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329 天下一武闘会・五番目
しおりを挟むボーン、ボーン、ボーン……
古時計の音色が鳴り響く。
その度に戦いの痕跡が消えていき、半壊していた霧の都がかつての姿を取り戻す。
13回目の鐘が鳴り止む頃には、すっかり元通り。
続けて聞こえてきたのは舞台袖に設置されていた銅鑼である。
じゃ~ん、じゃ~ん、じゃ~ん。
大きい銅鑼にふさわしい、大振りな撥を使っていたのは宮女姿のムジーナであった。古都の再生に合わせて、シレっと復活していやがった。
でもって休む間もなく告げられたのが天下一武闘会・五番目の開始である。
深愛のディレクティオ、至極の亡者コレクション。
いずれも各時代において悪名勇名を轟かせた者たちにて、一騎当千のツワモノばかり。
それらが刻を越えて一堂に会する。
天下一武闘会は、そんな猛者たちと戦える夢のチャレンジ企画であった。
このために用意された亡者は、以下の選りすぐりの五体にて。
一番目の対戦相手は、月光に愛されし美兎『天弓のミライア』
二番目は、骨ケ原の怪人『狂骨のトムラウシ』
三番目は、かつて魔王と呼ばれた男『神殺しのケルト』
四番目は、禁忌なる者『人工生命体ムジーナ』
そしてラストの五番目……トリを飾るのは、樹海の暴君『魂喰らいのハート』
戦う順番は厳正なる抽選の結果ということであったが、私たちと因縁浅からぬハートが最後になっている時点で、絶対にヤラセだよね?
もっとも、いまとなってはどうでもいいことだけれども。
呼ばれて石舞台にあらわれたハート。
全身に黒光をまとい、バチバチと黒い稲光を発している。
額に大きな一本角が生やしており、両肩や両肘、背中からも鋭いトゲトゲが。
体表が黒い鋼のようになって、まるで厳めしい甲冑を着込んでいるかのよう。
巨大なグリズリーみたいな体形であったのが、しゅっとして、より人型に近しいものへと変容しており、クマ風味を残した凶悪なオーガや戦鬼みたいになっている。
その威容は、どこかサクタや竹人形たちを連想させるものにて……
ハートの第三形態『黒雷鬼』だ。
第三形態となったハートは、単純に肉体強度が増し、戦闘力が格段に跳ね上がっただけではなくて、新たな異能をも行使する。
奴を中心にして、プラズマ現象を広域にわたって発生させ、黒雷のドームを出現させるのだ。
これに巻き込まれると、電気ショックでビリビリと黒焦げにされる。
ばかりかリグニンコードにも乱れが生じ、私たち竹人形たちは一時的に体の自由を封じられてしまうのだ。
第二次パンダクマ討伐戦のおりに、パンダクマ三兄弟の次男坊であるカンスケが隠し持っていた『空白の千年期の遺物』――
竹人形の活動を支えるリグニンコードの繋がりを、一時的にだが阻害するやっかいな品。
その力を模倣して独自に再現したらしい。
樹海の暴君を前にして、ほんの一瞬とはいえ半活動停止状態となるのは致命的だ。
ゆえにその異能への対策は講じてある。
トラ型のアタッチメントパーツと合体した竹イヌのヘミの咆哮により、ハートの呪縛を断ち切り、動けるようになる……はず。
いまいち自信がないのは、限られた時間内での急ごしらえ、充分な検証実験ができないままに実戦投入されたから。
とどのつまりは、ぶっつけ本番である。
黒鍬衆の頭領であるウンサイさんいわく「理論上は問題ない」とのこと。
不安は残るが、ことここに至ってはウンサイさんを信じるしかない。
それにもしも巧くハマってくれたら、ピンチはたちまちチャンスとなる。
黒雷ドームの異能を発動しているときは、ヤツも無防備となる。
効力を打ち消せれば、その間、私たちは行動を阻害されることなくやりたい放題にて。
もっともハートはしたたかだ。
そうそう都合よくは運ばないだろう。
だから好機が到来するのを伺いつつ、あとは臨機応変に。
……というのが、私たちの作戦だったのだけれども、その作戦は試合開始直後に破綻した。
半包囲にてじりじり距離を詰めていた私たち。
その囲みを粉砕したのは一条の黒い雷。
ドンッ!
ハートの突進。
勢いのままに肩からぶつかられたのは竹侍将軍サクタである。
サクタはとっさに大太刀を盾に防御するも、真正面から受ける格好となった。
質量はハートが上だ。まともにぶつかるといささか分が悪い。だからサクタが受け流そうとしたのは当然であろう。
でも、その動きをも計算に入れていたのか、ハートが寸前で腰を落とし重心を下げた。
これによりサクタの懐に入り込み、ハートが相手を見上げるような格好となったところで――
ダンッ!
思い切り地面を踏みしめる音。
衝撃で石舞台がめり込み、亀裂が走る。
やったのはハートだ。
刹那、ハートがくるりと背を向けたとおもったら、さらなる強い衝撃を受けてサクタはこらえきれず、両の踵が浮く。
背中からぶつかるかのような体当たり。
物理打撃というよりは投げ技に近い性質をもつ……これは格闘ゲームで見たことがあるぞ! 鉄山靠だ!
詳細はあえて割愛するが、これを喰らった瞬間、サクタの身が後方へと吹き飛ばされた。
斜め45度で打ち出されたサクタの身が宙を舞い、そのまま壁や濠を越え、霧煙る町の方へと消えた。
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