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61 王国へ

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 ただいま紅いドラゴンの背に揺られて移動中です。
 旅のお供はドラゴンのアルティナさんとセラーさんですが、闇に生きる彼女は私の影の中で就寝中です。なんでも私の影の中は居心地がいいんだとか。違いはわかりかねますが、当人が気に入っているのですから、良しとしましょう。
 一行がまず目指すのは魔族と付き合いのある第三国、そこを経由して王国に潜入する予定。直接行ってもいいのですが、たぶんドラゴンの姿で恐慌が起きて、かえって任務の妨げになるだろうとのこと。だから用心しつつ、ブラブラと王国まで行くことになりました。第三国とは裏で密約が為されているそうで、迷惑をかけない限りは出入り自由となっています。もっとも邪魔なんてしたくても無理でしょうが……。

 第三国は自然の美しい小国です。
 大きな湖があって豊かな水源と景色が宝物。なお人類連合には加盟しておりません。
 そんな予算も兵力もないと、王様がきっぱりと断ったそうです。実際に無い袖は振れないのですから、仕方がありません。なおもゴネる連合側に「だったら融資しろ!」と言ったら、ピタリと勧誘がなくなったらしいですね。
 誰だって返してもらえる見込みのないお金なんて、払いたくありませんから。
 あの湖では川魚の養殖なんかが盛んなようですので、気が向いたら後で立ち寄ることにしましょう。

 第三国から王国へと通じる関所の手前で、空路から陸路に切り替えです。
 紅い髪が特徴的な人化したアルティナさんには、フード付きのマントを被ってもらいました。私は地味な冒険者風の格好です。セラーさんは影の中に潜んでもらい、念のために周囲を警戒するようにお願いしています。ちなみに設定は旅の異母美人姉妹です。異論は認めません。
 何かあるとしたら王国側の関所だろうなぁ、と考えていたら案の定でした。上が腐っていると末端もソレに倣う奴が出るもの。アルティナさんに向ける視線が露骨にゲスいです。ついでに私にも欲望塗れの手を伸ばしてきました。出入国の書類一式、問題のないハズなのに、何のかんのと理由をつけては別室に連れ込もうとします。
 ぶち切れたので、足の甲を撃ち抜いて黙らせました。心配なさらずともゴム弾です。せいぜい足の甲の骨にヒビが入って、ぷっくりと腫れあがる程度で済むでしょう。
 そして設定を旅の凄腕美人姉妹冒険者に変更しました。するとすんなり関所を通してくれました。なまじ弱々しさを前面に押し出して、相手の同情を誘おうとしたのが甘かったようです。どうやらこちらの世界では、舐められたら負けのようですね。以後、気をつけるとしましょう。

 しばらく後方に気を配りつつ、街道を歩いていきます。
 セラーさんにも頼んで、周辺を調べてもらいましたが、待ち伏せの類もないとのこと。どうやら徒党を組んで、追いかけて襲って来るほどの根性はなかったようです。

「それにしても質の悪い衛兵どもだな。あれじゃあ関所を守っている意味がないじゃないか」と呆れ顔のアルティナさん。
「人件費の無駄ですね。彼らには自分が王国の顔であるという、自覚が足りないのでしょう」

 セラーさんがもっともな意見を述べる。私も激しく同意だ。
 他国から来訪した人間が、一発目にアレと接したら、王国への信用度はがた落ちです。ですから本来ならば関所や諸外国と接する場所には、もっとも用心して人材を配置しなければならないというのに、この国のお里が知れようというものです。もしかしたら姫様が王位を継いだらかわるのかしら?

「花蓮が漫談していた例のビッチ姫だろ? たぶん変わんねぇよ。あの手の権力志向の強い奴ってのは、地位を手に入れたら、今度はそれを守るのにあくせくするって、相場が決まってるんだ」

 あくまで憶測に基づく姉御の言葉、なのにやたらと説得力を感じます。
 なおセラーさん情報によると王都では、先の遠征の失敗によって王子の株がだだ下がり支持率急降下、対してビッチ姫が攻勢を強めているんだとか。勇者組の中でも、男子を中心にして使えそうな人材を積極的に、自陣へと取り込んでいる模様。王子側だって黙って指を咥えているわけじゃないので、勇者の争奪戦へと発展しつつあるんだとか。
 どうやら王都はかなり荒れているようですね。内紛勃発はこちらとしては好都合です。混乱に乗じて宮原さんを連れ出すついでに、以前にお世話になった商人さんらにも声をかけて、早いうちに第三国へと出国することを促しておきましょうか。そちらに居てくれれば、いざという時に助けてあげられますからね。

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