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103 領都ミステリー解決編
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深夜に響く女の悲鳴。
屋敷内に集うのは複雑な背景を抱えた人物ばかり。
誰もが不幸な出来事を予感したことであろう……。
「はぁ? ブローチが盗まれたぁー」
なのに蓋を開けてみればこれだ。
事件は事件なのだかあまりにもみみっちい。
事の次第を報せにきた家令の話では、なんでも事前にあてがわれていた部屋に置いてあった、お高いブローチがパーティー後に戻ったら消えていた。それに驚いたモアさんが素っ頓狂な声を上げたという次第。
どうやらオレたち以外は、端から泊る前提で招待されていたみたい。まぁ、交通機関の発展していないこの世界で、遠方から客を呼ぶんだから、それもそうかと妙に納得。
で、問題は深夜にも関わらず興奮したモアさんが騒いでいること。
おかげで屋敷の家人らは大わらわ。メイドさんらが部屋の探索をして、他の家令とかは邸内に不審者が侵入した形跡がないかを、急いで調査して回っている。
一応はホスト役のマゴットさんも放置するわけにもいかず現場に駆け付け、その横にはピッタリとクラウセンさんも寄り添っては、元夫を牽制している。もっともその元旦那は深酒が過ぎてヘロヘロ状態。自分の妻がキーキー騒いでいるのを、五月蠅そうに眺めているだけ。もしかして普段からこんな調子なのか?
それだけだったらオレたちには何も関係ないので無視したかったのだが、興奮して髪型同様に盛大に盛り上がってしまったモアさんが、「これは事件だわ!」と言い出した。
そんなワケで関係者一同が、夜更けに集められることになる。
アンケルを迎えに来た家令の男の平身低頭ぶりに、オレは憐れみすら覚えたよ。爺も同情したのか静かに従った。
食堂に集められたパーティーの参加者たち。
なお子供とお付きのメイドは除外だ。すっかり寝入っているからな。
改めて事件の概要を説明しよう。
滞在先の部屋にターナー夫妻が置いてあった荷物の中から、夫人が大切していたブローチが忽然と消えた。
部屋の戸締りはしっかりとしてあり、窓にも扉にもすべて鍵がかかっていた。
モアさんはブローチをパーティーに着けていくつもりだったようだが、どうにもドレスと合わなかったので断念。これを専用の箱にしまっておいたという。
パーティーから戻り、寝る準備をしている時に、ふと思い立って箱の中を覗いてみると……。
大体がこんなところだな。ちなみに部屋の中は、モアさん立ち合いの下、メイドさんらが捜したが物は見つかっていない。屋敷の周囲も調べてみたが、外部から何者かが侵入した痕跡は見つけられなかったとのこと。つまり本当に事件だとしたら、内部の人間の犯行という可能性が極めて高い。だからこそモアさんは騒いでいるのだ。
「誰かが私のブローチを盗ったんだわ」
屋敷内の不祥事は主の責任ゆえに、マゴットさんも困惑を隠せない。そんな彼女の身を案ずるクラウセンさん。対するモアさんは、これまでの鬱憤を晴らすかのように居丈高で絶好調。意外なのはあんまり態度を変えないターナー氏。ここは揉めるよりも穏便に済ましたほうが、後々のためになるとの算段か。
外部からの侵入者はなし。
内部の人間の犯行だとして、ならば犯人はどういう人物? ということになる。
部屋の扉にはちゃんと鍵がかけられてあったし、鍵穴に細工したような形跡もなかった。だったらすぐに思い当たるのは、鍵の持ち主。なにせ鍵さえあれば出入り自由だから。
鍵は滞在するターナー夫妻の分と、屋敷を預かる家令が持つ予備の二つきり。
片や被害者なので、疑われるのは当然……。
「私は何も知りません。どうか信じて下さい」
「嘘おっしゃい。この泥棒が!」
