とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝

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96 夫婦における見解の相違

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 小高い丘の上から、平原を見下ろせば、うじゃうじゃと有象無象がいました。
 千どころか三千近くいるんじゃないでしょうか。
 どうやら猫の手も借りたいほどの人手不足な代理政府から、声もかけてもらえないようなミソッカスどもが、豚王のところに大集結しちゃったようです。

「報告よりずっと多いですね。どうしましょうか、花蓮さま」

 影からにょろりと姿を現したセラーさん、なんだか少し楽しそうなのは私の気のせい?

「我に任せるのである。あんなものフェンリル砲で一発なのだ」

 ボスワンが尻尾をバサバサ振って、そんな事を言いました。
 フェンリル砲って何? 初耳なんですけど……。

「あー、面倒なのでコレで始末しちゃいましょう」

 よっこいしょと、私は創成魔法にてミサイルを造り出しました。核じゃありませんよ、大陸弾道ほにゃららとかいう奴です。ちょうど一か所にまとまってくれていますし、アレぐらいの集団だったら、コレでまるっと消滅でしょう。
 カチカチとパネルを操作して、五分後に起爆するようにセットしてから、ボスワンにあちらに向かって飛ばしてもらいました。
 毛むくじゃらの大きな前足にてパチンと叩けば、丘の上を滑るようにして敵陣へと突っ込んでいくミサイル。いい感じで王様のいる本陣近くまで、ある程度の敵兵を蹴散らしつつ進んでくれました。「なんだ、これは?」と騒いでいる連中を尻目に、私たちは戦線離脱、すると後方にて大爆発が起こりました。

 しばらくしてから確認に戻ると、そこには焦土が出現していました。

「王様……、死んだでしょうか?」
「むしろこれで生きてたら大したもんです。あくまで人間としては、ですが」
「念のためにフェンリル砲で跡地を薙ぎ払っておくか?」

 後腐れのないようにボスワンにお願いして、薙ぎ払ってもらいました。
 口からなんだか青白い炎みたいのが噴出して、砲というより火炎放射っぽいです。かなりの高温らしく、瞬く間に残骸が消失し、後地が一面ツルツルのガラスのようになって、とても綺麗でした。



 王都に戻ったら、都中が騒然としていました。
 どうやら空高くにまで爆発の余波にて雲が立ち昇り、それがこちらからでも、ありありと見えたんだとか。
 とりあえず式典用の花火が失敗しただけ、と城の広報には誤魔化すようにお願いしておきました。それだけでなく代理政府の方々と協議して、豚王の乱そのものを無かったことにしてしまいました。だってお姫さまが女王に即位される際の障害にしかなりませんから。最初から最後まで、国益を損なうことしかしなかった父親の存在なんて知りません。不都合な真実なんて隠蔽しちゃいましょう。

 なお王妃さまは、今回の企みに一切加担されておりませんでした。
 あの方は生粋のモノグサらしく、蟄居先にて悠々自適な生活を送っていたそうです。王様が蜂起するにあたって、彼女にも再三に渡る参加要請を出したそうですが、これをすべて無視し続けて、ひたすら寝る喰う寝るという、羨ましい生活を送っていたのだとか。かといって贅沢三昧とかじゃないですよ。王妃様の幸福レベルは、どうやら私に近いモノであるようです。衣食住が保障されて、そこそこの暮らしが送れれば、それで幸せという人。大きなお屋敷に住みたいわけでも、綺麗なドレスや宝石、大量の金貨が欲しいわけでもなく、食事だってお腹が満たせて、ついでに美味しかったら嬉しいな、といった具合です。
 そんな彼女にしてみたら現状は大歓迎なのですよ。あらゆる雑事から解放されて、ついでに馬鹿な子たちや、臭い夫からも解放されたのですから。
 一応は代理政府の面々がお伺いに行ったらしいのですが、「お好きにどうぞ」と言われて終わったそうです。というわけで元王妃様は、このまま国で飼うことになりました。
 私は王都滞在中、最後まで顔を会わせる機会はありませんでしが、なんとなく共感を覚えてしまいました。
 老後は彼女のように過ごせたら、きっと素敵ですよね。

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