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110 表彰式
しおりを挟むすべての競技が終了した大会九日目。
表彰台の一番上に立って、みんなからの祝福の声にこたえていたのはリリア。
白熱した馬射競技。結果は判定にまでもつれこみました。
審判団が協議にて、ほんのわずかな差にて栄冠は弓姫の手に。
その差というは、的に刺さった矢の位置。リリア、クロフォード、ともにほとんど的の中央部分を射抜いていたのですが、最後の最後、砂場の直線に設置された十枚のうち、ゴール直前の残り二枚にてクロフォードの放った矢が、わずかに中央からそれていたのに対して、リリアの方はまるで判で押したかのように、キチンとど真ん中を射抜いていたのです。
勝利を告げられたとき、リリアは複雑そうな表情を浮かべました。だって勝てたのはほとんど相棒のビエラのおかげなのですもの。
だから優勝を辞退しようとしたのですが、それはクロフォードに止められました。
「キミが自分の勝利を否定するということは、私を含めて、ここまで競ってきたすべての者たちをも否定するということだ」
その言葉に、ハッとしたリリア。考えなおして、次こそは実力で勝ってみせるとの決意も新たに、この結果を受け入れることにしました。
制射、走射、馬射の三つの部門すべてを制したリリアは、当然のごとく総合部門でも優勝を果たしました。
偉大な父のたどった足跡の上を、なぞるかのようにして歩き出した弓姫。その活躍はまだ始まったばかりです。
総合部門の準優勝はクロフォード。
高位貴族の騎士の家系にもかかわらず、他の参加者たちといっしょになってドロにまみれながらも、優秀な成績をおさめた彼に、惜しみない賛辞が飛びかう。終始かわらぬ騎士道精神あふれる姿勢は、多くの観客たちを魅了し、その偉丈夫ぶりと相まって、一躍、彼の名を高めることとなりました。
そんな二人のそばにヌートの姿はありません。好成績にて上位入賞を果たすも、あと一歩、表彰台に届かなかったのです。
彼の家は街の運営にも関わっているライトテール商会を営んでおり、いまは家族や従業員総出で、パレードと祝賀会の準備に追われているところ。このたびは身内が迷惑をかけたこともあって、女会長のベスさん指揮の下で、おわびの意味も込めて奮闘中。
次期跡継ぎのヌートも大忙しにて、あちこちを駆けずりまわっています。
表彰式が終われば、勝者たちを称えるパレードが街中をねり歩き、あとは夜通し、街をあげてのどんちゃんさわぎ。
勝ったり負けたり悲喜こもごも。でも大会が終われば、すべてを酒にて飲み干し、また明日からがんばる。
ここしばらく、弓の街の人々の営みを間近に見てきた水色オオカミのルク。彼の中で人間に対する考えが、ちょっぴり変化。
「よくわかんない生き物」から「まだよくわらかないけれども、わりとスキかもしれない生き物」に格上げ?
表彰式の様子をフレイアといっしょになって眺めていたルク。
リリアとビエラは、このままパレードが終わるまでは、大会運営側に身柄が拘束されるので、女傭兵と水色オオカミは連れだって会場をあとにします。
「ふむ。リリアもよくがんばったことだし、こりゃあ、何かご褒美を用意してあげなくちゃあいけないかね」
にぎわう街中を歩きながら、フレイアがそんなことをつぶやいていたとき、ふいに奇妙な気配がふくれあがり、おもわず立ち止まるルク。ですが彼女には感じられなかったのか、そのままスタスタ歩いていく。
あまりイヤな感じはしません。むしろちょっと懐かしい感じがするかも……。
ルクが視線を向けたのは、すぐそばにあった店の軒先につりさげられていたランプ。
まだ昼間なので灯りはついていなかったハズのそれに、いきなりポッと火が灯る。
小さな炎がゆらめきながら、まるで小鳥がさえずるような、ささやき声が聞えてきました。
「そこの水色オオカミの子ども。ちと話したいことがある。いそぎ私のところへ」
「えーと、ボクはどこへ行けばいいの?」
「火の山の頂上」
そこで声は途切れて、ランプの火も消えてしまいました。
火の山というと、この弓の街からでも見えている、あのモウモウとけむりを吐き出し続けている大きな山のこと。
その頂上にて水色オオカミの子どもを待つものとは、いったい……。
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