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328 霧氷に散る
しおりを挟む体内に大量の砂を混入されたことにより、ムジーナの体質が一時的に変化する。
捉えどころのない軟体から柔軟性が失せ、動きが緩慢となり、表面が弾性を帯び、感触がもっちりと……
これにより、いかなる攻撃をも吸収して無効化していた能力が弱まり、じかに触れることが可能となった。
そのタイミングでコウリンが動く。
音もなく忍び寄り、両の手の平をピタリとつけたところで発動したのは『土遁の術』である。
土遁の術は固有震動を応用したコウリンの必殺技。
すべての物体が最も振動しやすい固有の周波数を持っている。
それを瞬時に見抜いて、同様の振動をぶつけることで共振を引き起こす。
ばかりか、これにより生じた揺れは自励振動――成長する振動へと発展するため、いかに頑強な物質でも、ついには根をあげ疲弊し砕け散るのだ。
特殊な体をしているムジーナ。
通常時であれば、その体質ゆえにうかつに触れることはかなわない。たちまち呑み込まれて吸収されてしまう。
でも、いまの状態ならばその力が弱まっている。
それすなわち土遁の術が発動できる条件を満たしているということ。
コウリンが放った固有震動は、たちまち異形の巨人の全身へと伝播した。
内部で粒子が震え、ぶつかり合い、衝突から生じるエネルギーが熱へと変わる。
取り込んだ砂という物質が、融解し、蒸発し、昇華されることで気体が発生し、熱運動がより激しさを増していく。
拡散、膨張……
みるみる異形の巨人の体が肥大化していく。
なんでもかんでも貪欲に呑み込もうとする体質ゆえに、膨らみ滾る熱やエネルギーを外部へと逃がすという発想がないのだ。
せっせと内部で処理しているみたいだが、吸収力が追いついていない。
そのせいで体がはちきれんばかりにパンパンに膨らんでいる。
じきに限界を迎えて盛大に爆ぜるだろう。
でも、それだけではきっとムジーナを倒しきれない。
おそらくだが木っ端になった状態からでもムジーナは再生する。
ゆえに勝利するためには、さらなる一手が必要となる。
「コウリン、レベル3・コキュートスの使用を許可します。総員、備えよ」
私は命じた。
竹忍者頭領コウリンの体は特殊な造りになっておりギミックが満載だ。歩く武器庫といっても過言ではない。なかには、ちょっとシャレにならない大量破壊兵器も含まれている。
だから私は彼に使用制限を設けている。
レベル1は通常の忍具にて、これは好きに使ってよし。
レベル2はより過激な忍具にて、対象のみならず周囲にも被害を及ぼしかねないので、許可が必要となっている。
レベル3にいたっては敵勢だけでなく自分や味方をも巻き込みかねないので、よほどのことがないかぎりは使用を認めない。
今回はそんなレベル3を解禁する。
本来ならばハートとの決戦のためにとっておきたかったのだが、出し惜しみして倒せる相手ではない。
そしてレベル3・コキュートスなのだが、ファンタジーモノでは定番の絶対零度っぽいものを再現した兵器である。
まぁ、液体窒素のえぐい版ぐらいの認識でよい。
名前の由来は冥府にあるという罪人の魂を凍らせる湖だ。
ここに送られたが最後、未来永劫、氷の牢獄に囚われることになるという。
その点、うちのコキュートスはとても良心的にて。
カチンコチンに凍らせて、ずっと見世物にするようなひどいことはしない。
ちゃんと粉砕する。
瞬間凍結でフリーズドライ、粉々のサラサラにしちゃうのだ。
ちなみに有効範囲は半径300メートルぐらい。
いっきに摂氏マイナス270度近くまで急速にさがる。
激変する環境下、うっかり冷たい空気を吸い込んだら、ふつうの生物は体調に異常をきたして、まず無事ではいられない。急激な気圧の変化も怖いし、吹きつける風すらもヤバいだろう。
土遁の術により砂と共に爆ぜたムジーナの体。
間髪入れずにコキュートスが発動する。
たちまち霧氷が舞う白銀の世界が出現した。
粉々に離散した砂混じりのムジーナ、そのすべてが氷結し凍獄の虜となった。
これにて対ムジーナ討伐戦は完了だ。
本作戦の肝は、ズバリ仕掛ける順番であった。
土遁の術だけでもダメだし、いきなりコキュートスでもダメ。
順番が逆になってもいけない。
砂という異物と結合した状態で、より細分化したところで、急速に凍らせることにより、活動を封じる。
これでもおそらくムジーナはまだ死んではいない。
でも、最小単位にまで分裂された状態での拘束だ。
自力ではおいそれと復活はできないだろう。
「問題は主催者側が、この状況をどう判断するかなんだけど……」
ディレクティオが勝敗つかずと判断し、戦闘の継続を命じればそれまで。
でも、それは杞憂であった。
直後に試合終了を告げる銅鑼の音が、凍りついた都に鳴り響く……
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