家令の男性とモア夫人との押し問答。
顔を真っ赤にして、もの凄い剣幕の夫人。
泥棒猫に泥棒呼ばわりされても、どこまでも慇懃な態度を崩さない家令、だがその額には汗が滲んでいた。
屋敷の女主人は、どうしたらいいのかとオロオロと狼狽えている。
そんな連中をよそに、爺がこっそりとオレに話しかけてきたので、すぐに触手回線を開く。
「……実際のところ、どう思う」
《たぶんあの人は犯人じゃない》
「であろうな。わしも同じ意見じゃ。あの者は先代の頃からここに仕えておる。それは忠実な男よ。それがあんなしょうもない真似をするわけがなかろう」
爺がここまで言うんだから、きっとそうなのであろう。
《ところで消えたブローチって、どんな品なんだ?》
「ターナー殿が贈ったとかで、確か魔石がいくつか細工に使われておるらしい。それによって、ずっと輝きを保っていられるんだとか」
《へー、ってことは例のブローチは魔力を帯びている?》
「極僅かだろうが、そうなるかの」
《だったら、その魔力の流れを追えばいいだけの話じゃないの》
「それが出来たら苦労は……、そういえばお主は魔力が視認出来るんじゃったな」
《おうとも。というわけでちょっくら覗いてみるか》
集中して邸宅内の魔力の流れ確認する。全体的にあまり魔道具の類が置かれていないせいか、ごちゃごちゃしていないので助かる。
ざざっと調べてみるが、どこにもそれらしい反応が見られない。
とっくに外部に持ち出されちゃったかなー、と諦めかけたとき、オレはそれらしい反応を見つけてしまった。
《あった! みつけた!》
「ほう、どこにあったんじゃ」
《それが……》
「なんじゃい。随分と歯切れの悪い。もしや本当にあの男が?」
《いや、そうじゃない。あの人は無実だよ》
「ならば他の家人らか。まさかマゴットが犯人だとでも言うのか」
《違う、違う。そうじゃなくて……》
「ええぃ、まどろっこしい。とっとと教えんかい」
爺の剣幕に押されてオレが告げた犯人の名前、それはすぐ目の前でガナリ立てているご夫人。ブローチの反応は彼女の盛られた頭の中にあったのだ。
「自作自演かの。難癖をつけて意趣返し、もしくは金でもせしめるつもりか」
《うーん、それはどうだろう。なんていうかウッカリ……みたいな》
「どういう意味じゃ?」
ほら、例えば手を洗う時に指輪を外して、そのまま忘れてしまったり、風呂に入る際にネックレスを外したら、そのまま脱衣所に置き忘れちゃったりすることって、たまにあるだろう。いつもはそこに置いてあるはずの鍵を、何かの拍子で違う場所に置いてしまったら、行方不明になって大変になることとか。
こんな説明をすると、アンケル爺も思い当たる節があるようで、しきりに「あるある」と頷く。
「つまり夫人は着飾っている際に、うっかり自分の髪の中に差したのを忘れてしまったと」
《そういうこと。ちょっと突き差しておくのにちょうど良さそうなんだよねぇ、あのモコモコ頭》
「あー、よく見たら、髪の中にそれっぽいのが、ちょびっと見え隠れしとるわい」
爺の言った通り、モアさんが頭を揺らす度にチラリチラリと鈍い銀の輝きが。たぶんアレが行方不明のブローチの一部だと思われる。
《問題は、どう彼女に伝えるのか》
「バラすのは簡単じゃが、どうにも角が立つのう。恥ずかしさのあまり首でも括られたら、それこそ大迷惑じゃ」
どうしたもんかと頭を悩ますオレと爺。しかしあまり悠長にもしていられない。なにせずっと無実の罪で矢面に立たされている、気の毒は家令の男がいるのだから。
しかたがない、ここはおっさんが人肌脱ぐとしようか。
《オレにいい考えがある》
アンケル爺に相談してから、オレはこっそりとその場を抜け出す。なにせこちとら謎生物のスーラだから、いちいち咎めるような者は誰もいない。
まず適当な石を庭から拝借したオレは、窓ガラスを派手にガッシャン。
当然、この音に邸内がざわめく。
