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169 異世界フィッシング

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 すでにご存知のとおり、コウケイ国は離島である。
 地球の五大陸にムーやらアトランティスなどの幻の大陸を合わせたものよりも、ずっともっと広大なギガラニカ大陸。
 そこの北北東の端っこにあって、大きさはちょうど淡路島ぐらい。
 三十九ヶ国中で、もっとも小さい国だ。
 とはいえ、島内にはひとしきり生活するのに必要な環境が揃っている。

 さすがに大型タンカーは係留できないけれども、わりと使い勝手のいい港湾。
 優れた漁場のある、わりと穏やかな近海。
 奥まで行くとヤバいけど、恵み豊かなジェホホウダンの森。
 天狼オウランがおわしますオウラン山地。
 胡散臭い女神さまっぽい何かが住んでいるけれども、水中花が年中咲いている透明度の高い湖で、豊富な水量にて島民たちの暮らしを支えてくれているハナ湖。
 城内庭園および島内に点在する枝垂の梅林。
 王城の地下から大陸方面へとのびている青の洞窟、その中間地点にある海底大空洞に住むハチノヘの巣と、そこに生えている聖梅樹。
 カーラスたちも大好物、甘くてホクホクした紫イモがよく育つ土壌。

 ――水も空気もよく、食べ物も美味しく、なにより島民らがのんびりしておりおおらか。ときおり田舎でみられる排他的な面もなく。
 都会ほど便利ではないが慎ましやかに暮らす分には、とても快適である。

 だがそんな慎ましやかな領土ゆえに出現する禍獣は、あまり強くない。
 あらわれるのは青銅、赤胴、黒鉄ぐらいの等級まで。
 赤胴級ぐらいまでならば腕っぷしの強い一般人でも対処可能だ。黒鉄級以上となると軍人やイルノートに所属するハンターら、戦闘や狩りのプロの出番となる。

 コウケイ国内でもいちおう、強い禍獣が生息しているとおぼしき危険地帯はある。
 三層構造になっているジェホホウダンの森だ。そこの最深部である第一層まで踏み込めば、飛空艇の動力に使える輝石を持つ禍獣がいるかもしれない。
 が、この森は下手に刺激すると反発して氾濫を起こすから、不用意に踏み込めない。
 あとは島の周囲に広がる海である。
 本土から遠ざかり、沖へ沖へと向かうほどに狂暴な海洋生物がうようよ。その中には禍獣も混じっている。
 島内に比べれば遥かに多く、ばかりか本土を探し歩くよりもずっと高確率で遭遇できることであろう。

 しかし海の禍獣には、いろいろと問題がある。
 まず単純に強い。
 外洋の荒波や深海にて自在に動ける海の禍獣は強力にて、例えば黒鉄級は黒鉄級でも、限りなく白銀級に近い上位種と考えるのが妥当である。でもって白銀級といえば災害レベルで、国で対処するような相手だ。

 地の利も当然ながら海の禍獣にある。海中での戦闘となれば、まず勝ち目がない。
 それらを愛と勇気と知恵で乗り越えて、どうにか退治に成功したとて、すぐにぶくぶく海の底へと沈んでしまうので、死体や輝石を回収するのが至難となる。
 散々に苦労した挙句に、回収寸前に横から掻っ攫われるなんてこともある。
 海は陸以上に弱肉強食の世界なのだ。
 だがそれゆえに、上等な輝石も手に入りやすいと言えなくもないのだが……

  ☆

 現在、枝垂と飛梅さんは島から離れた海上にいた。
 枝垂らが身を預けているのは天狼オウランの逞しい背中である。
 黄金級の禍獣にして伝説の神獣でもあるオウランは、気のいい老オオカミにて枝垂の……というか、これはエレン姫からのお願いなのだけれども。

「飛空艇を新しく作るので、動力に使える輝石を海からとってきて欲しい」

 という無茶ぶりを枝垂はされた。
 ではどうして枝垂にそんな無茶ぶりをしたのかとえば、枝垂の交友関係をアテにしてのことであった。

 そこで菓子折り持ってオウランにお願いしてみたら「いいぞ。そのかわり完成したら乗せてくれ。あとタンカーとやらも見てみたい」という交換条件により、快く引き受けてくれたという次第。

 では、どうやってゲットするのか?

 その方法は釣りである。
 さすがのオウランも「素潜りはちょっと。海水は毛がべたついて生臭くなるから濡れたくない」とおっしゃった。
 だから釣り竿を垂れて、エサに誘われてきたところでレッツ・フィッシング!
 ざっぱーんと獲物が海上に姿を見せたところを、オウランがスパッと殺ってくれる手筈となっている。
 ちなみにエサは枝垂特製の超高級梅干しだ。

「いやいやいや、さすがにこれじゃあ普通の魚も釣れないでしょう。
 それに昔から釣りに、梅干しはよくないって聞きますよ。
 ほら、食あたりを防ぐから、アタリがちっともこない、釣れないとかなんとか」

 という枝垂に、オウランは真顔で言った。

「釣るのは禍獣じゃろ? じゃったら問題ない。なにせ枝垂の梅干しは黄金級のワシですらもが、垂涎のシロモノだからな」

 それって味うんぬんの話じゃなくて、違う意味でヨダレが溢れているだけのような……
 枝垂は半信半疑にて釣り竿を垂らす。
 すると本当にアタリがきたーっ!


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