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330 黒雷鬼、無頼
しおりを挟む漆黒の稲光が疾駆し、雷鳴が轟く。
黒雷を身にまとい襲いかかる者。
大太刀を手に迎え討つ者。
両雄が激突し、互いの力がぶつかり合う。
双方ともに一瞬だけピタリと制止し、時が止まる。
そう見えたのは、拮抗より生じた間であった。
だが次の瞬間のことである。一方の姿がその場よりかき消えた。
彼方へと撥ね飛ばされたのはサクタである。
威風堂々とした竹侍将軍の大柄な身が高らかに宙を舞う。
いかにハートが剛力であろうとも、たんにぶつかっただけではこうはいかない。
瞬刻の攻防――
サクタとハートの間では様々な力学が渦を巻いていた。
さなかにすべての力が向かうベクトルが集約されたがゆえの結果。
主導権を握ったのは仕掛けた側であるハートだ。
途中、相手の敷いたレールの上を進んでいるような感覚に襲われ、そこから脱却しようとサクタも抵抗するも、少しばかり気がつくのが遅かった。
相手の技に巻き込まれまいとした動きをも逆手にとられてしまい、絡め捕られてしまう。
双方の力が一点に収斂されて、サクタと共に一方向へと解き放たれる。
これがサクタが吹き飛ばされた内訳にて、そんな芸当を可能にしていたのが鉄山靠という技であった。
もちろん、私が知る格闘ゲームの技とは似て非なるものだろうけど、フォルムや動きはそっくりにて。
にしたって、以前のハートはあんな高等な体術なんぞは使えなかった。
あんな動き、たんに思いついただけで、とっさに出来るものではないだろう。
ということは、冥府を彷徨っているうちに身に着けたということなのか!?
消滅を待つばかりの冥府にて、なおも鎮まることがなかった荒ぶる魂と闘争本能。
他者の魂を喰らうことで生き延びていたところを、深愛のディレクティオに拾われたというけれど、その戦いの中で会得したか。
(マズイ、マズイ、マズイ……ハートのやつ、すでに第三形態『黒雷鬼』を完全にモノにしていやがる!)
終生どころか幾世にも渡って殺し合ってきた仇敵。
その成長ぶりを目の当たりにして、私は戦慄を禁じ得ない。
まさか初撃で主力のサクタを場外に吹き飛ばされるなんて。
すぐに体勢を整えないと――私の意識はいったんここで途切れる。
………………はっ。
次に気がついたとき、私は楼閣の二階奥にて半ば瓦礫に埋もれた状態で倒れていた。
建物の外壁には穴が開いている。どうやら私はあそこから飛び込んできたようである。
やったのはハートだ。
サクタをぶっ飛ばしたハートは、すかさず方向転換しベンケイやコウリンらをも蹴散らし、その余勢を駆ってこちらの手勢をも次々になぎ倒していく。
その姿はまるで黒い雷龍が暴れ狂っているかのよう。
黒雷鬼、無頼。
けっして油断していたわけではない。
が、機先を制せられた。
さらに失態を重ねる。こちらが体勢を整えるよりも先に、一気呵成に攻められ蹂躙されてしまった。
「くそっ、立ち合いをしくじった。まさか初手から速さ全振りでくるだなんて」
もっともそれゆえに、私の体は砕けることなく、まだ動けているのだけれども。
心技体が揃った強力無比な攻撃はサクタにかました鉄山靠のみ。そこからは速度重視に切り替えたらしく、稲妻と化しては集団にひと当たりし、ランダムに撥ね飛ばすことを狙ったようだ。
目的はおそらくこちらの分断だろう。
「バラバラにして各個撃破か……セオリーだけど、以前のハートにはみられなかった慎重さだ」
力や異能だけじゃない、知恵もつけている。
瓦礫を押しのけ私は立ち上がった。外部へと通じている壁の穴へと近づく。
用心しつつ外の様子を探るも、あるのは砕けた石舞台のみ。
うちの子たちの姿は見当たらない。
さりとて残骸もない。
みな蹴散らされ、散り散りになったようだ。
一方で城門の外、町の方からは戦闘音らしきものが聞こえている。
誰かがハートと戦っているようだ。
「……どうやら私は後回しにされたっぽいね。ずいぶんと舐められたもんだ。絶対に後悔させてやるんだから。まずはヘミを探さないと」
トラ型のパーツと合体してる竹イヌのヘミ。
あの子は文字通りこちらの虎の子にて、ヘミの能力が勝敗のカギを握っている。
すみやかに合流せねば……
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