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63 封印の大扉
しおりを挟むすぐそばまで近づいて、並んで大扉を見上げる翡翠(ひすい)のオオカミと水色オオカミの子ども。
スンスンと鼻を動かしたのはラナ。
「ニオイはしないね。この様子だと、きっちり目張りがされてあるみたいだ」
ルクもマネをしますが、やはり何もニオイはしません。ですが……。
「なんだろう……、なんだか首のうしろがぞわぞわするよ」
「イヤな感じはするかい?」
「うーん、イヤというか、なんというか。ズーンと心が重くなる、みたいな」
そう言ってルクは小首をかしげました。どうやら自分でも自分の感じていることが、よくわからないみたい。
その様子に「ふむ」とうなづいたラナ。
「あんたは感覚が鋭いし、鼻も利く。そう言うからには、きっとこの扉の向こうには、何かがあるんだろうね」
「開けちゃう?」
「そうだねえ。中身は気になるところだけど、そいつはヤメておいたほうがよさそうだ」
足下を眺めながらそう言ったラナは、床から視線を外そうとしない。
ルクも見てみると、ちょうど扉の前の床一面に何やら絵みたいなのが描かれてあります。
大きな絵なので、顔を近づけすぎるとよくわかりませんが、数歩下がって眺めてみたら、そこには黒いドクロの絵。目のところが赤く塗られており、なんだかとっても不気味。
ドクロからウネウネした波? みたいな線が出ていて、その先にて小さな人みたいなモノが、バタバタと倒れている姿が。
「ねえ、ラナ、これって……」
「あぁ、何かはわからないけれども、ヤバイことだけは確かなようだ」
「だからこんなにも、しっかりと扉のスキ間を埋めているのかな」
「だろうね。逆に考えれば、ちょっとでも外に漏れたらダメなモノ、ということなんだろう」
鎮魂の森にある石碑をいじったら、突如としてあらわれた大穴。
内部は特別な鉄で囲われている。
まるで地の底にまで続いているような穴を、ひたすら降りて行ったら、なにやら得たいの知れない危険物が、厳重に封じられている場所が待っていた。
「サビない鉄のことといい。こんな地下深くにまで、わざわざ運ぶだけじゃなくて、大扉の向こうに閉じ込めるほど。ぶっちゃけ、勇者どもが探している魔王ってヤツを封じるのでも、ここまではしないと思うよ」
自分の意見を口にしながらラナは扉の前から離れると、こんどは壁の方へと向かいました。
ルクもあとにつづきます。
薄闇ゆえに気づけなかったのですが、よく見るとそちらにも床にあったのと同じ絵が描かれてあります。
壁沿いに歩いていくと、赤目の黒ドクロと倒れる人々の姿が、何度も何度も何度も何度も、くり返されてある。
それらをジッと眺めていると、黒ドクロがケタケタと笑っているかのような錯覚を見て、ルクはドキリとなりました。
「この分だと、あの石碑に書かれていた内容も、なんらかの警告文だったんだろうね。さてと、ルク、いちおうは目的も達したことだし、地上に戻るとするか」
「うん。それがいいよ。ここってば、なんだかおちつかないし」
「じつは私もなんだよ。みょうに心がザワつきやがる。嫌悪とはちょっとちがう。忌避感みたいなものか。とにかくここはあまり長くいるべき場所じゃないようだ」
二頭は来た道を戻るべく駆け出しました。
途中に何もないのはわかっているので、帰りはぞんぶんに走ります。
翡翠のオオカミが駆ける後ろ姿を追う水色オオカミの子ども。
彼らの歩みに合わせて、背後の明かりが次々と消えてゆき、暗くなる。
長い坂を駆けあがっていると、まるで背後から闇の領域が迫って来るかのよう。
自分たちの足音にまじって、ルクにはあの黒いドクロの笑い声が聞えたような気がしました。
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