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76 切り崩し
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人間領、最大の軍事力を誇る国の軍勢が平原を埋め尽くしていました。
隣国へと進軍するために駐屯しているのです。
丘の上から、その群れを睥睨していた私は、ゆっくりと歩いて向かっていきます。
すると敵陣より一斉に放たれた膨大な量の弓矢が、陽射しを遮り、雨となって降り注いできました。
第七部隊を預かるようになった私は、ちょくちょく人間領に派遣されています。
主な目的は、人類連合の切り崩しです。べつに魔族領としては放っておいても構わないのですが、知己の第三国からの救援要請がこのところ、とみに増えているのです。かといって魔族の面々が出張ると大惨事です。下手をすると救うべき対象国まで吹き飛ばしてしまいます。そこで白羽の矢が立ったのが新設の私のところ。通称、ワンワン隊と揶揄される第七部隊は、彼らの餌代とヘアーサロン代を稼ぐために、どうしても予算が必要なのです。ですがなんら成果の出していない、ごく潰しに割かれるお金なんて微々たるもの。だからせっせとお仕事をして、その有用性を示せとの魔王様の思し召し。
いつの間にやら、すっかり軍属に丸め込まれている私こと沢良宜花蓮は、おかげで柄にもないことにあくせくしているワケです。
狼をデフォルメした可愛い白いお面を被った私が、軍勢にテクテク近づくと、いきなり攻撃されました。何万本もの矢の雨が降り注ぎます。
反復横跳びの要領にて、すべて躱してやりました。もったいないので後で回収して、矢じりは鋳つぶして、それ以外は燃料として再利用しましょう。
敵が健在だとわかった途端に、軍勢がワラワラとこちらに殺到して来ました。
私はピューと口笛を吹きます。
すると大地に百一もの光る魔法陣が出現して、中からフェンリルたちが飛び出してきます。
「とりあえず死ななない程度に蹴散らして下さい。あと食べても、きっと美味しくないので、興味本位で手足をかじらないように」
ボスワンを筆頭に、フェンリルの群れが軍勢に突っ込んで、無造作に蹴散らしていく。
人間たちも懸命に立ち向かっているのですが、剣も槍も魔法も、彼らの毛並みに防がれて攻撃がまるで通りません。いろいろと残念なところはあるものの、アレでも魔族領で一族を成すほどの生物ですからね。下手なモンスターより、ずっと強いです。
いつの間にか影より姿を現したセラーさんが、その辺で適当に敵兵を嬲っています。
リースさんは丘の上から狙撃に徹しています。二人とも完全に遊んでいますね。
私は混乱する軍勢の中を、シュタタタと駆け抜け、敵の一番エライ人の下へ直接出向きます。
本営にて鎮座していた血気盛んな若き皇帝、その彼のこめかみに銃口を突きつけて、私は「まだヤリますか?」と言いました。
周囲にいた護衛やら重鎮らが騒然とする中、皇帝は実に落ち着いた様子にて「わかった。オレの負けだ」と口にしました。もっと悪あがきとかするのかと思っていたのですが、意外と素直です。
「それにしても魔族とはコレほどまでに強いのか……、オレはずっと本国にいて前線からの報告を聞くばかりだったのだが、実際に目にするのとでは大違いだな」
実に殊勝な態度です。現実をちゃんと直視出来ています。きっとこの方は国元ではよき支配者なのでしょう。ですが今後のお付き合いもあるので、せっかくだからもう少しだけ魔族について教えておいてあげましょう。
「ちなみに私は魔王軍の中では最弱……、上の方々は遥か高みにいる。ゆめゆめ幻想に踊らされずに自国の発展に努めよ。さすればいずれ我らが手を携えて、供に歩く未来も来よう」
ちょっと格好をつけた台詞を言ってみると、皇帝さんが愉快そうに笑いだしました。
「フハハハハハ、これで最弱だと。なんとも豪気な話だ。凄げぇな、魔族って! 気に入った! なぁ、あんた、オレの嫁にならないか?」
いきなり口説かれました。
仕事も出来そうですし、ルックスはわりと好みですが、お付き合いはちょっと……、いきなり結婚は重いですし、なにより王妃さまなんてシンドイじゃないですか。歩く市松人形には荷が重すぎます。私は小さな幸せを求める女なのです。
ですので丁重にお断りします。
停戦して即時撤退、後に不可侵条約を結ぶことを皇帝が確約されたので、私は部隊を連れて、とっとと帰還しました。
