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005 竹取の翁
しおりを挟むどうせ他人の金だからと、ようやく見つけたコンビニでカゴ一杯に買い物をし「ざまぁみろ」
溜飲を下げる善志であったが、すぐに後悔することになった。
なぜなら大きな袋ふたつがパンパンになる量を、運ぶのは自分なのだから。
「お、重い~」
手の平に食い込むビニールの持つところ。
一日中酷使され、血マメだらけの手に追い打ちをかける、とんだ苦行だ。
善志はげんなり、ふらつきながら竹林の奥へと戻ったのは、買い出しに行ってからじつに二時間近くも経っていた。
おっちら戻ってみれば、なぜか秀はせっせと穴を掘っている。
いや、埋めているのか。まぁ、どっちでもいいけれど。
(はて? あんなスコップなんて持ってたっけか)
気になりつつも「なんだよ、竹刈りの次は穴堀りか? 落とし穴でかぐや姫を捕獲するつもりかよ」と善志が挨拶代わりに皮肉まじりで言えば、「バカだなぁ。ちがうよ善志。これはかぐや姫用じゃなくて、竹取の翁を埋めるためのもんだよ」なんぞと秀はトンチンカンなことを言い返してくる。
こいつの言動が突拍子もないことは、すでにわかっている。
まともなのは見てくれだけだ。
ゆえに善志はまたぞろ訳の分からないことを言い出したと、内心呆れつつも適当なところに買ってきた荷物をガサリと置く。
そうしたら置き方が悪かったのか、袋がバタリと倒れて中身が少し零れてしまったもので、「おっと、いかんいかん」
善志はかがんで零れたおにぎりなどを拾おうとするも、その際にチラリ。
秀がせっせと埋めている穴の方を見てみれば、なにやら人間の手のようなモノが目に入ったから、ギョッ!
見間違えかと、ゴシゴシ目を擦ってもう一度見てみたけれども、見れば見るほどに手のようである。
だから「まさか」と疑いつつも、よろよろと近づいては、秀の肩越しに穴のなかを覗き込んで、善志はおもわず卒倒しそうになった。
穴の底からは濃い血の臭いが立ち昇っており、半ば埋もれている作業着姿の老人がいた。
服装からしてこの竹林の世話をしている人物なのだろうけど、脳天がばっくりカチ割れており、カッと見開かれている目が恨みがましそうに、こっちを見ている。
「何やってだよ、おまえ!」
おもわず声を荒げる善志に、秀は手を止めることなく「何って、見てわからないの? 爺さんを埋めてるんだよ」
「いや、それは見りゃわかるよ。俺が聞いてるのは、何がどうなって、こんなことになってんだよって話だ!」
「どうなってって……悪いのはこの爺さんだよ。いきなり顔を真っ赤にして突っかかってきたとおもったら、スコップを振り回すんだもの。危ないったらありゃしない。
だから、つい、ね。まぁ、正当防衛だよ。
にしても短気な年寄りってのはヤダよねえ。同じ歳をとるにしたって、こうはなりたくないもんだ」
いきなり襲いかかられて、返り討ちにしたのであれば、たしかに正当防衛だろう。
でも、よくよく話を聴いてみるとぜんぜんちがった!
真実はこうである。
自分の所有する竹林を見回り中に、勝手に入り込んではザクザクと竹を刈りまくっている若僧を発見!
激怒した老爺が「おどれ、ワシの竹林でなにしとんじゃーっ!」とスコップを振り上げ突進してきた。
なのに若僧は逃げるでもなし、謝るでもなし。
ヘラヘラしているばかりで、ちっとも悪びれやしない。
あまりにも不遜な態度にて、これに堪忍袋の緒がぷつんと切れた老爺が「もうええ、おまえなんぞ警察に突き出しちゃる!」と言い出したもので、秀は「まあまあ」と老爺のスコップを奪っては脳天をガツンと……
「ガツンとって、おまえ……何しちゃってくれてんの? どうすんだよこれ?」
「もう、善志はうるさいなぁ。だからこうやってちゃんと埋めてるんじゃないか」
邪魔だから殺した。
殺したから埋めておく。
秀はこともなげにそんなことを口にする。
初対面時からおかしいとはおもっていたけれども、想像の斜め上を突き抜けるヤバさだ。
「おまえ、無茶苦茶だよ。とてもではないが付き合ってられん」
善志がそう拒絶すれば、秀はあろうことかこんなことを言い出した。
「ダメダメ、もう手おくれだよ。殺ってしまったものはしょうがない。それに大事なのは死んだ人じゃなくて、生きている人だもの。
ほら、学校とかでもそうだったでしょう?
イジメを苦にして自殺しちゃった子よりも、加害生徒らのことばかり守るじゃん。将来がどうのこうのって。
それと同じだよ。
死ねばそれまで、大事なのは生きている者ってね。
まぁ、それでも納得できずに警察に通報するっていうんなら、僕は取り調べ室で声高にこう主張するから。
『うぅ、ごめんなさい。本当は僕だってこんなことやりたくなかったんですぅ。でも、大友善志くんがどうしてもやれっていうから。もしも言うことを聞かないと、家族や友人らにひどいことをするって、脅されて……』
な~んてね。ひひひ」
「なっ! そんなウソっぱちなんて通用するわけが……」
「……ない? 本当にそうおもうの? ふふん、そんなことないよねぇ。
僕と君、世間はどっちの言うことを信用するかしらん」
「ぐっ」
トンデモナイ理論だが、善志は言い返せなかった。
秀の言った通りの光景が容易に想像できたからだ。
人は見たいモノしか見ない。そして事実を都合よく捻じ曲げる。
兄の義鎮もそうであった。勝手に期待されて、夢や希望や願望を押しつけて押しつけて押しつけて……最後には押しつぶしてしまった。
そして憎悪や反感といった負の感情は向かいやすいところに向かう。
陽気で誰にでもわけ隔てなく接する構内一の人気者と、自他ともに認める陰キャ。
ことが露見した場合、きっと秀が描いた筋書通りに真実は上書きされてしまうだろう。
「まっ、そういうわけだからさ。ちょっと代わってくんない。さすがに疲れちゃった」
とてもたったいま人をひとり殺したばかりとはおもえぬ。
屈託のない爽やかな笑みにて、秀が差し出すスコップを善志はのろのろと受け取った。
そんな善志を穴の底から老人の骸がねめつけている。
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