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080 紫イモ貯蔵庫防衛戦 起
しおりを挟むいまやマンモスほどにも成長した赤べこが、怪獣映画さながらに城内で暴れている。
立ち塞がる者どもを蹴散らし、壁を壊し突き進み向かうのは、西区にある紫イモがうず高く積まれた貯蔵庫である。
貴重な輸出品をむざむざ食わせてなるものかと、ロバイス王みずからが陣頭に立ち、総力戦の構えにてこれに立ち向かう。
獅子王がばさりと羽織っていたマントを脱ぐ。
「おのれ、いきなりあらわれたとおもったら、好き放題に暴れおってからに。儂が足止めをしておく。その間にジャニスらは砲撃の準備を整えよ」
言うなり漆黒の鬣(たてがみ)が雄々しく逆立ち、黄金色を帯びる。
両腕にナックルガードを装着したロバイス王、その全身が眩く輝いたとおもったら、ひと筋の閃光が戦場を駆け巡る。
ロバイス王の魔法属性は光――自身が光の矢となりて敵を討つ。
ガンッ!
正面からまともに光の拳を受けて、赤べこの進軍が止まった。
その巨体の回りを閃光が激しくジグザクに飛び回っては、次々と拳打や蹴撃を見舞う。
ガガガガガガガガガガッ!
無数の光撃が降り注ぎ、赤べこの身へと突き刺さる。
凄まじい連撃と猛攻を受け、さしもの赤べこの強靭なカラダもへこみや傷が増えていく。
だがそれをもってしても押し切れない。倒れるまでには至らない。
ばかりか、傷がみるみる修復していくではないか!
赤べこは耐魔法、耐物理だけでなく、自己修復能力をも兼ね備えており、ロバイス王が与えたダメージがたちまちなかったことにされてしまう。
それでもロバイス王は攻撃の手を止めない。
するとここでロバイス王に加勢があらわれた。
ディラ妃である。甲冑を着込み、手には長柄の戦槌を持っており、それを豪快に振り回しては赤べこの横っ面を、思い切りぶん殴る。
ゴンッ!
暴力的な音が鳴り響いたとおもったら、直後に当てた箇所にて小爆発が、ドッカン!
ディラ妃の魔法属性は火、そして愛用の戦槌は火属性の魔力を注ぎ込むことで、打撃と共に爆撃をも対象に与える優れ物。ただしかなり重たく反動もあるので、取り回しはかなり難しい。
そんな武器をまるで手足のように扱っては、ディラ妃が華麗に舞い、赤べこに次々と痛打を見舞う。
白と赤の共演、閃光と紅蓮が折り重なっては怒涛の攻撃。
王と王妃の息の合ったタッグ攻撃を受けて、さしもの赤べこも押されて首をフリフリ後退する。
そのタイミングで「準備が整いましたっ!」とのジャニスの声が自陣の方から聞こえきたもので、ロバイス王はすかさずディラ妃を抱きかかえて戦線を離脱した。
入れ違いに火を噴いたのは大砲である。
本来ならば城壁の上から外敵目がけて撃つモノを、水平かつ至近距離にてぶっ放す。
ドォオォォォォォォォォン!!
砲弾の直撃を顔面に喰らった赤べこ、首がぐわんぐわんと大きく揺れて、ついに片膝をついた。
「よしイケるぞ、効いてる。続けて第二砲門、放てっ! 平行して次弾装填も急げよ。ここでいっきに畳みかけるぞ」
ジャニスの指示にて、砲撃隊の隊員らが動き、ふたたび大砲が放たれた。
城壁から運び込まれた砲はふたつ、二門を交互に放つことで、間断なく砲撃を撃ち込む。
本音を云えば、もっと砲を集めて集中砲火にていっきに対象を殲滅したいところだが、忘れてはならないのが、ここが城内だということ。選べる手段と使える火力には限度がある。
第二射も着弾、今度は左胸部に当たった。赤べこの身が爆炎と黒煙に包まれる。砲撃を受けた箇所が大きくへこんでいる。だが、破壊するまでには至らず。
そこでジャニスは砲撃隊に「弾を替えろ」と命じる。
破壊力よりも貫通力を重視した弾丸にて、まずは一穴を穿つ。
いかに赤べこが強固とて穴さえ開けば、あとはどうとでもなるとの算段だ。
「ジャニス隊長、装填完了しました」
「よし、撃てーっ!」
轟音と共に放たれたのは、アーモンドの形に似た徹甲弾にて、風魔法による回転と火魔法による強力な突進力を誇る。弾体が爆ぜることなく健全なまま侵徹が生じるので、繰り返し使えてお財布に優しいタイプのもの。ただし、よく飛ぶもので回収作業が大変だけれども。
照準を合わせるのは赤べこの胸元だ。
ここに当たれば胴体を貫き串刺しとなる。
狙いあやまたず、放たれた徹甲弾は真っ直ぐに赤べこの胸部中央へと吸い込まれていく。
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