青のスーラ

月芝

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177 コロナと天才。

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 天才が残した研究を完遂させて起動した自動人形。
 コロナと名付けたオレは、彼女の手を借りて施設内の資料やら素材を、根こそぎ回収する。

「結構な量がありますが、大丈夫なのですか?」

 彼女が心配したのはアイテム収納の量。
 こいつは魔力量に比例するらしく、並みの人間では優れていても、荷馬車一台分ぐらいが関の山。ちなみにオレは先が見えないほど広大な収納スペースを保有している。時間停止機能もあって、オヤツの保存には重宝しているものの、あまりに広すぎてかえって持て余しているぐらいだ。

《問題ない。それよりも取りこぼしのないようにな。もしかしたら隠し金庫みたいなのもあるかもしれないから、注意してくれ》
「了解しました」

 ある程度、分野別に資料をまとめては、せっせと片づけていく。
 しばらくすると、コロナが棚の底の部分に、二重底になっている箇所を発見する。

「マスター、このような品が出てきました」

 彼女の手から冊子を受け取り、ペラペラと中身を確認したオレは、元のところに戻しておくように命じた。
 表紙には「看板メイド決定版」とのタイトル、見目麗しい美人メイドたちの姿絵が多数収録されてあった。コロナのメイド服といい、どうやら故人はメイド好きだったらしい。その気持ちはよく理解できるので、後ろ髪引かれつつもお宝は戻しておく。奪うにはあまりにも偲びない。そっとしておいてやろう。

「こんな服の何がいいのでしょうか? 動き難いだけなんですけど」

 自分のロングスカートの裾を摘まみながら、小首を傾げる自動人形。
 なんて答えていいかわからないので、オレは適当に「そういうものだ」と誤魔化しておいた。

 すっかり片づけ終わった頃には夜になっていた。
 雨はまだ降り続いていたので、このままここで故人の骨と共に、一夜を過ごすことにする。

 すっかりがらんどうとなった施設内、遺骨を纏めて入れた箱の前には、酒の入ったグラスを捧げ、オレは残りわずかとなった超貴重な料理長のクッキーを堪能しつつ、優雅に茶を啜る。そして何故だか一緒になって、当たり前のように飲み食いしているコロナ。
 なんで自動人形が普通にオヤツを食べてるんだ?

「体内にてエネルギーに変換しているのです。いかに私が高性能であっても、先立つモノが乏しければ、いずれ活動限界をきたしてしまいますので。それにしてもこのクッキーは素晴らしいですね。分析の結果、味、栄養、歯ざわり、香り、すべてがパーフェクトです。もしや、作られたのは食神ですか?」

 古い友人の腕を誉められたのは嬉しいのだが、美味しいのなら、もっと美味しそうに食べて欲しい。可愛いが能面みたいな無表情にてボリボリされても、ちっとも美味しそうには見えない。
 瞳の動きはわりと自然なのに、口元だけがどうしても機械的だ。これは人前では晒さないほうがいいだろう。コロナにはあとで口周りを隠すスカーフでも渡すとしよう。

《それで自分のこと、何が出来て何が出来ないのか、どれくらいの能力があるのかはわかっているのか?》
「そうですね……、大体のことは情報として頭の中に入っています。どうやら私は戦闘用として開発されたみたいです」
《戦闘用って、だったらなんでメイド服を着ているんだ?》
「それこそ、あの人の趣味でしょう」

 チラリとコロナが遺骨の方を見る。
 オレも釣られて視線を送った。そういえば故人はメイド好きだったな。

《素直にメイド型自動人形で良かった気もするが》
「どうやら開発段階で、どんどんと興が乗って、高性能化を目指したのが原因のようですね。頭の中にそのような情報が残っています」
《うーん、もしかして普通にそっちを開発していたら、成功していたんじゃあ……》
「少なくともエネルギー不足で起動しないという件では、躓くことはなかったかと。つくづく残念な創造主です」

 妥協を知らないからこそ、突き詰められる研究。
 妥協していたら完成していたかもと考えると、なんとも言えない。やっぱり一人っきりで篭っていた弊害なのだろうな。もしも誰か一人でも側にいて、ちょっと指摘していたら結果は違ったであろう。
 過ぎたことに、あれこれと文句をつけてもしようがないのはわかっているが、つくづく惜しすぎる御仁であった。でもちょっと会ってみたかった、かな。

 静かに夜が更けていく。雨はまだ降り止まない。
 いつの間にやらコロナは横になって目を閉じている。
 どうやらこの自動人形は休眠モードも搭載しているようだ。
 スゥスゥと寝息まで立てている。
 無駄にハイスペック、まるでスーラボディのようだ。

《まぁ、目覚めさせちまった以上は、ちゃんと責任を持たないとな。あんたの残してくれた研究資料もあるし、整備とかはなんとかなるだろう。だから安心して眠ってくれ》

 遺骨の納まった箱の前に捧げられたグラスに、自身の持つグラスを優しく当てる。
 チンと短い音が鳴る。
 手にしたグラスの中身をひと息に飲み干す。
 この体では酔うことは適わないが、風味は味わえる。
 久しぶりに飲んだ酒は、やたらと心に染みた。

 翌朝になると雨はすっかり上がり、森は日の光を浴びてキラキラと輝いていた。
 コロナを連れて外へと出たオレは、土魔法にて壁を造り、洞穴を隠してしまう。
 ここを忘れられた天才の墓標にするために。

 しばし黙祷を捧げた後に、オレたちは出立した。

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