57 / 242
057 廃墟にて
しおりを挟む乾いた風が吹くたびに赤茶けた砂塵が舞う。
かつては緑海の玄関口にして、一大物流拠点として隆盛を誇った城塞都市ヴァストポリも、いまでは外壁のみを残し、無人の廃墟と化している。
突如としてあらわれた残土穢たちに破壊され尽くした都市内部、瓦礫の山の中を警戒しつつ慎重に進んでいたのは、ジャニス率いる一隊だ。
対赤霧討伐戦後のことである。
立ち尽くしたまま活動を停止した女王を横目に、同じく動かなくなった大量の残土穢たちの合間を縫いつつ、目的のものを探す。
探し物はふたつある。
ひとつは枝垂の起死回生の一発により、撃ち砕かれた落陽水晶体の欠片たち。
高エネルギー体にて、欠片のひとつとっても並の輝石よりも高値がつく。半壊したとはいえかなりの大きさの残骸ならば、いったいどれほどの値がつくことか。
かつてない規模を誇った赤霧の落陽水晶体だ。中央のオークションに出せば、さすがに星珠には及ばぬものの、それに近しい値をつけることであろう。
世知辛い話だが、復興にはいくらお金があっても困らない。
避難民の生活支援、犠牲になった者たちへの補償、援軍を出してくれた各国への謝礼、汚染された土壌の浄化や荒れた土地の整地作業、ゴミの分別と回収された資源の再利用などなど……
成すべきことは山とあり、何をするにもお金がいる。
それを補ってくれるのが女王の洛陽水晶体である。
自分たちで活用できたら一番良かったのだが、あいにくと辺境にはそのための技術も施設もない。もしも使えたならば大きな都ふたつ分ぐらいの運営を余裕で賄えるのだが、ないものはしょうがない。宝の持ち腐れになるので、とっとと売りさばく。
「ふん、せいぜい中央の連中に高くふっかけてやるさ」
とはリワルド王の談だ。
多大な犠牲を払ったものの、戦は勝利に終わった。
施政者としては、いつまでもうつむいているわけにはいかない。
悲嘆に暮れることも、立ち止まることも許されない。
それが王という厳しい立場であった。
そしていまひとつの探し物なのだが――
「ジャニス隊長、いましたーっ!」
発見の報告を受けて、ジャニスはすぐさま駆けつける。
瓦礫に半ば埋もれていたのは飛梅さんである。
すぐさま掘り起こしたものの、彼女は左腕を失っており、全身が裂傷や刺し傷にてボロボロにて、いくら呼びかけてもぴくりともしなかった。
「――っ! やはり枝垂殿があんな状態になったから、星のチカラが失われて彼女も……」
まるで魂が抜けたかのよう。
動かなくなった木偶人形を前にして、唇を噛みしめる部下をジャニスが叱責する。
「根拠のない憶測でものを言うな! まだそうと決まったわけではない。とりあえず枝垂のもとへ運ぶぞ。そっとだ。丁寧に扱えよ」
担架を用意して、すみやかに回収作業に入る隊員たち。
それを見届けながらジャニスが思い返していたのは、あの時の光景である。
地上にて星が瞬き、放たれた一撃。
枝垂の射出した巨大な種は、見事に女王の頭部を撃ち抜き、洛陽水晶体を破壊することに成功した。
だが、それと引き換えに枝垂の右腕は木っ端みじんに吹き飛んで、右半身にも重篤な損傷を負うことになる。
一撃を見舞ったあと……
枝垂は立ったままで気を失っていた。
いや、より正しくは狙いがぶれないようにと、みずから両足を瓦礫の隙間に突っ込んで倒れないようにしていたのだ。そのせいで両足は複雑骨折にて、骨の一部が皮膚を突き破って無惨にも露出していた。
ろくに戦う術を持たず、非力にて、触れればたやすく折れるような虚弱の身にありながら、身命を賭してみんなを救ってくれた星クズの勇者――その有り様にジャニスは深く感銘を受けるとともに、忸怩たる想いをも抱かずにはいられない。
本来ならば戦士である自分こそが、剣となり盾となって守らねばならなかったのに、その役目を満足に果たせなかったことが悔やまれる。
枝垂はあまりの重傷ゆえに現場ではとても対応できず。全身凍結処理が施されて、すぐに都の病院へと搬送された。そちらには回復したエレン姫が付き添っている。
一方で動けるジャニスは志願して、都市の廃墟に来ていた。枝垂のことは心配だが、自分が側にいてもしてやれることは何もない。ならば、せめていまだに還らぬ仲間を迎えに行くことにしたという次第。
「さて、ここに飛梅さんがいたということは、きっと近くにデカい欠片が落ちているはずだ。そいつを見つけて、とっとと引きあげるぞ」
運ばれていく戦友を見送りつつ、ジャニスは号令にて回収作業を再開した。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる