水色オオカミのルク

月芝

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64 星の都

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 中央の城をかこむようにして、いくつもの大小の塔が乱立しており、トゲトゲとしていますが、全体がふしぎな調和を保っている。
 とても大きな湖の中にある孤島に築かれた都。
 空をうつす鏡のような静かな湖面。
 天と地、二つの空にはさまれた都が、まるで宙に浮かんでいるかのよう。

 その姿を一望できる高台から眺めていたのは翡翠(ひすい)のオオカミのラナと水色オオカミの子ルク。
 ラナの指導のかいもあって、ルクはメキメキと腕をあげ、水色オオカミのチカラをかなり扱えるようになってきました。
 それでもまだまだ子ども。
 目の前の景色に心を奪われて、「うわー、すごいなー」と大はしゃぎ。

「都があるあの島はね、正しくは島じゃない。もともとは大きな岩だったんだよ。ウソかまことか星の海から落ちてきだんだと。それを人間たちが少しずつ削りだして、あの都の形にまでしたそうな」
「へー、なんだか、たいへんそう」
「あぁ、ノミとクイでコツコツやったというんだから、途方もない仕事だよ。それだけあの国は歴史が古いってことさ。もっとも、それもじきに終わるだろうけどね」
「えっ! なんで?」
「まぁ、そのあたりのことについては、今夜にでも話してやるよ」

 なにやら意味深な言葉を口にするラナ。
 じらされたルクは、ちょっぴり不満顔です。



 息をのむようなオレンジ色の空が、やがて薄紫の夕闇とゆっくりと混ざり合い、藍色へとかわる頃、ポツリポツリと星もまたたきはじめました。
 じきに陽が完全に落ちて、夜の世界が幕を開ける。
 見上げれば満天の星空。
 それをうつす湖面もさぞやキレイになるかと思いきや、一面が黒。
 星のかがやきの欠片もありません。
 よく見てみると、湖の水がすっかりと干上がっているではありませんか! いったい湖の水はどこに消えてしまったのでしょうか。
 ルクがあれれ? と首をかしげている姿を見て、ラナがくすくす笑いました。

「ここはね、夜になると水がどこかに消えてしまうんだよ。そして朝になるとまたもとどおりに姿をあらわす。詳しい理屈までは知らないが、きっと海の潮の流れと同じようなものなのかもしれないね」
「海かぁ、ボクはまだ行ったことないけど、海の水も消えちゃうの?」
「場所にもよるがな。減ったり増えたりといろいろさ。それよりも、ほら、ごらん。そろそろだよ」

 ラナにうながされて目を向けると、巨大な岩を削ったり、くり抜いたりして造られたという都の方々に、灯りがともりはじめました。
 大小さまざまな灯りが無数にともり、夜陰の中にぼんやりと浮かび上がって、不夜城と化した都。
 星の海のきらめきと、人の営みが造り出した光、それらが漆黒の舞台の上にて競演している姿はとても幻想的で、視線をそらせないほどの美しさ。
 ですが……。

「ほへー、キレイだねー。でもボク、あまりあそこに行きたいとは思わないかなぁ」

 都の方から流れてくる風に、鼻をヒクヒクとさせたルクが、そんな感想をこぼしました。
 それを聞いたラナが満足そうにうなづきます。

「ああ、それが正しいよ。ルクはその感覚を大切にしな。きっと御使いの勇者の旅において、あんたを守ってくれるはずだから」

 言われてコクンとうなづいてみせると、ラナは「ではそろそろ昼間の話の続きをしてあげようか」と言い出しました。

 ラナが語ったのは、星の都とうたわれた場所の起こりと、たどった歴史でした。
 そこにはルクが知っている、ある人物も深く関係していたのです。


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