ちょうど食堂で揉めていた連中も現場に駆けつけてくる。
すると内側から派手に破られた窓の無残な姿があった。
そこですかさず廊下の照明を一斉にオフ。途端に真っ暗闇になって一同パニック。
その隙にオレはモアさんに忍び寄って、髪の中からブローチを救出。
すかさず割れた窓の外へとポイッとな。幸い庭には芝生が植えてあるので、傷はつかないだろう。
そして照明が戻ったところで爺が、「あー、アレはなんじゃ?」と窓の外を指さす。
するとそこには消えたハズのブローチが、という具合。
「あれは! 私の!」
喜色の声を上げるモアさん。しかし小首を傾げる家人たち。何せ先の騒ぎの際に、屋敷の内外は手分けして調べたというのに、一体どこに犯人は潜んでいたというのか。
そんなタイミングで、少し前に王都を賑わしていた義賊の話を、サラリと口にするアンケル。「もしや」という想像の種をみんなの中に撒く。それだけで後は勝手に妄想を膨らませてくれるはず。
案の定というか、爺の巧な思考誘導によって「世の中には凄腕の賊もいる」という風にもって行き、ついにはバレて逃げる際に、うっかりブローチを落としていったという事に落ち着かせてしまった。
自分で提案しておいてなんだが、この爺さんヤバいな。あんな与太話を全員に信じ込ませちまったよ。カルト教団とかネズミ講とか開いたら、きっととんでもない事になる。くれぐれも道を踏み外さないように、目を光らせておこう。
こんな具合にオレが立てた「角が立つなら第三者の生贄を用意しよう」作戦は無事に終了した。
一応は自分の誤解だったので、渋々ながら家令に謝るモアさん。どうやら面倒な人ではあるが、根っからの悪人といったわけでもなさそう。旦那のターナーはどうでもよかったのか早々に寝室に引き下がり、事件が解決したことでほっとしたマゴットさんもクラウセンさんに肩を抱かれて自室へと消えていった。オレたちもクロアたちが眠る部屋へと戻った。
翌朝、ターナー夫妻が出ていったのを見届けてから、アンケルがマゴットさんに昨夜の真相を教えて、窓ガラスを割ってしまったことを謝罪する。黙っていてもよかったのだが、泥棒が出入りしているとか気持ち悪いし、怯えさせたら可哀想だからとの爺の配慮だった。
説明を受けて、かえって女主人からは礼を述べられた。危うく再婚話にケチが付くところだったのを助かったと感謝された。
「是非とも結婚披露パーティーにはご出席下さい」と誘われた時の、爺の顔がちょっと見ものだったがな。口をへの字にして、もうコリゴリといった感じ。オレは思わず青いスーラボディをぷるんと震わして笑ってしまった。
屋敷内に集うのは複雑な背景を抱えた人物ばかり。
誰もが不幸な出来事を予感したことであろう……。
「はぁ? ブローチが盗まれたぁー」
なのに蓋を開けてみればこれだ。
事件は事件なのだかあまりにもみみっちい。
事の次第を報せにきた家令の話では、なんでも事前にあてがわれていた部屋に置いてあった、お高いブローチがパーティー後に戻ったら消えていた。それに驚いたモアさんが素っ頓狂な声を上げたという次第。
どうやらオレたち以外は、端から泊る前提で招待されていたみたい。まぁ、交通機関の発展していないこの世界で、遠方から客を呼ぶんだから、それもそうかと妙に納得。
で、問題は深夜にも関わらず興奮したモアさんが騒いでいること。
おかげで屋敷の家人らは大わらわ。メイドさんらが部屋の探索をして、他の家令とかは邸内に不審者が侵入した形跡がないかを、急いで調査して回っている。
一応はホスト役のマゴットさんも放置するわけにもいかず現場に駆け付け、その横にはピッタリとクラウセンさんも寄り添っては、元夫を牽制している。もっともその元旦那は深酒が過ぎてヘロヘロ状態。自分の妻がキーキー騒いでいるのを、五月蠅そうに眺めているだけ。もしかして普段からこんな調子なのか?
