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197 潜入工作
しおりを挟む夜明け前の瑠璃色の世界にて。
朝霧煙る中にまぎれては、シュタタタタ……
泳ぐようにして素早く移動していたのはコウケイ国一行である。一列となり、まるで一匹のヘビのごとく統率された動きにて大地を疾駆する。
地上を徒歩にて向かっていたのは、北東部の石渓地帯に陣取っているファクトリーのところだ。
ただいま、潜入工作の真っ最中である。
「トホホ、種の調査に来ただけなのに、どうしてこんな危ないことまでするハメに……」
嘆く枝垂は、飛梅さんに背負われて移動している。
一行はみな健脚にて身体強化も使える。
虚弱な星クズの勇者の足ではついていけないのだからしょうがない。
でもって、今回フセに乗っていない理由は、前回の乗馬ならぬ乗赤べこによって、お尻と股関節に重篤なダメージを負ったからだ。
尻の皮がめくれただけでなく、坐骨神経痛もやった。
かつて経験したことのない痛みに、枝垂は「あんぎゃあ」と悶絶した。
さいわいなことにエレン姫の光魔法による治癒ですぐに回復したけれども、枝垂は「せめてクッションを用意しておくんだった」とおおいに反省する。
「しっ! そろそろ目標が見えてくるぞ」
ジャニスから叱責されて、枝垂は慌てて口をつぐんだ。
霧の向こうに薄っすらと浮かぶ陰影が、じょじょに濃く大きくなっていく。
いよいよファクトリーの姿が明らかとなった。
不意に先頭を行く隊員が左腕をサッと横にのばす。
――止まれの合図だ!
みなすぐさまその場にしゃがんでは、大地に張りつき気配を消す。
視線の先では、クルマのヘッドライトのように目を光らせながら連れ立って歩く鬼胡桃の小集団の姿あった。
守備隊の見回りだ。
静かに身を潜めて、これをやり過ごす。
見回りの姿が完全に見えなくなったところで、ふたたび一行は動き出した。
☆
軍勢を動かせばファクトリーはこれに反応する、それも過剰に。
こちらが大規模攻勢をかければ、あちらもそれに対抗しようと激烈に動く。
反面、先の一敗地に塗れた戦いの前にファクトリーへと潜入した斥候部隊は、さほど警戒されることなく接近できたばかりか、ざっとながらも内部の様子を探ることにも成功した。
このことからファクトリーの防衛機構は、仕掛けてくる相手に合わせた戦い方をしてくることが窺える。
対ファクトリー戦では、大規模での軍事行動は悪手となる。
だから特殊部隊にて潜入し、落陽水晶体を壊すなり回収するなりしてから、相手の動きを封じたのちに、残存兵力を結集し決戦を挑むべし。
と、上層部は判断した。
ただし、この作戦にはひとつ問題があった。
それはこの戦いの行方を左右するであろう重要な任務を遂行しうる精鋭が、先の敗戦のおりに死亡したり負傷したりしており、満足な数を揃えられないことである。
各国の派遣軍から選りすぐりを集めて、どうにか一部隊は揃えられたが、倒すべき敵は二体いる。これでは片手落ちだ。
ならば一体ずつ、着実に討伐していけばいいのだけれども、これまでの敵の動向からすると生じるタイムラグが怖い。
どうやってやりとりをしているのかは不明だが、ある程度の情報を共有していることは、二体の守備体勢が酷似していることから、容易に推察される。
よって片方を討伐したところで、すぐさまもう一方に対策をとられる可能性が高い。
ゲンウッドのゼニーゲバルトは寄り親であるムクラン帝国を通じて、連合軍に援軍と星の勇者の派遣を要請しているが、距離があるので準備をしてから到着するまでには速くても七日前後はかかる。
その間にも鬼胡桃たちは量産され続けているばかりか、きっとファクトリー自身も強化拡張されることになるだろう。
時間の経過は敵に利する。
事態は一刻を争う。
潜入するならば、いましかない。
なのに肝心の駒があと一つ足りない。
そこで白羽の矢が立ったのが枝垂たちであった。
なんといってもコウケイ国一行は、イーヤル国での対赤霧戦の死闘を制した実績を持ち、星クズ判定ながらも連合評議会の親善試合では目覚ましい活躍をした枝垂を有している。なにより無傷にて戦力を温存している。
ことここに至っては、もはや傍観者を気取っているわけにもいくまい。外交上の問題もある。
コウケイ国一行を率いるエレン姫は協力要請を受諾した。
☆
ドンッ! ドンッ!
発射されたのは、ファクトリーの煙突が変形した長距離砲だ。
狙われたのは飛空艇ヒノハカマである。
わざと機影を敵前にさらしての遊覧飛行は囮である。
こうしてファクトリーの注意を空へと向けているうちに、地上部隊がいっきに近寄り潜入する。
じきに砲撃は止んだ。
囮の役割りを終えた飛空艇が遠ざかっていったからだ。
枝垂たちはまんまと見張りの目を掻い潜り、ファクトリー内へと侵入することに成功した。
油と鉄とサビのニオイが入り交じったものが漂う敷地内、斥候部隊が調べて作成した簡易地図を頼りに、枝垂たちは最寄りの落陽水晶体へと向かった。
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