星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
208 / 242

208 終焉を告げるラッパは鳴らされた

しおりを挟む
 
 世界屈指のグローバル企業「UME」の総帥・馬酔木一華(あせびいちか)は枝垂の種ちがいの妹である。
 一華は兄や弟などに強い執着心を抱いたり、独占欲を持つブラザーコンプレックスの持ち主であった。
 しかし一定の年齢になるまで、そのことをまるで自覚していなかった。
 己が重度のブラザーコンプレックスであることを知ったのは、突如として同居することになった兄・枝垂の登場による。

 枝垂は母と前夫との間にできた息子にて、一華とは異父兄となる。
 母は前夫とまだ幼かった我が子を捨てて、いまの夫のもとへと走った。
 いわゆる不倫だ。
 これで前夫の性格等に問題があればまだ救いがあったのだけれども、事実はそうじゃない。
 不逞を働いたのも、まるで後ろ足で砂をかけるようにして出て行ったのも、なにもかも放りだしたのもすべて母の方にて。
 しかも残酷なる言葉の刃でもって前夫を散々に罵倒して捨てた。
 相当にショックであったのであろう。前夫の心はこの時にいたく傷つき、数年後、ついに首をくくってしまう。
 それを発見したのは、小学校から帰宅した枝垂であった。

 母に捨てられ、父にも置いていかれた。
 残された遺児の枝垂は父方の祖父のもとに引き取られる。
 祖父は梅の木をこよなく愛するおおらかな人物にて、祖父との暮らしは傷ついた少年の心をおおいに癒す。
 しかしそんな祖父も枝垂が中学二年生の頃に他界した。
 ふたたびひとりとなった枝垂ではあったが、先行きはさほど不安ではなかった。
 父や祖父が残してくれた遺産がけっこうあって、枝垂ひとり生きていくのには十分であったからだ。
 とはいえ、まだ未成年なのでとりあえず施設にでも入って……

 そんな枝垂の前に突如としてあらわれたのが、自分を捨てて、実父を裏切り死へと追いやった張本人である。
 母は涙ながらにこれまでの不義理を詫びて、「いっしょに住もう」と言った。
 が――それは枝垂の手にした遺産目当ての芝居であった。

 かくして化かしあいの仮面家族ごっこが始まる。
 欲得づく、ウソで塗り固めた家庭は、傍目には幸せ一家のように映っていたが、内部にて渦巻く感情は、まるでドブ川の汚泥のごとし。
 けれども、そんな中にあって予想外な出来事が起きた。
 それが一華から枝垂への、妹から兄への恋慕である。
 本来であれば表に出ることのなかった一華の性癖が、降って湧いた枝垂との暮らしによって、いっきに開花してしまったのだ。

 一華はそうそうに両親を見限り、兄の側についた。
 彼女にとっては兄の枝垂こそが第一にて、それ以外はどうでもよかった。
 だというのに、そんな兄が忽然と消息を断った。
 白昼の高校から煙か霞のごとく、いきなり消え失せたのである。

 一華は死に物狂いで兄を探した。
 だが見つからない、見つけられない。
 ならばと一華は兄の遺産を元手にして資産運用をし、持ち前の才覚によりたちまち巨万の富を築くと、今度はそれを使って兄の行方を追うかたわら世界屈指のグローバル企業「UME」をも創設する。
 兄に対する妄執を原動力にして妹は突き進む。
 急成長を遂げた「UME」はさして時間をかけることなく、ありとあらゆる業界に触手をのばし、政財界に多大な影響力を持つようになった。
 そうして躍進しているうちにも一華はあらゆるアプローチでもって、消えた兄の行方を探し続ける。
 そしてついに、兄の失踪にはとある存在が関わっていることに気がついた。

  ☆

 ひとりの女の一途な狂気にて世界は踊る。
 情報をばらまき、資金を投入し、国をも欺き、人心を惑わし、世界中を巻き込み渾沌へと誘う。
 すべては一華の手の平の上であった。
 目的はもちろん神の手によって攫われた兄の奪還である。

 神隠し、その裏にいるであろう存在――便宜上、神と呼称している。

 自分の大切な人を奪った神なる存在を、一華は敵と定めた。
 だが相手は超常の存在である。ただの人の身では接触するのもままならぬ。
 そこで一華は、ただの人の身でもできる方法にて、神なる存在を自分の前に引きずり出すことに決めた。
 あり余る財や権力を用いて、仕掛けたのはメルトダウンである。
 世界中の原発が一斉に暴走を開始する。
 それにともない、ありとあらゆる通信チャンネルを通じて、世界中に配信されたのは、一華による犯行声明である。

『さぁ、神よ……選びなさい。私の願いを叶えるか、それとも人類を見殺しにして世界を滅ぼすのかを』

 一華は神の喉元へと刃を突きつけた。
 だがしかし、神は沈黙したままで応じず。
 そこで一華は「どうやらまだ私を侮っているみたいね。なら……」と手始めに、五大陸にてそれぞれ一つずつ原発を爆発させた。
 まさか本当にやるとはおもわなかった! 炉心溶融をおこし、原発の建屋の屋根が吹き飛び、もうもうと煙をあげる映像が配信されて、世界中が戦慄する。
 でも一華は止まらない。

「さぁ、世界の終焉を告げるラッパは鳴らされた。以後、十分おきにランダムで各地の原発をメルトダウンさせていきます。
 さて神とやら、はやくしないと手遅れになりかねませんよ」

 世界で稼働中の原子力発電所は四百基以上ある。
 いまさらながらに自分たちが、危険な檻の中で暮らしていることに世界中の人々が気がついた。滅びはすぐそばに……


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

処理中です...