベッドにごろん。
仰向けになったところで、枝垂はビクリ!
天井に等身大の木偶人形が張り付いていた。
頭の梅の簪がチャームポイントにて、見た目からはわからないけれども、女型なのかもしれない。
――じゃなくって!
「あんぎゃあぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
枝垂は驚きのあまり過去イチの金切り声をあげた。
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