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006 漆黒の草刈り鎌
しおりを挟むポポの里に帰郷し、滞在すること三日目。
挨拶回りもすませたし、お土産配りも完了したし、ハウエイさんのところに井戸も掘った。ついでに消費した薬包も補充してもらった。
聖都での騒動のおり、わたしを脅して言うことをきかせるために、里への襲撃を目論む不埒者どもが立ち入ったとおぼしき、東の竹林の様子も見に行ってきた。
するとタケノコさんから大量の鉄製品を押しつけられた。
連中が持ち込んだ武具装備類一式である。ナマモノとはちがって肥やしにもならず、竹林の景観を損ねるから、ゴミは持って帰れということらしい。
しようがないのでアンのチカラを使って空間内に収納。その足で鍛冶師のボトムさんのところへ運び、丸ごと預けてきた。
腕のいい職人の彼ならば、不毛な武器も有能な道具へと生まれ変わらせてくれることであろう。
お姉ちゃんとの再会により発生した「猛烈歓迎期間」が早くも終了したカノン。「いってきまーす」と元気よく友だちと遊びに行ってしまった。
ひまなので畑に出ようとするも「いいからいいから。せっかく帰ってきたんだから、チヨコはゆっくりしていなさい」と父タケヒコが邪魔をする。
ならばと家事を手伝おうとするも「いいからいいから。聖都ではたいへんな目にあったんだから。チヨコはのんびりしていなさい」と母アヤメがつれない。
二人ともきっと親切心からなのだろうが、まるでお客さま扱いなのが地味に傷つく。
イジイジしつつワガハイの鉢植えを抱え、彼の生誕の地であるわたしの花壇へと赴いたが、そこは雑草がぼうぼう。
でもこれは放置されてあったからではない。
わたしが趣味で育てていたバケユリの季節はとっくに過ぎており、すでに摘まれたから。
数日後には聖都へと戻る予定なので、新しい種や苗を植えたとてわたしにはお世話ができない。
いや、魔王のつるぎアンの転移を使えば毎日通うことも可能だけれども、そのためだけに天剣(アマノツルギ)のチカラを行使するのもどうかと。
だから何も植える気はない。
けれども自分の花壇が草ぼうぼうな姿は見るにしのびない。
そこでわたしはワガハイの鉢を脇に置いて、ちょいと草むしりとしゃれこんだ。
◇
白銀のスコップとなったミヤビを手に、ザクザク地面を掘って、雑草を根っこごと抜き、バサバサふって土を落としてから、ポイっ。
ひたすらその作業をくり返していたら、背後に浮かんでいた漆黒の大鎌こと魔王のつるぎアンがぼそり。
「……自分もお手伝い、する」
母と姉がせっせと仕事をしている姿に触発されたのか、あるいは見ているだけなのに飽きたのかはわからないけれども、これはよい傾向。
だからさっそく手伝ってもらおうと思ったのだけれども、いかんせんアンは立派な大鎌にて、わたしの花壇にはあまりにも大きすぎる。
うっかりブン回したら花壇そのものが粉砕されかねない。
フム。どうしたものかと悩んでいたら、突如としてアンがグルグルと回り出す。
どんどん加速してギュルンギュルン。やがてその姿が目では追えないほどの高速回転となったところで、急に彼女が描く円がシュルルンと縮みだす。
で、かなり縮んだところで「ポン!」と姿をあらわしたのは、小さな漆黒の草刈り鎌。
わたしの手にちょうどいい大きさ。ほどよい質感と重量。しかも刃を折りたためる機能付き。
かくしてわたしこと剣の母は、白銀のスコップに続いて、新装備「漆黒の折りたたみ式草刈り鎌」を手に入れた。
◇
背の高い雑草は草刈り鎌となったアンによって、ザクザク刈りとる。
根の深い雑草は白銀のスコップとなったミヤビによって、ザクザク掘り出す。
その性能は圧倒的にて、わたしのちっぽけな領土の整地など、あっという間に終わってしまった。
そのことがいっそうわたしの中に「もっと刈りたい。もっと掘りたい」という気持ちを芽生えさせる。
欲望のままにわたしは地を這った。
向かうは自室となっている小屋。
小屋の周辺の雑草どもを一掃した勢いのままに、次はカノンの小屋回りにも進撃。それでも飽き足らずに、さらには母屋を中心とした一帯へと食指を動かす。
……夢中になるあまり、気づけば家の敷地内のすべてを制していた。
背中の筋肉がすっかりぱんぱん。腰には鈍痛。
おそらく明日は壮絶な筋肉痛に襲われることであろう。
だがひさしぶりに気分爽快。存分に土と戯れられたことによる充足感が、わたしの内には満ち充ちており、思わず鼻息がムフン。
◇
アンが新たな姿を身につけたことによって、ちょっとした問題が起こった。
それは草刈り鎌形態時の彼女の居場所。
わたしが愛用している帯革には、白銀のスコップを装着する箇所しかない。
このことにアンが「……姉だけずるい」と不満を口にする。
妹はお姉ちゃんのマネをしたがるものだし、また姉妹にて待遇に差をつけるのはあまりよろしくない。「お姉ちゃんなんだからガマンしなさい」とか、いつもお古を妹に押しつけて「お姉ちゃんばっかりどうして」とか「きっとわたしは橋の下で拾われたんだ……」なんて想いを抱かせるのはダメ。
と、里のおばさまたちもつねづねおっしゃっていた。
ひとつひとつの不満は小さかろうとも、こういうのが積もり積もって家庭不和を招くのだ。姉妹の関係がこじれにこじれて、末は嫁ぎ先を巻き込んでの壮絶なドロ沼相続問題とかになったら、草葉の陰で悶えることになる。
よって、この問題を解決すべくわたしが向かったのは、里で唯一の鍛冶師であるボトムさんのところ。
呑む、鉄を打つ、寝るの生活をしている独居ムキムキ巨漢老人。
こう見えて腕は確かにて、ゴツイ斧から細かい小物類の制作までお手のもの。クギ一本から花嫁が身につける美麗なかんざしまで、何でもござれ。かくいうわたしが愛用している帯革も彼の作品。皇(スメラギ)さまより聖都へと召喚された際に餞別としてくれたもの。
相談したら「貸してみろ」と帯革を手にとり、ごつい指先にてあちこち確認しつつ「いい具合に革が馴染んできている。ちゃんと手入はしているようだな、チヨコ。どれ、ちょっと待ってろ」とボトムさんは自宅奥の工房へ。
男の一人暮らしの汚部屋を見かねて、片付けがてら待つことしばし。
奥の工房からのっそり姿をあらわした彼の手にある帯革には、新たに収納箇所が増えていた。
折りたたまれた状態の草刈り鎌がピタリと収まる見事な出来栄え。
これにアンが大よろこびしたのは言うまでもあるまい。
勇者のつるぎに続き、魔王のつるぎにまで仕事ぶりを絶賛されて、ボトムさんはぷくぷく鼻の穴を膨らませた。
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