なお皇帝さんの国は、その後に人類連合を脱退しました。最大戦力が抜けた連合が大ダメージを受けたのは言うまでもありません。
隣国へと進軍するために駐屯しているのです。
丘の上から、その群れを睥睨していた私は、ゆっくりと歩いて向かっていきます。
すると敵陣より一斉に放たれた膨大な量の弓矢が、陽射しを遮り、雨となって降り注いできました。
第七部隊を預かるようになった私は、ちょくちょく人間領に派遣されています。
主な目的は、人類連合の切り崩しです。べつに魔族領としては放っておいても構わないのですが、知己の第三国からの救援要請がこのところ、とみに増えているのです。かといって魔族の面々が出張ると大惨事です。下手をすると救うべき対象国まで吹き飛ばしてしまいます。そこで白羽の矢が立ったのが新設の私のところ。通称、ワンワン隊と揶揄される第七部隊は、彼らの餌代とヘアーサロン代を稼ぐために、どうしても予算が必要なのです。ですがなんら成果の出していない、ごく潰しに割かれるお金なんて微々たるもの。だからせっせとお仕事をして、その有用性を示せとの魔王様の思し召し。
いつの間にやら、すっかり軍属に丸め込まれている私こと沢良宜花蓮は、おかげで柄にもないことにあくせくしているワケです。
狼をデフォルメした可愛い白いお面を被った私が、軍勢にテクテク近づくと、いきなり攻撃されました。何万本もの矢の雨が降り注ぎます。
反復横跳びの要領にて、すべて躱してやりました。もったいないので後で回収して、矢じりは鋳つぶして、それ以外は燃料として再利用しましょう。
敵が健在だとわかった途端に、軍勢がワラワラとこちらに殺到して来ました。
私はピューと口笛を吹きます。
すると大地に百一もの光る魔法陣が出現して、中からフェンリルたちが飛び出してきます。
「とりあえず死ななない程度に蹴散らして下さい。あと食べても、きっと美味しくないので、興味本位で手足をかじらないように」
ボスワンを筆頭に、フェンリルの群れが軍勢に突っ込んで、無造作に蹴散らしていく。
人間たちも懸命に立ち向かっているのですが、剣も槍も魔法も、彼らの毛並みに防がれて攻撃がまるで通りません。いろいろと残念なところはあるものの、アレでも魔族領で一族を成すほどの生物ですからね。下手なモンスターより、ずっと強いです。
いつの間にか影より姿を現したセラーさんが、その辺で適当に敵兵を嬲っています。
リースさんは丘の上から狙撃に徹しています。二人とも完全に遊んでいますね。
私は混乱する軍勢の中を、シュタタタと駆け抜け、敵の一番エライ人の下へ直接出向きます。
本営にて鎮座していた血気盛んな若き皇帝、その彼のこめかみに銃口を突きつけて、私は「まだヤリますか?」と言いました。
周囲にいた護衛やら重鎮らが騒然とする中、皇帝は実に落ち着いた様子にて「わかった。オレの負けだ」と口にしました。もっと悪あがきとかするのかと思っていたのですが、意外と素直です。
「それにしても魔族とはコレほどまでに強いのか……、オレはずっと本国にいて前線からの報告を聞くばかりだったのだが、実際に目にするのとでは大違いだな」
実に殊勝な態度です。現実をちゃんと直視出来ています。きっとこの方は国元ではよき支配者なのでしょう。ですが今後のお付き合いもあるので、せっかくだからもう少しだけ魔族について教えておいてあげましょう。
「ちなみに私は魔王軍の中では最弱……、上の方々は遥か高みにいる。ゆめゆめ幻想に踊らされずに自国の発展に努めよ。さすればいずれ我らが手を携えて、供に歩く未来も来よう」
ちょっと格好をつけた台詞を言ってみると、皇帝さんが愉快そうに笑いだしました。
「フハハハハハ、これで最弱だと。なんとも豪気な話だ。凄げぇな、魔族って! 気に入った! なぁ、あんた、オレの嫁にならないか?」
いきなり口説かれました。
仕事も出来そうですし、ルックスはわりと好みですが、お付き合いはちょっと……、いきなり結婚は重いですし、なにより王妃さまなんてシンドイじゃないですか。歩く市松人形には荷が重すぎます。私は小さな幸せを求める女なのです。
ですので丁重にお断りします。
停戦して即時撤退、後に不可侵条約を結ぶことを皇帝が確約されたので、私は部隊を連れて、とっとと帰還しました。
なお皇帝さんの国は、その後に人類連合を脱退しました。最大戦力が抜けた連合が大ダメージを受けたのは言うまでもありません。
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