それだけだったらオレたちには何も関係ないので無視したかったのだが、興奮して髪型同様に盛大に盛り上がってしまったモアさんが、「これは事件だわ!」と言い出した。
そんなワケで関係者一同が、夜更けに集められることになる。
アンケルを迎えに来た家令の男の平身低頭ぶりに、オレは憐れみすら覚えたよ。爺も同情したのか静かに従った。
食堂に集められたパーティーの参加者たち。
なお子供とお付きのメイドは除外だ。すっかり寝入っているからな。
改めて事件の概要を説明しよう。
滞在先の部屋にターナー夫妻が置いてあった荷物の中から、夫人が大切していたブローチが忽然と消えた。
部屋の戸締りはしっかりとしてあり、窓にも扉にもすべて鍵がかかっていた。
モアさんはブローチをパーティーに着けていくつもりだったようだが、どうにもドレスと合わなかったので断念。これを専用の箱にしまっておいたという。
パーティーから戻り、寝る準備をしている時に、ふと思い立って箱の中を覗いてみると……。
大体がこんなところだな。ちなみに部屋の中は、モアさん立ち合いの下、メイドさんらが捜したが物は見つかっていない。屋敷の周囲も調べてみたが、外部から何者かが侵入した痕跡は見つけられなかったとのこと。つまり本当に事件だとしたら、内部の人間の犯行という可能性が極めて高い。だからこそモアさんは騒いでいるのだ。
「誰かが私のブローチを盗ったんだわ」
屋敷内の不祥事は主の責任ゆえに、マゴットさんも困惑を隠せない。そんな彼女の身を案ずるクラウセンさん。対するモアさんは、これまでの鬱憤を晴らすかのように居丈高で絶好調。意外なのはあんまり態度を変えないターナー氏。ここは揉めるよりも穏便に済ましたほうが、後々のためになるとの算段か。
外部からの侵入者はなし。
内部の人間の犯行だとして、ならば犯人はどういう人物? ということになる。
部屋の扉にはちゃんと鍵がかけられてあったし、鍵穴に細工したような形跡もなかった。だったらすぐに思い当たるのは、鍵の持ち主。なにせ鍵さえあれば出入り自由だから。
鍵は滞在するターナー夫妻の分と、屋敷を預かる家令が持つ予備の二つきり。
片や被害者なので、疑われるのは当然……。
「私は何も知りません。どうか信じて下さい」
「嘘おっしゃい。この泥棒が!」
家令の男性とモア夫人との押し問答。
顔を真っ赤にして、もの凄い剣幕の夫人。
泥棒猫に泥棒呼ばわりされても、どこまでも慇懃な態度を崩さない家令、だがその額には汗が滲んでいた。
屋敷の女主人は、どうしたらいいのかとオロオロと狼狽えている。
そんな連中をよそに、爺がこっそりとオレに話しかけてきたので、すぐに触手回線を開く。
「……実際のところ、どう思う」
《たぶんあの人は犯人じゃない》
「であろうな。わしも同じ意見じゃ。あの者は先代の頃からここに仕えておる。それは忠実な男よ。それがあんなしょうもない真似をするわけがなかろう」
爺がここまで言うんだから、きっとそうなのであろう。
《ところで消えたブローチって、どんな品なんだ?》
「ターナー殿が贈ったとかで、確か魔石がいくつか細工に使われておるらしい。それによって、ずっと輝きを保っていられるんだとか」
《へー、ってことは例のブローチは魔力を帯びている?》
「極僅かだろうが、そうなるかの」
《だったら、その魔力の流れを追えばいいだけの話じゃないの》
「それが出来たら苦労は……、そういえばお主は魔力が視認出来るんじゃったな」
《おうとも。というわけでちょっくら覗いてみるか》
集中して邸宅内の魔力の流れ確認する。全体的にあまり魔道具の類が置かれていないせいか、ごちゃごちゃしていないので助かる。
ざざっと調べてみるが、どこにもそれらしい反応が見られない。
とっくに外部に持ち出されちゃったかなー、と諦めかけたとき、オレはそれらしい反応を見つけてしまった。
《あった! みつけた!》
「ほう、どこにあったんじゃ」
《それが……》
「なんじゃい。随分と歯切れの悪い。もしや本当にあの男が?」
《いや、そうじゃない。あの人は無実だよ》
「ならば他の家人らか。まさかマゴットが犯人だとでも言うのか」
《違う、違う。そうじゃなくて……》
「ええぃ、まどろっこしい。とっとと教えんかい」
爺の剣幕に押されてオレが告げた犯人の名前、それはすぐ目の前でガナリ立てているご夫人。ブローチの反応は彼女の盛られた頭の中にあったのだ。
「自作自演かの。難癖をつけて意趣返し、もしくは金でもせしめるつもりか」
