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127 寄生獣

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 ゴゴゴゴゴゴ……

 不気味な地響きとともに魔法陣よりあらわれたのは、巨人の左腕であった。いくつもの岩が寄り固まったかのような形をしている。
 眩い光の柱からぬぅんと腕がのびた。
 とおもったら、いきなりズドン!
 握った拳を枝垂へと目がけて無造作に振り下ろす。
 あわやのところを間一髪で飛梅さんが救出する。なおフセは我先にと逃げていた。

 左腕に続いて右腕があらわれ、ついには広い肩幅とぶ厚い胸元も姿をみせる。
 戦闘用ゴーレムに似た容姿だが、あれよりもずっと大きい。あちらはせいぜい三メナレぐらいの背丈であったが、こちらは優に十五メナレを越えていた。
 見た目は鈍重にて、フォルムもダヤ国のゴーレムに比べればかなり野暮ったい。
 かつてイーヤル国の窮地に駆けつけたダヤ国が率いてきたゴーレムたちは、見た目はまんまロボットでカッコよかった。汎用性が高く、機動性とパワーを兼ね備え、それはもう頼もしい味方であった。
 けれども、いま目の前にそびえ立つコレは、たんなる岩のヒト型といった感じ。
 はっきりいってデザインはクソダサい。

 まぁ、それはさておき――

「……妙だね。ゴーレムの操作には地属性が必須のはずなのに」

 枝垂は疑念を抱く。
 グレゴリーの星のチカラは「隷属」にて、動物や禍獣などを使役するというもの。
 ゴーレムは人工物である。生成および運用には地魔法が不可欠だ。
 またギガラニカの世界には、鉱物系の生物は存在していない。
 かつては鉱人なる人種がいたが、原始の星骸との闘いにて消滅したパピロスペタァルと運命を共にしている。
 とどのつまり、グレゴリーにゴーレムもどきを操れる道理がないということ。
 でもげんに、こうして召喚しては動かしている。
 いったいどうして?
 そこんところ、教えてグレゴリー先生!

 枝垂がダメ元でへりくだり揉み手でお願いしてみたら、グレゴリーはあっさり教えてくれた。ちょっとおだてるだけで口が軽くなる。グレゴリーはけっこうチョロかった。

「いいだろう、冥途の土産に教えてやる。たしかに俺の能力ではゴーレムは操れない。だからとてすぐに諦めるのは早計だ。愚か者のすることよ。
 その点、俺は賢いからな。使えないのであれば、使えるようにすればいいだけの話だ。
 だから俺はまず寄生獣スネカジリシャブリを使役して、これをゴーレムに移植することにした」

 寄生獣スネカジリシャブリとは――
 対象に寄生してはおんぶに抱っこ、憧れのスネかじり生活を満喫し、悠々自適に暮らす生き物である。
 細いヒモ状の形をしており、ほんのわずかな隙間からでも体内にニョロニョロ侵入しては、対象にとり憑く。
 とはいっても、基本的に害はない。
 なぜなら宿主に無茶をさせたら、被害をこうむるのは寄生している自分だからだ。
 どうせならば末永くお世話になりたい。これでも分はわきまえている。
 ゆえに宿主に影響の及ばない範囲にて、チビチビおこぼれにあずかっては、ダラダラしているだけの健全なごく潰しである。
 これは生涯激務に追われたさる大国の宰相が、いざ死を迎えるにあたって残した言葉だ。

『あぁ、もしも次に産まれてくるのならば、わたしはスネカジリシャブリになりたい』

 そんな寄生獣にグレゴリーは着目した。
 これを支配下に置くことで、間接的にゴーレムを使役するというトンデモナイ方法を考えついたばかりか、ついには実現させる。
 だがしかし、上はそれを召喚することを禁じていた。
 ではどうしてグレゴリーの寄生先、もといお世話になっているラグール聖皇国が「出すな」と命じていたのか?
 答えは先ほどグレゴリー自身が口にしていた。

 岩の巨人、暴走!

 最初のうちこそはおとなしくグレゴリーの指示に従っていたものの、じきに言うことを聞かなくなって勝手に暴れ出した。手当たり次第に破壊する。
 どうやら間に寄生獣を一枚かますことで、制御が甘くなるせいらしい。スネカジリシャブリの自我がグレゴリーの指令より勝る。
 舞台の石床を叩き壊すわ、引っぺがすわ、掴んだ破片を客席目がけてぶん投げるわ、ドスンバタンと跳んだりはねたり、しまいにはあまりにも腕をぶん廻し過ぎたせいで自重に耐えかねてボキリ、折れて千切れた腕が天井をも突き破ってしまう。
 会場は半壊にて阿鼻叫喚、大パニックに陥った。
 こうなるともう試合どころではない。

「あーあ、どうすんの、これ?」

 呆れ顔の枝垂は、飛梅さんに小脇に抱えられての回避行動中である。
 元凶のグレゴリーはキャアキャア逃げ惑うばかりで、てんで頼りになりそうにない。
 でもってフセは……どさくさに紛れて、飛梅さんが片手でのしたコンベアをむしゃこらしていた。


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