とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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39 食の求道者

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 ガラシャさんから頂いたタダ券を持って、中央塔の五階にある食堂にリースさんと突撃を駆けました。そこで私は衝撃的な出会いを果たすのです。

 昼の混雑を避けるために時間を一時間ほどズラしました。おかげで食堂内の喧騒はすっかりなりをひそめ、落ち着いた風です。
 厨房と食堂を隔てるカウンターにて直接、注文をするスタイルのようで、壁面にあるメニューの一覧にざっと目を通します。
 どうやら焼きや煮込み料理は揃っているようですが……。

「やはり揚げ物類はありませんか」

 そう、王都の方でも探してみたのですが一切見当たらなかったのです。あちらは食文化が塩オンリーなので当然なのかもしれませんが、これだけ豊かな食文化を誇る魔族領ならばと期待していたのですが、ガッカリです。
 するとそんな私の心の声が外部に漏れていたらしく、それを耳にした方がカウンターの向こうからズイと顔を寄せてきました。

「すまんが、今の話を詳しく聞かせてくれないか」

 声をかけてきたのは、いわゆるミノタウロスという感じの亜人さん。
 彼はこの食堂の料理長でした。見上げるほどの大男でガチムチです、というかカウンター越しに、よっこらと背伸びして厨房を覗いてみると、そこにいた皆様方が全員そんな感じでした。首から上がアニマルで体が頼れる兄貴です。調理道具や厨房の造りも彼らの体に合わせているらしく、どれもこれも巨大です。寸胴鍋なんて私がお風呂に使えるぐらいのサイズがありました。
 料理長は食の求道者らしく、常に新しい味を追い求めて、どんな些細な情報にもアンテナを尖らせているのです。ですからこんな私ごとき小娘の呟きにもピクンと反応したのでした。そんな彼に敬意を表し、私は自分が知る限りの揚げ物料理について語ってきかせました。ついでに厨房にお邪魔して簡単な料理も作ってあげました。料理といったって、ジャガイモに似た野菜を切って揚げただけの、ただのフライドポテトですが。
 それでも料理長にはえらく感謝されました。お礼にタダ券をいっぱい貰いました。
 その日は目当ての焼肉弁当を買って引き上げましたが、数日後に再び食堂に顔を出すと、笑顔の料理長が出迎えてくれます。壁を見上げるとすでに揚げ物メニューがズラリと販売されていました。試しに唐揚げとコロッケを注文してみたのですが、すでに私の記憶の中にある本家をぶっちぎって超えていました。魔族の料理人たち半端ねぇです。ざっくりとした素人の説明だけで、ほんのわずかな時間で再現するだけでなく、それを超えて超進化を果たしてしまいました。

「花蓮ちゃんのおかげでウチも大助かりよ。油の海で揚げるなんていう調理法を教えてくれて、本当にありがとうよ」

 料理長に高い高いをされて大喜びされました。それはいいのですが興奮のあまり投げないで下さい。高い天井すれすれまで飛んでは落ちるというのは、ちょっと……うぷ、さっき食べたばかりの揚げ物が。
 リースさんの仲介で事なきを得ましたが、危うく黒歴史を作るところでした。危ない危ない。ところで料理長、硬いお肉やクズ肉を有効利用する調理法もあるのですが……。
 これ幸いと研究熱心な料理長にハンバーグやら餃子やらも伝授しておきます。これで私の食生活はますます豊かになることでしょう。

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