星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
197 / 242

197 潜入工作

しおりを挟む
 
 夜明け前の瑠璃色の世界にて。
 朝霧煙る中にまぎれては、シュタタタタ……
 泳ぐようにして素早く移動していたのはコウケイ国一行である。一列となり、まるで一匹のヘビのごとく統率された動きにて大地を疾駆する。
 地上を徒歩にて向かっていたのは、北東部の石渓地帯に陣取っているファクトリーのところだ。
 ただいま、潜入工作の真っ最中である。

「トホホ、種の調査に来ただけなのに、どうしてこんな危ないことまでするハメに……」

 嘆く枝垂は、飛梅さんに背負われて移動している。
 一行はみな健脚にて身体強化も使える。
 虚弱な星クズの勇者の足ではついていけないのだからしょうがない。
 でもって、今回フセに乗っていない理由は、前回の乗馬ならぬ乗赤べこによって、お尻と股関節に重篤なダメージを負ったからだ。
 尻の皮がめくれただけでなく、坐骨神経痛もやった。
 かつて経験したことのない痛みに、枝垂は「あんぎゃあ」と悶絶した。
 さいわいなことにエレン姫の光魔法による治癒ですぐに回復したけれども、枝垂は「せめてクッションを用意しておくんだった」とおおいに反省する。

「しっ! そろそろ目標が見えてくるぞ」

 ジャニスから叱責されて、枝垂は慌てて口をつぐんだ。
 霧の向こうに薄っすらと浮かぶ陰影が、じょじょに濃く大きくなっていく。
 いよいよファクトリーの姿が明らかとなった。
 不意に先頭を行く隊員が左腕をサッと横にのばす。

 ――止まれの合図だ!

 みなすぐさまその場にしゃがんでは、大地に張りつき気配を消す。
 視線の先では、クルマのヘッドライトのように目を光らせながら連れ立って歩く鬼胡桃の小集団の姿あった。
 守備隊の見回りだ。
 静かに身を潜めて、これをやり過ごす。
 見回りの姿が完全に見えなくなったところで、ふたたび一行は動き出した。

  ☆

 軍勢を動かせばファクトリーはこれに反応する、それも過剰に。
 こちらが大規模攻勢をかければ、あちらもそれに対抗しようと激烈に動く。
 反面、先の一敗地に塗れた戦いの前にファクトリーへと潜入した斥候部隊は、さほど警戒されることなく接近できたばかりか、ざっとながらも内部の様子を探ることにも成功した。
 このことからファクトリーの防衛機構は、仕掛けてくる相手に合わせた戦い方をしてくることが窺える。

 対ファクトリー戦では、大規模での軍事行動は悪手となる。
 だから特殊部隊にて潜入し、落陽水晶体を壊すなり回収するなりしてから、相手の動きを封じたのちに、残存兵力を結集し決戦を挑むべし。
 と、上層部は判断した。
 ただし、この作戦にはひとつ問題があった。
 それはこの戦いの行方を左右するであろう重要な任務を遂行しうる精鋭が、先の敗戦のおりに死亡したり負傷したりしており、満足な数を揃えられないことである。
 各国の派遣軍から選りすぐりを集めて、どうにか一部隊は揃えられたが、倒すべき敵は二体いる。これでは片手落ちだ。
 ならば一体ずつ、着実に討伐していけばいいのだけれども、これまでの敵の動向からすると生じるタイムラグが怖い。
 どうやってやりとりをしているのかは不明だが、ある程度の情報を共有していることは、二体の守備体勢が酷似していることから、容易に推察される。
 よって片方を討伐したところで、すぐさまもう一方に対策をとられる可能性が高い。

 ゲンウッドのゼニーゲバルトは寄り親であるムクラン帝国を通じて、連合軍に援軍と星の勇者の派遣を要請しているが、距離があるので準備をしてから到着するまでには速くても七日前後はかかる。
 その間にも鬼胡桃たちは量産され続けているばかりか、きっとファクトリー自身も強化拡張されることになるだろう。
 時間の経過は敵に利する。
 事態は一刻を争う。
 潜入するならば、いましかない。
 なのに肝心の駒があと一つ足りない。

 そこで白羽の矢が立ったのが枝垂たちであった。
 なんといってもコウケイ国一行は、イーヤル国での対赤霧戦の死闘を制した実績を持ち、星クズ判定ながらも連合評議会の親善試合では目覚ましい活躍をした枝垂を有している。なにより無傷にて戦力を温存している。
 ことここに至っては、もはや傍観者を気取っているわけにもいくまい。外交上の問題もある。
 コウケイ国一行を率いるエレン姫は協力要請を受諾した。

  ☆

 ドンッ! ドンッ!

 発射されたのは、ファクトリーの煙突が変形した長距離砲だ。
 狙われたのは飛空艇ヒノハカマである。
 わざと機影を敵前にさらしての遊覧飛行は囮である。
 こうしてファクトリーの注意を空へと向けているうちに、地上部隊がいっきに近寄り潜入する。

 じきに砲撃は止んだ。
 囮の役割りを終えた飛空艇が遠ざかっていったからだ。
 枝垂たちはまんまと見張りの目を掻い潜り、ファクトリー内へと侵入することに成功した。
 油と鉄とサビのニオイが入り交じったものが漂う敷地内、斥候部隊が調べて作成した簡易地図を頼りに、枝垂たちは最寄りの落陽水晶体へと向かった。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...