225 / 242
225 驚天動地
しおりを挟む派生・破、獣型の星骸――
巨体で気性は荒いものの、大型禍獣の討伐に近しい戦闘内容になるので、きちんと準備さえ整えて対応すれば、さして苦労することなく倒せるといわれてきた。
さりとて相手は異世界から墜ちてくる脅威である。相応の犠牲をしいられるのがつねのこと、なのだけれども……
本陣を囮とし、敵の出現ポイントから進軍経路を特定する大胆な作戦の起用。
荒野の外縁部分にいくつもの線路を通し、連合軍の列車砲を多数配備。
対星骸兵装に特化した遠隔操作型の戦闘用ゴーレム部隊、クランコスタとドラゴポリスが共同開発した白銀のケンタウロス、ムクラン帝国の新造艦などの新兵器を惜しみなく投入する。
選抜された勇者隊の奮闘などもあって、怪我人や物的損耗はあったものの人的被害はほぼナシ。
これはもう圧勝といってもさしつかえがないだろう。
かつてない快挙に、連合軍陣営はおおいに湧き立つ。
もちろん飛空艇ヒノハカマのブリッジ内にいた枝垂たちも大盛り上がりとなる。
とはいえ、いつまでも勝利の余韻に浸って浮かれてばかりもいられない。
倒した星骸二十二号の後始末が残っている。
星珠(せいじゅ)の回収はもとより、死骸の解体と資源の選り分け、汚染状況の確認、それからいまはもうあがっているが、序盤に降っていた黒い雨の成分も気になるところだ。無害ならばいいのだけれども、内容次第では別途対応が必要となる。
戦いは勝って、ハイおしまいとはならない。
きちんと戦後処理までこなしてこその勝利なのだ。ゆえにやるべきことを多い。
「でも、この場合、星珠ってひとつなんでしょうか?」
「う~ん、どうなのでしょう。なにせ七つの分体になった事例なんて、過去にはありませんでしたもので」
ブリッジ内のにぎわいを横目に、枝垂が口にした素朴な疑問にエレン姫も首を傾げる。
星珠は七色の珠にて星骸の核である。
禍獣の輝石、赤霧の落陽水晶体と同じく、ギガラニカ文明にとってはとても有益なモノ。
とくに星珠は黄金級の禍獣の輝石に相当し、大きさはソフトボールぐらいなのだが、これ一つで国ひとつの日常動力をまかなえるほどに強力である。
だが、それゆえに扱いには細心の注意が必要となる。なお加工はできない。
ちなみに出力では、星珠>落陽水晶体>輝石(※ただし黄金級の禍獣のモノは別である)
扱いやすさでは、輝石>落陽水晶体>星珠、とされている。
通例では星骸一個体につき星珠はひとつなのだが……
「いかに分体とはいえ、あの巨体です。赤霧が使役する雑魚どもとはわけがちがう。これは期待できるのでは」
とはジャニスの意見だ。
たしかにその通りにて、もしも小ぶりでも七つもの星珠が手に入るのならば、支払った対価に見合う、いや、それ以上もの報酬を得ることになるだろう。
しかも今回の戦いでは中央の五ヶ国中、二ヶ国が内紛により不参加なので、分け前が大きい。
ひょっとしたら辺境にもおこぼれがまわってくるかもしれない。
なんぞと枝垂たちが、とらぬタヌキの皮算用にてにへらと笑い合っていた矢先のこと――それは起きた。
夜空に異変が生じる。
突如として天界が裂けた。
まるで壁に張ってあったポスターを無造作に剥がすかのようにして、ビリリと。
空間が破けて、奥からボトリと堕ちてきたのは灰色をした塊である。
荒野に降ってきたそれは、ヘドロのような、ウシの糞のような、軟性にて墜ちてくるなり、べちゃりと潰れてしまった。
けれどもぷるぷると波打ち震え蠢いている。
あんな姿だけれども、ひょっとして生きているのか?!
驚天動地の展開に一同は困惑し、激しく動揺した。
世界線を越え、天から降ってくるそれは間違いなく星骸であろう。
だがしかし――
星骸の出現時期は天体を観測することである程度は予測可能。
その予兆により出現するタイプもほぼ特定できる。
夜空が砕けるような現象である派生・破のときには、獣型の星骸が降臨する。
夜空が裂けるような現象である派生・裂のときには、人型の星骸が降臨する。
夜空が渦を巻くような現象である派生・渦のときには、特異型の星骸が降臨する。
……はずであった。
なのにあらわれたのは、どこからどう見ても特異型だ。
法則外のことが起きたばかりか、立て続けに次があらわれた。
星骸二十三号、襲来す!
これにより楽勝ムードが一変する。
よもやの連戦、おもわぬ事態に誰も彼もが呆然となる。枝垂たちの思考も追いつかない。
そんなみんなが見ているさなか、星骸二十三号の身が変化する。
ぐねぐねぐねぐね……
粘土でもこねくりまわすかのような動きがしばらく続いたとおもったら、唐突に中央部分よりにょきっと腕が生えた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
73
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる