とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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44 魔王様

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 魔王城、中央塔二階にある執務室にてお会いした魔王様は、とても草臥れていました。
 日々の激務で心身ともにお疲れのご様子。
 見た目は下町の工場長といった感じです。金策に駆けずり回って、クタクタといった男性のお姿でしたが、もちろんそれは仮初の姿。彼もまた人化しているようです。
 私の危機察知能力が過去最高値をぶっちぎっています。気配とか圧とかを感じる、そんな生易しいレベルではありません。まるで空が落ちてくるような感覚、あまりの巨大さ、スケールが違い過ぎます。
 人類連合、あんたらは本当に、こんな方に決戦を挑むつもりだったのですか? 無理ムリむり! 絶対に無理だから! 例え全人類が勇者化したって勝ち目ありませんから! なんて考えていたら、ふっと体が軽くなりました。
 先ほどまで私を包んでいた感覚が霧散しています。

「ふむ、このオレの威圧を受け流すか……、沢良宜花蓮(さわらぎかれん)といったか、異世界の勇者よ。なかなかやるではないか」

 にやりと笑う魔王様。
 どうやらわざと威圧をかけて私を試していたようです。それから私、勇者じゃないんで、そこんところ、念を押しておきます。

「しかし報告にあったとおりヘンテコな女だな。強いのか弱いのかよくわからん。こうして面と向かってさえ、その力が計りきれん。こんなことはオレも初めてだ」

 魔王様がしげしげと私を眺めます。その眼差しには珍獣を見るかのような感情が見え隠れしていました。男性にこのように見つめられますと、乙女としては困ってしまいます。
 するといつの間にか執務室に姿を現したガラシャさんが、スタスタと魔王様に近づくと、その頭をパシンと叩いてしまいました。

「あいたっ」
「こら! 若い娘さんをジロジロ見るんじゃない! このスケベおやじが!」

 魔王様をスケベおやじ扱いする銀髪のエルフさん。
 そんなことして大丈夫なの? と心配していたら、なんとこのお二人、ご夫婦なんですって。

「……ということは、ガラシャさんは王妃さま?」
「まぁ、対外的にはそうなるか。でも柄じゃないし、こっちじゃあ軍団長の方で通っているがな」

 凛々しいガラシャさん、魔族軍を束ねる偉い人でした。しかも第一部隊は彼女の直属らしいです。つまりアルティナさんやフリージアさんの上司ということになります。ちなみに魔族軍は六つの部隊で構成されているんだとか。きっとどれもこれも、とんでもない方々の集まりなのでしょうね。

「こほん……、まぁ、花蓮に関してはカミさんやブラストからも報告を受けているし、極めて協力的かつ、すでに数々の恩恵をもたらされているようなので、以後は好きにしていいぞ」

 魔王様からお墨付きを頂いてしまいました。ただし、何かことを起こすときには、事前に相談するようにと釘を刺されましたが。

「だったらお部屋は今のままでお願いしたいのです。あとリースさんも」
「あんな高層階、不便じゃねぇのか? なんだったら使い勝手のいい場所に、屋敷の一つや二つ用意してやるぞ」と魔王様。さすがは絶対権力者、だが断る。

「いえいえ、私の元いた世界では、高層階での暮らしは庶民の憧れだったのです。ですから、どうか私の夢を奪わないで下さい」
「ふーん、そんなもんかねぇ。まぁ、いいや、どうせ誰も使ってなかったし、だったらあそこは花蓮にくれてやろう。寄付金の額やら文化貢献を考えたら、褒美としてはむしろ安いぐらいだしな。あとリースの奴は引き続き世話役としておこう。不慣れな土地だし、そのほうがいいだろう」

 なんと居候から家主に格上げされました、魔王様太っ腹。
 リースさんも引き続き仕えてくれるようになり、私としては万々歳です。
 こうして魔王様との初会合は、ホクホク笑顔のうちに終わりました。

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