青のスーラ

月芝

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178 コロナと森の中。

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 深い森の中にて、駆け足で移動するオレたち。
 少し前から平行してついて来るいくつもの気配がある。
 木々の間を抜けるように進んでいるうちに、ちょっと開けた場所へと出た。
 視界を遮るものがなくなった途端に姿を現したのは、八体のモンスター。
 狙い定めた獲物を執念深く追い、群れで狩りを行う大きな狼のようなググ。
 わざと気配を放つことで、どうやら彼らの狩場へと誘導されてしまったようだ。
 逃がさぬようにとり囲み、ゆっくりと歩きながら獲物をねめつけるググたち。口からは涎を垂らし、充血した瞳には飢えを満たしたいという渇望がギラギラしていた。
 待ちきれない一匹が牙を剥いたのを合図に、残りの連中も襲いかかってくる。
 これを迎え撃つのは、黒い刀身をした双剣を手にした、小柄なオカッパ頭の自動人形。
 スカートの裾を翻し、人形が躍る。
 軽やかなステップにて、襲ってきたググの脇をすり抜けたかと思えば、喰いつくために開かれていたモンスターの大口が、バックリと切り裂かれ、下顎がだらりと垂れた。獲物の動きを追って振り返ろうとしたのだろうが、捩った拍子に首からも鮮血が溢れて、そのまま倒れ伏してしまう。通り過ぎる際に、喉も切りつけられていたのである。
 仲間があっさりと殺されたのにも関わらず、彼らは止まらない。
 引くことを知らない。怯むことなく、ただ獰猛に相手の血肉を欲し、己が飢えを満たすことしか頭にはない。ググとはそういうモンスターなのだ。

 八体のググを始末し終えたコロナが、刀身についた血を拭う。
 ほんの五分ほどの戦闘時間。
 一緒に旅をするようになって二週間ほど経ち、彼女の能力もかなり把握できた。
 膂力は相当なもので、動きも早い。武器を持っての接近戦はかなり優秀だ。どうやら昔の著名な冒険者とか剣士などの情報を元に、戦闘時の動きを模倣しているらしい。
 これは情報を的確に再現出来るだけの運動性能を持っている証拠だ。
 何度か単独にて戦わせてみたが、さすがは戦闘用と言うだけあって、大抵の相手ならば何とかなるレベルの強さを保有している。これで充分な戦闘経験を積ませたら、どれほどの強者になるのかは、ちょっと想像もつかない。
 ただし欠点もある。
 魔法の方は、からっきしであった。
 彼女の体内にある回路は、すべてコロナの体を維持運営するためだけに機能しており、外部に魔力を放出するということが出来ない。その分、内部にてすべてが費やされているので、身体強化の類は桁違いだ。元から厳選された素材にて構築された自動人形の体は、生物のモノと違って堅牢そのもの。もっとも弱いと思われる関節部分でさえも、異様な強度を誇っている。一体、どこでの戦闘を想定していたのか、設計思想がとんでもなく高い。
 コロナが使っている武器は、オレが秘蔵していた品の中から選ばせた。
 彼女が選んだのは、以前にダンジョンにて手に入れた双子剣。
 魔法剣ではあるのだが、ちょっと変わった性質を持っている。
 早く振れば振るほどに、切れ味が鋭くなるのだ。これを並みの騎士が使ったところで、並みの剣にも劣る切れ味しか発揮してくれない。しかし彼女の腕力を持って振るわれると、恐ろしいほどの切れ味を示す。直剣でなくて日本刀の形状をしていたら、抜刀術とかやらせてみたのに。
 装備に関してはアンケル邸のメイド隊が所有する、戦闘用のバトルドレスを着せてある。生憎と他に女性用の装備を持っていなかったので、とりあえず我慢してもらった。
 動くたびに足に纏わりつくロングスカートは、あまり好きではないらしい。
 いずれ大きな街にでもつけば、女冒険者用の服装を用立ててやるつもりだ。
 機械的な動きしか出来ない口元は、見る者に違和感を与えるので、念のために赤いスカーフを巻かせて隠させてある。何故だかこちらは気に入ってるみたい。アラクネの糸で作られた高級品で、肌ざわりがいいからかもしれない。

《しかし……、改めて見ると怪しさ満点の姿だな》

 そんなことを考えて眺めていると、「なんですか、ジロジロと舐め回すように見て。マスターは人形に欲情する、変態さんですか?」なんて言われた。

 もちろん、舐め回すようになんて見ていないし、そもそも変態でもない。完全な濡れ衣だ。だがこの言動からも分かる通り、コロナはかなり口が悪い。二言目には人を変態呼ばわりする。もしかしてこれも製作者の趣味だろうか? ツンだらけが故人の好みだったのだろうか? いくら戦闘用とはいえ、口撃機能はいらなかったと思う。あと、オレとしてはデレの部分も大切にして欲しかった。

「しかし鬱陶しいです。こうまで襲われ続けると、さすがにキレそうです。実際に斬ってますけど、ぷぷぷ」

 まったくもって笑えない洒落をときおり口にするコロナ。
 どうやらオヤジ要素まで備わっているようだ。

《ほら、とりあえずググから魔石だけ回収しておくぞ。肉は臭くて喰えないし、毛皮は山ほどあるからいいや》
「了解しました」

 返事をして解体作業へと入る自動人形。
 何度か経験させただけで、すっかり手際がよくなってしまった。すでにベテランの冒険者並みである。学習機能がとにかく高い。

「なんですか? 血まみれにて臓物を漁る人形を見て欲情しましたか? 変態マスター」
《だれが変態だ! あと人前で変態って言うなよ。それから……》
「わかっています。人前ではとりあえず私が主人で、マスターが従魔のフリをするんですよね。ちゃんと心得ています。せいぜい鞭でビシバシと調教して、完璧な主人を演じてみせましょうとも。おぉ、そうです。それ用の鞭を用意しないと。マスター、所有していますか? 出来れば、いい音が鳴るのが希望なのですが」
《…………》

 切り落としたググの尻尾を鞭に見立てて、ブンブンと振り回すオカッパ頭の自動人形。
 そろそろ街道に出て、人里でも目指そうかと思っていたが、どうにも不安が残るので、もう少し森の中を進もうと考える、おっさんであった。


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