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331 竹姫、トラに跨る。
しおりを挟む払っても払ってもすぐに戻る濃霧のせいで視界不良だ。
足下に巡らせた地下茎とリグニンコードを通じ、仲間たちの居所を探ろうとするも、私は顔をしかめる。
「むむむ!? 地下茎があちこちで分断されている。リグニンコードにも乱れが、へんなノイズが混じってる……エネルギーの供給には問題ないみたいだけど、うまく仲間たちの行方を辿れない」
これまでの戦いの影響だけじゃない、おそらくはハートが意図して工作したのだろう。でなければ、ここまで分断されたりしないはず。
連戦により、私たちはかなり手札を切らされている。
加えてハートとは幾たびも殺り合ってきた間柄だ。
良くも悪くも互いの手の内を知り尽くしている。
「ったく、厭な昔馴染みだよ。やりにくいったらありゃしない」
ぼやきつつ、私は楼閣から霧の都へと駆け出した。
向かうは戦闘音がする方だ。
周囲に気を配りつつ、足下にも意識を向ける。
向かいがてら切れた地下茎を再生し、結び直す。
いっそのこと新たに張り直そうかとも考えたが、ハートとの戦いはまだ始まったばかりだ。序盤は様子を伺いつつ、力は温存しておくことに決めた。
迷路のような都内をひとり黙々と進む。
なかなか仲間たちと合流できない。
気ばかりが急く。
〇
建物が破壊される音、壁が崩れる音、石畳が砕ける音。
衝突音に爆破音、風切り音に地響きまで……
近づくほどに戦闘音がよりはっきりと聞こえるようになってきた。
「かなり激しく殺り合っているみたいだね。いったい誰がハートと戦っているんだろうか」
疑問の答えはじきに知れた。
ハートと対峙していたのは竹忍者頭領のコウリンだ。
近くに手勢の姿はない。樹海の暴君相手に孤軍奮闘している。
持ち前の俊敏さにて、入り組んだ町の地形を活用しては、空間を立体的に使い戦っている。
そんなコウリンにハートは翻弄………………されていない!?
ハートの黒爪が閃き豪腕が唸るたびに、周囲の建物が倒壊し、量産されるのは瓦礫の山。
これを殴っては石礫として放つ。ひと振りで大量の石の散弾がばら撒かれる。
牽制だ。逃げ道や身を隠す場所が、着々と減らされている。
じりじりと追い詰められつつあったのはコウリンの方であった。
このままではマズイ。
だから私も加勢しようとしたのだけれども、そのタイミングで横合いから音もなくぬぅとあらわれたトラに、襟首をひょいとくわえられてしまった。
トラ型のパーツと合体してる竹イヌのヘミである。
どうやら隠れてコウリンらの戦いの行方を見守っていたらしい。
「よかった無事だったんだね……って、そうじゃなくて。こら、放しなさい。このままだとコウリンが!」
しかしヘミは私をくわえたままで、プラプラ首を横に振るばかり。
で、上へと向けてポイっと放り投げたとおもったら、そのまま私の身柄はヘミの背へとストンと乗り移ることに。
竹姫がトラに跨ったところで、ヘミはきびすを返し脱兎のごとく逃げ出す。
さりとてコウリンを見捨てたというわけではなかった。
去り際にちらりと見えたのは、コウリンが取り出した二本の竹筒にて。
「げっ、あれは!」
かつて古代遺跡――現在はカイザラーンの第二拠点にして、黒鍬衆たちの研究所になっている場所――の最下層に封印されていたキマイラなミイラを退治した際に用いたレベル2の武器。
二本の竹筒。
うち一本には、竹酢液から酸性の成分だけをさらに抽出、濃縮し、極限にまで濃度を高めた液体が詰まっている。
もう一本の方には、黄緑色の刺激臭を持つ液体が入っている。これは竹から抽出した塩素をこれまたギュギュッと濃縮したもの。もともと竹は塩素濃度が高かったりするのだ。
どちらも私が手を加えることによって劇物レベルにまで高めてある。
この二本の中身を合わせると、たちまち『とっても有害な塩素ガス』が発生するのだ。
混ぜるな危険。
激烈は刺激臭をともなう黄緑色の煙が大量発生する。
だが、この武器はそれだけではない。
じつはこのガス……支燃性にて。
支燃性ガスとは、空気よりも燃焼を促進するガスのことである。
ようはよく燃えるということだ。
そんなモノに、火気を放り込めばどうなるのかなんて、いちいち語るまでもあるまい。
ハートの姿がたちまち毒ガスに包まれたところで、コウリンもその場を離脱する。
ただし置き土産を残して。
コロコロとまき散らしたのは、小さな玉だ。竹紙にてこさえた玉の中身はねちゃねちゃと粘性と燃焼性を高めた竹油が入っている。焙烙玉の小粒バージョン、だけどかわいい見た目に反してピリリとスパイシーな仕様になっている。
ある程度距離をとったところで、コウリンがパチンと指を鳴らした。
刹那、指先にて火花が散り、放たれた玉に次々と引火しはじけていく。
すぐにガスへも引火し、爆発と大炎上が発生した。
凄まじい炎が轟々と渦を巻き、天突く巨大な火柱が出現する。
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