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月芝

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第五の怪 玉川小学校の七不思議 その四

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 三つ目の七不思議である「追いかけてくる足音」とは、こんな話である。

 生徒たちの大半がすでに下校している。
 昼間の喧騒がウソのように、すっかり静かになった放課後の校舎内。
 校舎五階の廊下をとある女生徒が歩いていると、背後からヒタヒタと足音のようなものがついてくる。

「あれ、おかしいわね? 周囲には誰もいなかったはずなのに」

 始めのうちは気のせいかと思った。
 が、よくよく耳を澄ましてみると、たしかに音がする。
 だから立ち止まって振り返るも、そこにはやはり誰の姿もない。

「なぁんだ、やっぱり気のせいか」

 ふたたび歩き出す。
 でもしばらくしたら、またもやヒタヒタヒタと。
 その女生徒は少しばかり気の強い子であった。
 なので今度は、しばらく足音がするのにまかせてから、いきなりバッと振り返った。
 ひょっとしたら男子たちのくだらないイタズラかもしれないと考えたのだ。
 じつはここのところクラスで男女がモメていたのである。きっかけは他愛もないことにて、よくある話といえばそれまでだが、おかげでクラスの雰囲気がちょっとギスギスしている。
 しかし、やはりうしろには誰もいなかった。

「もう、うっとうしいわね。いったい何なのよ! 用があるのならちゃんと姿をあらわしなさいよね」

 どうやら考えすぎであったらしい。
 とたんにバカらしくなった女生徒は、自分自身への照れもあって、ついそんな言葉を吐いてしまう。
 そしてまた歩き始めたのだけれども。

 ヒタヒタヒタヒタ……

 足音らしきものがまたもや聞こえてきた。
 けれども、今までとは違っている。
 なぜならそれは背後からではなくて、前方からみるみる近づいて――

 裸足だった。
 大きさからして二年生ぐらいであろうか。
 ただし、足首から上の部分がなかった。

 女生徒は悲鳴をあげて、一目散に逃げ出したという。

  ◇

 いざ校舎五階の廊下へとやってきた女子チーム。
 最初は三人で端から端まで歩いてみるも、それらしい現象は起きず。
 だから今度はひとりずつで歩いてみることにした。

 時刻は夕方にて、窓から差し込む光の橙色具合が眩しいけれども、それに引きずられるかのようにして、校舎内の陰影もどんどん濃くなっているような気がする。
 昼と夜が入れ替わる逢魔が時の校舎内は、まるで切り絵の中のようだ。

 まずは言いだしっぺの上杉愛理から。

「じゃあ、先に向こうに行っているから、あとから来てくれ」

 言うなり愛理はさっさと行ってしまった。
 四年生コンビの松永美空と明智麟は、遠ざかる先輩の背中をぼんやり見送る。
 なんとなく絵になるアングルと光景であったので、美空はデジタルカメラを取り出し、一枚パチリ。
 その撮影直後に「あぁ、そういえば」と、美空はあることを思い出して口にする。

「ねえ、リンちゃん。これは三好のおじさんに聞いたんだけど、ほら、星月の井戸の犯人がいたじゃない」

 三好のおじさんとは、美空の母方の叔父にあたる三好之徳(みよしゆきのり)のことである。麟も何度か会ったことがある男性にて、いつもしわの入った背広を着ており、ちょっとだらしないけれども、気のいい大人だ。そんな彼の職業は刑事である。隣町の警察署に勤務している。
 でもって星月の井戸といえば、美空と麟が都市伝説の検証企画にて、最初に手がけたものであった。
 詳細は割愛するが、なんやかやあって、美空たちの活躍により、ひとつの事件が解決へと導かれたのであった。

「その犯人がどうかしたの? ソラちゃん」
「うん、あの犯人、結局、病院にしばらく入院することになったらしいよ」
「入院って、どうしてまた……」
「それがちっても寝れなくなって、ノイローゼみたいになっちゃったんだって。なんでも目を閉じたとたんに、白い女の手に首を絞められたり、体中をひっかかれたりするらしいよ」
「うぅ、ブルブル、想像するだけで怖い。それはたしかに寝れなくなるよ」
「問題は寝れないだけじゃなくって、実際に首にアザが浮かんだり、体中に傷が残っていることなんだよねえ。自分で傷つけているらしいんだけど、本人はかたくなに誰かにやられたって言ってきかないんだってさ。
 あっ、上杉先輩、もう向こうについたみたい。
 じゃあ、次はわたしの番だね。リンちゃん、行ってくる」
「えっ、なっ! ちょ、ちょっと待ってよ! こんな怖い話を聞かせておいて、ひとりにしないで~」

 さっさと歩き出した美空を麟も慌てて追いかけていく。
 ちなみに第三の怪「追いかけてくる足音」の検証結果は、ただの反響であった。長いトンネル内を歩いていると、聞こえるのと同じようなもの。
 どうやら長い廊下にてすべての窓や戸を締め切った状態になると、五階の廊下では条件が整うらしい。

  ◇

 女子チームが着々と調査を進めている頃。
 男子チームはというと、相も変わらず白いタヌキの張り込み中であった。

「タヌキどころかネコの子一匹きやしない」

 里見翔は欠伸を噛み殺しては、目元を萌え袖でこする。
 すると村上義明が「あっ」とあることを思い出した。

「そういえばタヌキって、たしか夜行性じゃなかったか」
「………………」


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