星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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059 神の一粒

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 ジャニスによって運び込まれた飛梅さんを目にして、エレン姫とマヌカは絶句する。
 それほどまでに酷い状態であったのだ。
 生気をまるで感じられず、いまにも崩れてしまいそうな、壊れた人形といった痛ましい姿にて……
 だというのにである。
 不思議なことに、凍結処置を施された枝垂がいる部屋へと入るなり、これまでぴくりともしなかった飛梅さんが動き出す。
 とはいえ、立ち上がるほどのチカラはない。仰向けに寝たままにて、わずかに首をひねっては、残っていた右腕を懸命にのばし、指の欠けた手を差し込んだのは亜空間だ。枝垂と共有している収納「梅蔵」である。
 しばらくがさごそと漁り、取り出したのは一粒の梅干し。
 それは淡く黄金色の輝きを帯びた、世にも稀なる品であった。
 飛梅さんは取り出した黄金の梅干しをエレン姫に渡し、枝垂の方を指差したところで力尽きたのか、それきりまた動かなくなってしまった。

  ☆

 どれだけ察しの悪い者でも、飛梅さんが「黄金の梅干しを枝垂に食べさせろ」と伝えたかったことはすぐにわかるだろう。
 だがしかし、エレン姫たちはたいそう頭を悩ませることになる。

「どうやって食べさせたらいいの? 枝垂はこんな状態なのに」

 託された梅干しはけっこう大粒である。
 頬張れば口いっぱいとなり、そのまま突っ込んだら確実に喉を詰まらせるだろう。
 立派な特大サイズであった。手の平にのせればずしりと重く、それはもう見事なほどの果肉っぷり。風格、大きさ、雰囲気は貫禄たっぷりにて、他の梅干しの追随を許さない。あの南高梅の最高級品ですらもが、これを前にすると霞むほどである。
 南高梅を梅干しの王者とするならば、黄金の梅干しは神の一粒であるかのごとし。
 だがそれゆえに死にかけの患者には、いささかヘビー過ぎる逸品であった。

「ポーションとかの飲み物ならば、口移しというのが定番なのでしょうけど」
「だったら梅干しもくちゃくちゃ噛み砕いて離乳食みたいにしてから、与えてみるとか」
「うっ、それはさすがにちょっとイヤかも……」
「っていうか、それでも飲み込めるのだろうか」
「ずいぶんと立派な梅干しですものねえ」
「案外、するりと飲み込めちゃうのかも。こう、なんていうか不思議パワーみたいなので」
「いやいや、さすがにそれは無理があるのでは?」
「与えるにしても、凍結処置を解除してからのことだし、短時間で済まさないと」
「いっそのこと直接、胃にぶち込むとか」
「どうやって?」
「腹をこう、剣でかっ捌いて」
「あー、それなら私の闇魔法と、エレン姫さまの光魔法があればどうにかなるかも」
「「おぉ、それだ!」」

 エレン姫の光魔法にて枝垂の体内をスキャンして、胃の正確な位置を探り、座標が定まったらマヌカの闇魔法にて転移門を設置し、これを通してジャニスが体内に直接ブツを放り込む。
 この方法であれば凍結処置を解除することも、患者の負担となる開腹手術をする必要もなく、かつ短時間でことを済ませられる。
 かくして三身一体による「黄金の梅干し投入作戦」が決行されることになった。
 その詳細についてはサクっとはしょることにして……

 黄金の梅干しを投入されたとたんに、枝垂の身には劇的な変化が生じた。
 もちろん、いい意味にて。
 それにともなって飛梅さんの身にもみるみる変化が起きた。全身に負っていた傷がたちまち塞がったばかりか、欠損していた部位までにょきっと生え揃っては、すちゃっと立ち上がって再起動する。
 枝垂もすっかり元通りになった。
 失われた右腕や手の甲の六芒星に「梅」の刻印もそのままに。
 いろいろと疑問は残るものの、それでも星クズの勇者は助かった。やれやれである。
 姫たちはほっと胸を撫で下ろし安堵したものである。
 けれども、そんな星クズの勇者はいっこうに目を覚ますことはなかった。
 三日経ち、七日経ち、十日を過ぎても、起きる気配はまるでない。
 枝垂は昏々と眠り続けた。

 だからエレン姫たちは、寝たままの枝垂を連れて帰国の途につくことにした。
 なぜなら中央からやってきた先遣隊はともかくとして、あとから連合軍の調査団がイーヤル国を来訪することが判明したからである。
 今回の赤霧との戦いの一件……、いろいろと気になる点アリにて、早々に派遣が決まったとのこと。
 まぁ、あれほどの大きさの洛陽水晶体が回収されたのだから、その持ち主のことや、そんなのを相手にしていかに勝利したのか、とか。
 とどのつまり、このままイーヤル国に残っていたら、面倒ごとに巻き込まれることは必定にて、その前にとんずらしようということ。
 その辺のことはリワルド王も心得たもので「あとのことは任せておけ。中央のぼんくらどもぐらい、適当にあしらっておく」と後事を引き受けてくれた。
 こうして枝垂は寝たままでの凱旋となり、目覚めるまでに三十三日もの日数を必要としたのであった。


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