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65 賢人
しおりを挟む大きな湖の中にある島に造られた都を中心として、周辺を統治していたのはルヴェール王国。
キレイな見た目とは裏腹に、国はとても貧しかったのです。
周囲はごらんの通りの水浸し。作物は満足に育ちません。
たえずジメっとした湿気があるせいか、油断をしているとすぐにカビが生えて食べ物はいたんでしまい、ヘンなキノコがそこかしこにひょっこりと顔を出す。しかもそれらが放つ粉を吸うと、セキがとまらずに、熱をだして体調を崩してしまうからたいへんです。
この事態を憂いた当時の王様は、どうにかできないものかと、解決策を見つけるために六人の王子たちを各地につかわします。
しばらく各地を放浪した後に、次々とうなだれて帰って来る王子たち。
みな何も見つけられなかったのです。
ですが末の王子だけはちがいました。一人の女性を連れて帰ってきたのです。
「父上、およろこび下さい。彼女は偉大なる魔女エライザ。いく億もの英知をたくわえし者。彼女の手助けがあれば、きっとこの国は生まれかわれます」
末の王子が紹介したのは、黒髪黒目の若い娘。
格好は農婦のような、やぼったい服装。どこにでもいるようなふつうの娘。ですが、夜の宝石を思わせるような双眸には、英知のかがやきがある。
ひと目その瞳を見た王様は、とりあえず彼女に助力を請うてみることに決めました。
どこのウマの骨ともわからない女。
というよりも、地味でやぼったいソバカス娘ゆえに、ウマというよりはロバの骨だろうとバカにする周囲をよそに、魔女エライザがまず着手したのは、国土のすみずみまでを徹底的に調べること。
末の王子を案内役に、毎日、国中を駆けずりまわっては、土の状態や気温や気候、風の向き、そこに生えている植物や暮らしている動物やムシなどについて、情報を集めては記録していく。
次におこなったのは、調査の中で手に入れたいくつかの植物を育てること。
毎日、泥だけになっては土をいじっているエライザに、「あれじゃあ、魔女じゃなくて、農民だろう」とののしる者も少なくありませんでしたが、彼女は気にしませんでした。
なぜなら、わざと魔法の類は使わないようにしていたのですから。
だって魔法で問題を解決してしまうと、一時はいいですが、後が続きません。
人が人の手によってなせる解決策でないと、国の未来にはつながらないのですもの。
エライザが育てたのは湿地でも育ち、なおかつクスリの材料になるものばかり。
水があり、土があり、性質が合い、手間暇をかけ愛情をそそげば、植物は育ちます。
ちょっとだけ魔法も使いましたが、それでもネコの額ほどの小さな畑いっぱいの収穫を得るのに、丸一年がかかりました。
散々に苦労を重ねて、得られた成果がこれだけ……。王様は内心でがっかり。五人の王子たちもあざけりの表情を浮かべました。
ですが当の魔女と末の王子は満足気に微笑んでいます。
その表情の意味はすぐにわかりました。
小さな畑でとれた収穫物が、金貨の山に化けたのですから。
育てられたモノは、どれもクスリの材料としては貴重なモノばかり。たったこれだけでも、とんでもない価値だったのです。
魔女エライザが示した国の未来、それは薬草の産地として発展していくこと。
こうしてエライザの指導の下、ルヴェール王国はその道をひた走り、クスリの材料を作るだけでなく、自分たちでクスリを造り、医学への造詣も深めていき、ついには医療大国として名を馳せていくことになりました。
そしてこの偉業を成し遂げたエライザは、賢人として、称えられることになるのです。
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