青のスーラ

月芝

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102 領都ミステリー導入編

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 領都ホルンフェリス、八大公家ランドクレーズの本家が切り盛りする大商業都市。
 あらゆる物とあらゆる人種が雑多に入り混じった内部。その貴族地区のとある屋敷にオレたちはお邪魔している。この屋敷の女主人にアンケルが招待されたからだ。
 茶会でも夜会でもない、ちょっとしたホームパーティー、夕食を囲んで故人を偲ぶ会。
 出迎えてくれたホスト役の女主人の名前はマゴットさん。温和な雰囲気のおばさん。なんでも彼女の父親とアンケルが親交が深かったらしく、幼い頃より彼女とも面識はあったものの、近頃はすっかり疎遠になっていたとか。
 そんな女性から届いた手紙、爺は思案の後に招待を受けることにする。手広く商売をしている立場上、彼の下にはこの手の誘いは多い。しかし大半が煩わしいと断っていたというのに、珍しいこともあるもんだ。

 にこやかに挨拶を交わすマゴットとアンケル。
 パーティーにはオレや孫娘のクロア、その専従メイドのルーシーさんも同行している。
 みんなに「ようこそ」と歓迎の意を示すマゴット。わざわざしゃがんで謎生物のスーラにまで言葉をかける彼女。どうやら大らかな性格の人みたいだ。
 女主人の先導でオレたちは会場の食堂へと案内される。
 屋敷は取り立てて目を惹くような造りではない。大さも中流のごく一般的な貴族の邸宅。横一文字の二階建て。部屋数は二十はないだろう。高い天井に長い廊下、中央エントランスから二階へとカーブを描くように伸びる階段、床には赤い絨毯が敷き詰められている。壁には風景が描かれた絵画、適度な距離を開けて配置されてある調度品の数々。どれもあまり高価ではないが、眺めていると落ち着いた気分にしてくれる。
 過剰な華美さを排して、全体が品良くまとまっている。どうやら屋敷の主はセンスがかなり良いようだ。

 会場にはすでに参加者らが揃っていた。どうやらオレたちが最後だったみたい。
 だが紹介された参加者らが、みな少しおかしい。どうしてこの人選なんだと小首を傾げる。
「真実の愛を見つけた」と言って自分のもとから去ったというマゴットさんの元旦那のターナー氏。そんな彼の再婚相手のモア。彼女の髪の盛り具合が半端ない。まるで石灯篭のようだ。それから故人の友人の一人であった人物の息子だというクラウセンさん。渋めの中年なのだが、これがまた女主人と実に親しげなご様子。そしてオレたち三人と一体。
 ぶっちゃけると、浮気をして妻を捨てた元夫、略奪愛を成就した愛人、夫を寝取られた妻、そんな女性に想いを寄せる男、が一堂に会しているという状況。
 ドロドロじゃん! 二時間サスペンスだったら絶対に事件が起こるよ! そんな場所にどうしてオレたちが巻き込まれている?
 とはいえお子ちゃまなクロアと、完全に部外者のルーシーさんには関係ない。二人は微妙な空気と欺瞞と愛想笑いに満ちた大人たちを放っておいて、用意された食べ物に無邪気に舌鼓を打っている。
 オレも内心ではハラハラしつつも、彼女たちに付き合って肉類をモグモグ。
 キチンとした下拵えのおかげで臭みは一切ない。程よい弾力を残しつつ、仕上げる焼き加減といい、実に丁寧な仕事だとオレは感心する。

 盗み聞きをしていた限りでは、彼らがみな故人と面識があったのは事実みたい。
 ターナーさんは若い頃は随分とやり手だったらしく、その腕を故人に見込まれて娘婿に入ったが、何をトチ狂ったか離脱。今ではすっかり尾羽うちはらしているといったところ。
 モアさんは故人の知人の紹介にて、この屋敷に奉公へと上がったらしい。そこでご主人を誘惑して頂いちゃった。そこに純粋な想いがあったのか打算があったのかは不明。
 クラウセンさんとマゴットさんは幼馴染で、彼はずっと前から彼女の事が好きだったみたい。せめて一角の人物になるまではと頑張っていたら……というわけ。それでも諦めきれなかった彼は、降って湧いた千載一遇の機会を逃してなるものかと、懸命に動いた結果、クラウセンさんとマゴットさんは晴れて夫婦になることに決まったとのこと。

 以上のことから察するに、このパーティーは故人への幸せの報告会であると同時に、新夫から元夫への布告の場。「二度と俺の女の周りをウロチョロすんなよ」という警告。
 新妻から泥棒猫へは「ざまぁ」の気持ちを込めての意趣返し。
 ターナーさんからしてみれば、わざわざ招待するぐらいだから「もしかして」とか「あわよくば」なんて甘い考えがあったのかも。でもそれって男の自惚れ、勘違いだから。女の人の割り切り方を侮ってはいけない。モアさんに関しては心中複雑であろう。それでも何らかの利が得られると考えたのかな。もの凄いポジティブシンキング、ちょっと見習いたいぐらいだ。
 そしてアンケル爺が呼ばれた理由は、新しく夫婦となる二人の証人となってもらうため。
 領都では知らぬ者のいない大物、そんな人物の公認の仲となったこと。その事実が欲しかったみたい。
 爺が求めに応じたのはマゴットさんを不憫がってのことか、もしくは故人への義理立てか。
 クロアを連れてきたのは、たんに新しいドレスを着せたかっただけだな。ドレス姿の可愛い孫娘を愛でる。それぐらいのご褒美がないとやってられないのだろう。

 パーティー自体はつつがなく終了。
 なんだかんだと言ったところで、みな大人だから。多少、分かりにくい嫌味の応酬をしたり、深酒を嗜んだりするものの、表向きは平静を装っていた。
 問題はそのままお開きになれなかったこと。
 夜更けになると領都の城門は閉鎖される。許可を取れば通れるものの手続きが面倒。アンケル爺ならば顔パスでもいけるのだが、このお人は貴族の特権を気軽に使うことを嫌う。だから適当に宿をとるか、本家の方で世話になるつもりであったのに。

「どうぞお泊り下さいな」

 マゴットさんのありがた迷惑なこの申し出。爺は断りたそうにしていたが、クロアがすでに舟を漕ぎ始めている。仕方がないと、彼は申し出を受け入れることになってしまった。
 そして事件が起こる。

 深夜に邸内に鳴り響く女のかな切り声。

 クロアとルーシーさんはすっかり寝入っていたが、オレとアンケルはまだ起きていた。
 爺の書類仕事を手伝わされていたんだ。そこに聞こえてきた悲鳴、何事かとオレたちは部屋を出る。するとちょうど慌てた家令の男が、こちらに向かってくるところに出くわした。

「何事じゃ?」
「わかりません。声の方向からしてターナーさまのお部屋だと思われますが。とりあえずすぐに確認して参りますので」

 家令はそれだけ言うと足早に遠ざかっていった。

《なんだか面倒な事になりそうだな》
「……じゃな」

 眉間に皺を寄せ、心底うんざりといった顔でアンケルは相槌を打った。


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