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067 起死回生の策
しおりを挟む星華の苛烈な攻め!
あまりの手数の多さに、切っ先がいくつもあるかのように錯覚する。
その動き自体は直線的ながらも、小刻みに前後しては間合いを変幻自在に調整し、こちらを翻弄する。
剣を繰り出す速度にも緩急をつけては、殺気まで絡めてくる。
あまりにも鋭い剣撃のために、知らず知らずのうちに目が彼女のレイピアへと釘付けにされてしまい、全体像を把握する余裕がない。
視野が狭まる。相手を俯瞰できない。互いの立ち位置や間合い、太刀筋も把握しづらい。
そのせいで一拍、一歩で遅れをとる。
ただでさえ星華は速いというのに、これでは永遠に追いつけない。
一期は亀のように丸くなりどうにか耐えしのぐ。
その甲斐あって、いざ反撃となったとおもったら、彼女は絶妙なタイミングでスッと身を退く。
放った渾身の刃は虚しく空を斬るばかり。
かとおもえば、すかさず攻め込んでくる。
まともに打ち合っていては、時間の問題であった。
そこで一期は遮るもののない開けた場所である地の利を活かし、スススと横へと流れ、円の動きにてどうにか戦いのペースを握ろうとする。
しかし、それを簡単に許す星華ではない。
一期の描く大きな円の陣内を、星華が猛スピードで駆け抜け飛び回る。
その姿はさながら銀の尾を持つ流星のごとし。
彼女の軌跡が三角形、四角形、六角形などの多角形を瞬時に出現させては、幾何学模様を造り出し、たちまち円のなかを埋め尽くし、内部から円を喰い破ろうとする。
そうしている間にも幾合となく刃が交わされていた。
一期に預けている千里の肉体に小さい傷が増えていく。
しがみついている精神体の千里の方も同様だ。着実にダメージが蓄積している。
比べて、星華の方はほぼ無傷にて。
しかもこれほど激しく動き続けているというのに、呼吸がほとんど乱れておらず、汗もかいていない。
円がじょじょに大きくなっている。
内側からの圧力に押されているせいだ。
どうにか保っていた拮抗が崩れつつあった。
まだ余裕がありそうな星華に比べて、こちらはすでにギリギリだというのに。
勝敗の天秤が相手側へと傾きつつあるのを止められない。
さなか、一期が背にしがみついている千里にだけ聞こえるように囁いた。
「……このままだと勝てない。が、打開策がひとつだけある」
一期が口にした打開策とは、わざと己が刀身を傷つけ表層に施された封印をほころばせ、戦禍躬の力を解放するというもの。
そうすればいままでの比ではない力を発揮できる。いっきに星華とルイユを倒すことも可能。
短時間ならば、どうにか自我を保てると一期は請け合う。
けれども千里はなんとなく、それはやるべきではないと感じた。
理屈じゃない。女の勘といえば、いささか根拠に乏しいのかもしれないが、精神体となっているいまの千里はいろんな感覚が鋭敏になっている。この状態のときの超感覚は侮れない。
だから千里は断固反対するも「……なら、どうする? 現時点での憑依はこれが限界だぞ」と一期。
そうなのだ。
一期と千里の親和性を高めることで、憑依はより完成形に近づく。
だが、現状はイマイチにて、割合で言ったらせいぜい五割前後。
対して、星華とルイユの合体技であるエル・フェリークは、たぶん八割を越えているとおもわれる。
ベースとなっている肉体の能力も加味したら、その差は歴然!
どう逆立ちしたって勝ち目はない!
だからとて一期の封印を解くのはダメだ。
きっと取り返しのつかない事態を招くような気がしてしょうがない。
(本当に、もう何もないの? 他にできることは……私にできることは……)
悩める千里であったが、その間も星華は攻撃の手を休めることはない。
乱撃の間隙を縫って、閃く切っ先。
胸めがけてレイピアの刺突が向かってきたもので、一期は上半身をひねりながら、大太刀にて受けそらす。
ひょうしに、彼の背にしがみついてた精神体の千里は振り落とされそうになった。
が、その時のことである。
たまさか千里の左手が触れたのは、一期が腰に差している鞘。
赤朽葉色の鞘に触れた瞬間、スッと吸い込まれるような感覚がしたもので、千里は『ん?』
気のせい……ではない。
再度、指先でつんつんしてみたら、やはり同じようになる。
その現象を発見したところで、千里はあることを閃いた。
『もしかして……これならイケるかもしれない!』
起死回生の策を思いつき、千里は一期にごにょごにょ耳打ち。
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