《うーん、それはどうだろう。なんていうかウッカリ……みたいな》
「どういう意味じゃ?」
ほら、例えば手を洗う時に指輪を外して、そのまま忘れてしまったり、風呂に入る際にネックレスを外したら、そのまま脱衣所に置き忘れちゃったりすることって、たまにあるだろう。いつもはそこに置いてあるはずの鍵を、何かの拍子で違う場所に置いてしまったら、行方不明になって大変になることとか。
こんな説明をすると、アンケル爺も思い当たる節があるようで、しきりに「あるある」と頷く。
「つまり夫人は着飾っている際に、うっかり自分の髪の中に差したのを忘れてしまったと」
《そういうこと。ちょっと突き差しておくのにちょうど良さそうなんだよねぇ、あのモコモコ頭》
「あー、よく見たら、髪の中にそれっぽいのが、ちょびっと見え隠れしとるわい」
爺の言った通り、モアさんが頭を揺らす度にチラリチラリと鈍い銀の輝きが。たぶんアレが行方不明のブローチの一部だと思われる。
《問題は、どう彼女に伝えるのか》
「バラすのは簡単じゃが、どうにも角が立つのう。恥ずかしさのあまり首でも括られたら、それこそ大迷惑じゃ」
どうしたもんかと頭を悩ますオレと爺。しかしあまり悠長にもしていられない。なにせずっと無実の罪で矢面に立たされている、気の毒は家令の男がいるのだから。
しかたがない、ここはおっさんが人肌脱ぐとしようか。
《オレにいい考えがある》
アンケル爺に相談してから、オレはこっそりとその場を抜け出す。なにせこちとら謎生物のスーラだから、いちいち咎めるような者は誰もいない。
まず適当な石を庭から拝借したオレは、窓ガラスを派手にガッシャン。
当然、この音に邸内がざわめく。
ちょうど食堂で揉めていた連中も現場に駆けつけてくる。
すると内側から派手に破られた窓の無残な姿があった。
そこですかさず廊下の照明を一斉にオフ。途端に真っ暗闇になって一同パニック。
その隙にオレはモアさんに忍び寄って、髪の中からブローチを救出。
すかさず割れた窓の外へとポイッとな。幸い庭には芝生が植えてあるので、傷はつかないだろう。
そして照明が戻ったところで爺が、「あー、アレはなんじゃ?」と窓の外を指さす。
するとそこには消えたハズのブローチが、という具合。
「あれは! 私の!」
喜色の声を上げるモアさん。しかし小首を傾げる家人たち。何せ先の騒ぎの際に、屋敷の内外は手分けして調べたというのに、一体どこに犯人は潜んでいたというのか。
そんなタイミングで、少し前に王都を賑わしていた義賊の話を、サラリと口にするアンケル。「もしや」という想像の種をみんなの中に撒く。それだけで後は勝手に妄想を膨らませてくれるはず。
案の定というか、爺の巧な思考誘導によって「世の中には凄腕の賊もいる」という風にもって行き、ついにはバレて逃げる際に、うっかりブローチを落としていったという事に落ち着かせてしまった。
自分で提案しておいてなんだが、この爺さんヤバいな。あんな与太話を全員に信じ込ませちまったよ。カルト教団とかネズミ講とか開いたら、きっととんでもない事になる。くれぐれも道を踏み外さないように、目を光らせておこう。
こんな具合にオレが立てた「角が立つなら第三者の生贄を用意しよう」作戦は無事に終了した。
一応は自分の誤解だったので、渋々ながら家令に謝るモアさん。どうやら面倒な人ではあるが、根っからの悪人といったわけでもなさそう。旦那のターナーはどうでもよかったのか早々に寝室に引き下がり、事件が解決したことでほっとしたマゴットさんもクラウセンさんに肩を抱かれて自室へと消えていった。オレたちもクロアたちが眠る部屋へと戻った。
翌朝、ターナー夫妻が出ていったのを見届けてから、アンケルがマゴットさんに昨夜の真相を教えて、窓ガラスを割ってしまったことを謝罪する。黙っていてもよかったのだが、泥棒が出入りしているとか気持ち悪いし、怯えさせたら可哀想だからとの爺の配慮だった。
説明を受けて、かえって女主人からは礼を述べられた。危うく再婚話にケチが付くところだったのを助かったと感謝された。
「是非とも結婚披露パーティーにはご出席下さい」と誘われた時の、爺の顔がちょっと見ものだったがな。口をへの字にして、もうコリゴリといった感じ。オレは思わず青いスーラボディをぷるんと震わして笑ってしまった。
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