とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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67 荒野の女冒険者

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 朝市に突撃をし、人混みをスイスイと躱して、目当ての品を仕入れまくっていたら、地元の人相の悪い方々に目をつけられました。おおかた大金を持った小娘がいるとでも思ったのでしょう。面倒なので無視して、買い物を続けていたらドンドンと数が増えていきます。気づいたら後ろに三十人近くのチンピラどもが、金魚のふんと化していました。
 しょうがないのでわざと路地裏に誘い込んで、そこでセラーさんがボコボコにしました。一人、また一人と足元の影の中に引きずり込まれて、消えていきます。次に地面に姿を現したときには、酷い有様になっていました。人間の股関節って、あんな角度にも曲がるのですね、初めて知りましたよ。

 害虫駆除を終えて、路地裏から出ていくと、地元の貴族らしき男性が兵を連れて現れました。なんでも「騒乱罪で逮捕する」だそうです。おかしいですよね、私は襲われた側だというのに……。

「もしかして、これってズルズルの関係ですか?」

 露店の婆さまに訊ねたら、うんうんと頷いてくれました。どうやらヤクザ者が権力とくっついて、街でやりたい放題だったらしいです。呆れたのでバンと一発、貴族のボンボンに喰らわして黙らせました。大丈夫、ちゃんとゴム弾を使用しています。ちょっと頭蓋骨にヒビが入る程度で済むでしょう。

「次はない」

 ドスの効いた声で凄んでみせますと、兵士らは倒れた主を担いで、慌てて逃げて行きました。やれやれですね。気を取り直して買い物の続きをしていると、やたらと声をかけられました。街の皆様、よほど鬱憤が溜まっていたようです。いっぱいサービスされて、かえって申し訳ないほどでした。

 目的を済ませて、ホクホク顔で街を出て、しばらくするとズラリと周囲を取り囲まれました。賊やらチンピラやら兵士やらと、とにかく無頼の徒がワラワラと集まっております。どいつもこいつも欲望塗れの野卑た顔をして、舌なめずり。率いていたのは先ほど気絶させた貴族の方でした、どうやら面の皮が厚かったらしくって、ゴム弾の衝撃が思いのほか軽かったようです。

「さっきはよくもやってくれたな、今度は……」

 パンっと彼の言葉を遮るように発射音を被せました。
 次はないと言ったはずです。
 だから今度のは実弾です。額に風穴を開けてコテっと倒れる貴族の男。あまりの突然のことに呆気に取られる一同を前にして、悠然とガトリング砲を取り出した私は、これをガリガリ放ちます。ものの一分ほどで討伐完了です。生き残りの止めは、セラーさんにお任せしました。これで運よく弾を躱せた方も、確実に地獄往きです。影に潜み闇に生きる女は、敵には容赦しないのです。涙ながらの命乞いなんか、せせら笑ってブスリです。

「やりますね、花蓮さま。人間相手だったら敵なしですよ」
「あくまで人間限定ですけどね。それに今回は特別です。お世話になった街の皆さんが困っているようでしたので。話によれば、若い女子をさらっては、酷いこともしていたみたいですし、コレなら殺っても心が痛みませんから。普段ならば逃げますからね」
「なるほど、ところでコレの始末はどうしましょうか? 放っておくとモンスターとかが寄ってきちゃいますよ」
「ああ、それならいいモノがあります」

 そう言って創成魔法にて取り出したのは火炎放射器、うろ覚えですが、あまりに人道を外れ過ぎていて、悪魔の兵器と呼ばれているんだとか。ですが汚物を償却処分するには便利な道具です。山となったゴミが、あっという間に炎に包まれてしまいました。無駄に脂肪を溜め込んでいるせいか、よく燃える。

「さて、そろそろ引き上げるとしましょう。早く帰らないとリースさんがへそを曲げてしまいますから」

 セラーさんに影に入ってもらい、私は土煙を巻き上げながら、猛然と走り出しました。
 夜までには魔族領に戻りたいと思います。
 だって追撃とか来たら面倒ですから。


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