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02 歩く市松人形
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朝食の席にて「必ず入学式を見に行くから」と言っていた母、しかし彼女は来ませんでした。
仕事先を抜け出して、学校へと向かう途中に交通事故に巻き込まれたからです。
トラックの横転から始まった多重事故、何台もの車と多くの人を巻き込んだ大事故で、さしものあの母でも助かりませんでした。
交差点の横断歩道にて、信号待ちをしていたところに、突っ込んできた一台目を躱し、二台目をも躱してみせたようですが、小さな男の子を庇ったために、ついに三台目に撥ねられてしまいました。なにかとお人好しだった母らしい最期です。
病院の霊安室で寝ていた母は、外傷もほとんどなく綺麗な顔をしていました。
それから先のことは、あまりよく覚えていません。
身寄りは娘の私だけでしたので、葬儀やら事後処理やら賠償手続きやらとドタバタして、おちおち悲しんでいる暇もありませんでした。そんな私の面倒を親身にみてくれたのが、顔を合わせたばかりの担任の女の先生でした。白髪混じりのオールドミスは出来る女だったのです。
これからの生活に不安がないといえば嘘になりますが、金銭面において苦労しなくていいのはありがたかった。コツコツと母が貯めていた預金に、保険金やら賠償金やら、助けた子の親からもかなりの額の見舞金を頂いて、バブル到来です。
だからこのまま先生の生徒でいたかったのですが、子供が大金を持つとロクなことがありません。どこで嗅ぎ付けてきたのか、ハイエナどもがわらわらと寄ってきました。自称親戚やら怪しい宗教家やらボランティア団体などが、周辺をうろつくようになったのです。
これを危惧した先生と私は相談の上で、とっとと新天地へと移ることに決めました。
「青春は限られている、あんな阿呆どもに関わっていたらもったいない」と先生は仰った。
私ももっともだと思います。
亡くなった母も常々言っていました。
「逃げ足は鍛えておけ! それさえあれば、どんなピンチも乗り越えられる」と。
事実、わけのわからない連帯保証の責を負わされて、ヤクザ者たちに追いかけられた時も、山でサヴァイヴァル生活をしていたら熊に追いかけられた時も、母と私は逃げ足のおかげで生き延びられました。だから面倒な状況下からは、とっとと逃げ出すに限る。
私はこれからも母の教えを胸に、ヌクヌクと生きて行こう。
新居のアパートの玄関扉を開けたら、足元が光って謎の丸模様が浮かびだす。
すかさず逆戻りをしてバタンと扉を閉めた。五分ほど待ってから開けると、もうあの模様は消えて無くなっていました。
「これで十六回目です。家の前でまで起こるだなんて執拗です……、もしやこれが噂に聞くところの、ストーカーという奴ですか! 歩く市松人形と揶揄されて久しい、この私にもついにモテ期が!」
ちょっぴり勘違いした少女。
この日、外でも何度も光の環が出現して、彼女を困らせる。
その合計数がついに二十の大台に乗ってしまった。
仕事先を抜け出して、学校へと向かう途中に交通事故に巻き込まれたからです。
トラックの横転から始まった多重事故、何台もの車と多くの人を巻き込んだ大事故で、さしものあの母でも助かりませんでした。
交差点の横断歩道にて、信号待ちをしていたところに、突っ込んできた一台目を躱し、二台目をも躱してみせたようですが、小さな男の子を庇ったために、ついに三台目に撥ねられてしまいました。なにかとお人好しだった母らしい最期です。
病院の霊安室で寝ていた母は、外傷もほとんどなく綺麗な顔をしていました。
それから先のことは、あまりよく覚えていません。
身寄りは娘の私だけでしたので、葬儀やら事後処理やら賠償手続きやらとドタバタして、おちおち悲しんでいる暇もありませんでした。そんな私の面倒を親身にみてくれたのが、顔を合わせたばかりの担任の女の先生でした。白髪混じりのオールドミスは出来る女だったのです。
これからの生活に不安がないといえば嘘になりますが、金銭面において苦労しなくていいのはありがたかった。コツコツと母が貯めていた預金に、保険金やら賠償金やら、助けた子の親からもかなりの額の見舞金を頂いて、バブル到来です。
だからこのまま先生の生徒でいたかったのですが、子供が大金を持つとロクなことがありません。どこで嗅ぎ付けてきたのか、ハイエナどもがわらわらと寄ってきました。自称親戚やら怪しい宗教家やらボランティア団体などが、周辺をうろつくようになったのです。
これを危惧した先生と私は相談の上で、とっとと新天地へと移ることに決めました。
「青春は限られている、あんな阿呆どもに関わっていたらもったいない」と先生は仰った。
私ももっともだと思います。
亡くなった母も常々言っていました。
「逃げ足は鍛えておけ! それさえあれば、どんなピンチも乗り越えられる」と。
事実、わけのわからない連帯保証の責を負わされて、ヤクザ者たちに追いかけられた時も、山でサヴァイヴァル生活をしていたら熊に追いかけられた時も、母と私は逃げ足のおかげで生き延びられました。だから面倒な状況下からは、とっとと逃げ出すに限る。
私はこれからも母の教えを胸に、ヌクヌクと生きて行こう。
新居のアパートの玄関扉を開けたら、足元が光って謎の丸模様が浮かびだす。
すかさず逆戻りをしてバタンと扉を閉めた。五分ほど待ってから開けると、もうあの模様は消えて無くなっていました。
「これで十六回目です。家の前でまで起こるだなんて執拗です……、もしやこれが噂に聞くところの、ストーカーという奴ですか! 歩く市松人形と揶揄されて久しい、この私にもついにモテ期が!」
ちょっぴり勘違いした少女。
この日、外でも何度も光の環が出現して、彼女を困らせる。
その合計数がついに二十の大台に乗ってしまった。
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