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203 泥火山
しおりを挟む資材置き場にて、次々と迫る敵勢を食い止め奮戦していたジャニス率いる隊員らと合流するも、そこでエレン姫たちは奇妙な光景を目撃することになる。
わらわら押しかけていた鬼胡桃たちが、みなブルブルブル……
まるでスマートフォンのバイブ機能のような動きにて、立ったまま震えているではないか。
ボロボロの着ぐるみたちが、ぼんやり天井を見上げては呆けてブルブルしている姿は、なかなかにシュールである。
「ジャニス、これはいったい何ごとですか?」
「おぉ、エレン姫さま、枝垂たちもよくぞご無事で。それが私にも何が何やら。先ほどまで元気よく暴れていたのですが、そろって急にこのようになってしまって」
「え~と残土穢のときは、ボスを倒したらザコたちはすぐに活動を停止したんでしたっけ?」と枝垂。
「あぁ、あの時はたしかにそうだったのだが……」
ジャニスも戸惑っている。
確認された三つの落陽水晶体はすべて回収された。
共生関係であろう識別名称・天穴(てんけつ)も倒した。
鬼胡桃の生産に必要な素材を供給するラインも塞いだので、以降生産数は右肩下がりに減少していくはず。
ファクトリー自身もまたゴゴゴと唸りながらガタガタ身震いをしており、敵の攻勢は止んだ。
なのに不気味な蠢動は続いている。ただならぬ気配で、獣人たちの毛がちょっと逆立っているほどである。
「……どう考えても、よいことが起きる前触れとはおもえません。目的は達しました。すみやかに撤退しましょう」
エレン姫の言葉にみなうなづいた。
☆
コウケイ国一行は最寄りの建物より屋上へと出た。そこから屋根伝いに敷地の外を目指す。
そうしている間にも、ずんずんと膨れあがるばかりであったのは、不安だ。
まるで地の底からせり上がってくるかのよう。
星クズの勇者である枝垂に備わった危機察知能力が、先ほどからずっと激しく警鐘を鳴らしっぱなしである。
一刻もはやくこの場を離れた方がいい。
時間が経つほどに予感が確信へと変わっていく。
だから帰路はショートカットをする。
なお追撃はなかった。
じきにファクトリーの敷地からの脱出に成功した。
けれども一行は足を止めることなく、そのまま駆け続ける。
歴戦の勇士揃いであるがゆえに、みなおぼろげながら察していたのである。
ファクトリーの中から外へと出るだけでは足りない。『この場』から離れるのではなくて『この地』から出来るかぎり離れるべきであると。
枝垂たちが潜入していたファクトリーは北東部の石渓地帯にあった。
だから脱出に際して、コウケイ国一行は石の斜面を下ることになるのだけれども、ちょうど麓まできたところで、エレン姫が急に進路を東にとるように指示を出す。
そちらは小高い丘になっており、いったん登ることになる。それだけ進軍速度が落ちる。
にもかかわらず、あえてこちらを選んだ理由を枝垂たちが知ったのは、丘を越えてからのことであった。
激しい地響きとともに大地が上下し、勢いよく噴き出した灼熱の炎柱が天を貫く。
もの凄い爆発音が轟き、一帯に暴風が吹き荒れる。
ファクトリーが自爆したのだ!
脱出に手間取っていたらと想像するだにゾッとする。
けれども枝垂たちをさらに戦慄させたのは、直後にファクトリーがあった場所からゴボゴボと溢れ出した泥である。
ガスと熱を宿す大量の泥たちが、あっという間に乾いた石渓を満たし濁流と化す。
まるで泥火山(でいかざん)であった。
もしもあのまま素直に麓の谷沿いを進んでいたら、間違いなく一行は呑み込まれて全滅していたことであろう。
エレン姫の機転により助かった。
でも、姫さまはどうして急に進路を変えたのか?
枝垂が訊ねると、エレン姫はこう答えて肩をすくめた。
「さすがに泥が噴き出すとは予想できなかったわ。ただ、あのままファクトリーで何かあれば地形上、麓の方は危険だとおもったのよ。
その点、丘を越えればこれが壁になって少なくとも背後は守られるもの」
落石に土石流、地すべりすらも起こりえる。
そう判断したからこその、この行動。
あの場面で冷静に状況を見極めるとは……
枝垂は脱帽するしかない。
おかげで全員が無事に窮地を脱したわけだけれども、それにしても今回の赤霧はいささか異常ぶりが目立つ気がする。いかに超常の存在とはいえ、あまりにもムチャクチャだ。
赤霧――
その異形は赤い霧とともにやって来る。
この世のモノではない。
とはいえ妖やら怪異の類なんぞではなくて、これまた地球からのお漏らしである。
ようは星骸になり損ねた滓(かす)にて、赤い霧は光化学スモッグみたいなもの。
赤い霧は荒野に発生しやすいが、各地でもときおり出現しており、その際に霧の彼方よりあらわれるのが赤霧と呼ばれる異形である。
ここにきて赤霧が過去に例がないほどに、より強力かつ強大化している。
それすなわち地球側にて、何かとてつもない変事が起きているということ。
いったいむこうで一体何が起きているのか?
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