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237 星骸二十三号VS飛梅さん

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 飛梅さん、強襲!
 気づいた星骸二十三号が、とっさにこれを手で打ち払おうとする。
 だが、いささか遅かった。
 腕をかい潜って飛梅さんがひと息に肉迫する。

 ――ビキリ。

 真紅の宝石……表面に飛梅さんの艶やかな甲冑姿が映ったとおもったら、すぐにその映し身にズレが生じて、いくつにも割れた。
 拳を受けたところを中心にして蜘蛛の巣のごときヒビが入り、ひときわ大きな亀裂の先では一部がボロリと欠ける。
 エレン姫の光魔法により破損した箇所に、飛梅さんの拳撃が重なり、ついに真紅の宝石が壊れた。
 だが、おもいのほかに頑強にて、一撃では完全に壊すまでには至らない。

 すかさず飛梅さんが追撃を試みる。
 けれども、続く拳は狙い通りに当たらなかった。
 させじと星骸二十三号が身をひねったせいだ。
 拳の進入角度が甘くなり、このせいで拳が宝石の表面を削るようにして滑ってしまう。
 そのため二撃目は不発どころか、結果として巧く衝撃を受け流されたかのような格好となってしまった。

 タイミングがはずされ、攻撃をすかされた。
 拳の軌道がそれて体勢が崩れる。
 空中であるがゆえに飛梅さんは踏ん張れない。
 そこへ下方向から飛んできたのは、星骸二十三号の左膝であった。
 巨人と小人――両者の体格差により、まるで大地がいっきにせり上がったかのよう。
 瞬間、防御をしたことによりたいしたダメージこそは受けなかったものの、膝蹴りにて飛梅さんの身が高らかに打ち上げられてしまう。

 グンと遠ざかる地面。
 飛梅さんは宙を蹴り、上昇を強引に止めた。
 が、そこへ間髪入れずに襲ってきたのは星骸二十三号の右手。平手打ちによりペチリ! これをまともに喰らった飛梅さんは叩き落とされてしまった。
 しかしながら飛梅さんは脅威の身体能力と反応により、地面にぶつかる直前にひらりと身を翻しては、ネコのごとくシュタっと軽やかに着地を決める。
 と、すぐに横っ飛び。
 上から星骸二十三号による踏みつけ攻撃が降ってきたからだ。

 ダンッ! ダンッ! ダダンッ!

 星骸二十三号のストンピングによる猛攻。
 次々と繰り出される足の裏から飛梅さんは必死に逃げ回る。
 劣勢のまま、次第に追い詰められていく。なんとか反撃したいところだが、星骸二十三号は用心しており、その懐へと飛び込ませてくれない。
 このままではさして時間を置かずして、捕まることであろう。

  ☆

 星骸二十三号と飛梅さんの戦いの行方を見守っていた枝垂は、焦燥感に駆られつつ自身のうしろに隠している右手をちら見する。

(かなり星のチカラは練られた……けど、たぶんまだまだ足りない。あの時のことを思い出せ! いや、それ以上のチカラを振り絞らなければ、僕の攻撃はきっと一華に届かない。だからっ!)

 あの時とは、イーヤル国での赤霧との戦いのこと。
 残土穢どもの女王と対峙したときに放った攻撃。
 東京スカイツリーほどもある超大な相手の額にあった落陽水晶体を撃ち抜いた一撃、あれを再現する。
 いや、ちがう。
 あれ以上のモノを放つ。

 枝垂は星クズの勇者である。
 宿った星のチカラは「梅」というよくわからないものにて、身体強化の恩恵は受けられず。獣人の女の子と腕相撲をすればひとひねりにされ、駆けっこをすればぶっちぎられ、ハイタッチをすれば両肩がはずれるほどの虚弱体質である。
 そんな枝垂が創意工夫にて編み出したのが種ピストルという攻撃手段であった。
 ようは梅干しの種を弾に見立てて放つ遠距離攻撃なのだが、ぶっちゃけ威力はたかがしれている。
 それこそ収穫されたイモを狙うカーラスを追い払う程度にて、それすらも仕留めることは適わず。害鳥の一羽すらも撃ち落とすことができない。
 だがこの技は、いろいろと応用が効く。
 そのうちのひとつが種ライフルだ。
 種に回転を加えつつ溜めてから撃つことで、飛距離と高威力を実現した。
 これならば多少の殺傷力は持つが、それでもギガラニカ世界の多くの生物には通用しない。枝垂は圧倒的弱者なのだ。

 そんな弱者にあっても出来ることがある。
 星のチカラによって召喚する梅干しを調整すること。
 粒の大きさや、肉の厚さ、辛味、酸味、甘味などなど。
 お手軽なカリカリ梅から、超高級梅干しまでイメージ次第でどうとでもなる。
 じつはこの調整は、梅の種にも適応される。
 とどのつまりは、弾となる種のサイズをいくらでも大きく、固くできるということ。
 そして回転とチカラの溜め次第では、これを存分に飛ばすことが可能。かくして非力な星クズの勇者にしては、ふさわしくない強力な武器となる。
 だが、高火力を実現する対価として、放った反動で枝垂の脆い肉体は砕ける。
 前回のときは運よく助かったけれども……

 すべては覚悟の上であった。
 覚悟を決めた上で枝垂は戦いに臨み、一華を討つ。
 ……つもりだった。
 そのためフセと飛梅さんらが時間稼ぎをしてくれているうちに、準備を整えていた。
 にもかかわらず、おもうように星のチカラが充填されない。
 ある程度まで上昇したところで、行き詰っている感がある。おそらくだが、このまま見切り発射をしても、星骸二十三号には通じない。そんな予感めいた不安がじっとりまとわりついて離れない。

「くそっ、この期に及んで僕はまだ――うん? なんだいまの音」

 苛立ち焦る枝垂の耳に不意に聞こえてきたのは、ピィーという指笛の音である。
 星骸二十三号の猛攻を辛くもしのいでいる飛梅さんが発したもの。
 こんな時にいったい何をと枝垂が訝しんでいると、突如として星骸二十三号の斜め後方の上空にて生じたのは、空間の断裂である。
 とたんに、次元の狭間かからふわりと漂ってきたのは馥郁(ふくいく)たる甘い薫りであった。


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