34 / 50
034 小さな反旗、同じピース、放課後呼び出し
しおりを挟むお昼休みが終わった時、五年二組の教室に戻ってきたのは霧山くんだけだった。
彼がヨーコ先生に「月野さんは少し気分が悪いそうで保健室で休んでいます」と伝えているのがもれ聞こえる。
「こりゃあ、お嬢さまには少々お灸が効き過ぎたかねえ」
髪留めに化けている生駒の言葉にわたしはドキリ、不安になる。
でも自分の席へと向かう霧山くんがわたしの方をちらりと見てにこりとしたもので、すぐに心配がいらないとわかった。
あー、そういうことか。
これはあれだ。周囲の目を気にして霧山くんはわざといっしょに戻らなかったのだ。そして月野さんはさっそく小さな反旗をひるがえしたと。
本当にささやかな抵抗。
でも何ごとにつけきちんとこなしてきた彼女にとっては大きな一歩である。
これを機にいい方向へ変化できるといいのだけど。
◇
「今回はまたえらくお節介を焼いたもんだねえ。でも本当によかったのかい? ライバルに塩を送るようなマネをして。これでもしもあの二人がくっついたりしたら、結はめでたく失恋することになるんだけど」
授業中にもかかわらず生駒に話しかけられ、わたしはあわてて教科書を立て陰でひそひそ。
「うっ、だってしようがないじゃない。やっかいなえにしになりそうだったんだもの。自分が見すごしたせいで鬼がらみしちゃうのなんてイヤだし。それにたぶんだけど、あの二人はそうはならないと思う」
「ほほぅ、どうして結はそう考えたんだい?」
「うーん、なんていうのかなぁ。あの二人ってばどっちも盤面を支配するタイプというか、うまく周囲をコントロールするタイプなんだよね」
「完璧主義のお嬢さまに腹黒王子さま、かえって気が合いそうなものだけど」
「腹黒って……霧山くんの場合はやさしさの裏返しだから。月野さんだってがんばり屋さんなだけだもん。で、それはともかくとして、互いに素直になれれば二人はとても気が合うと思う。でもね、致命的に方向性がちがっているというか」
「なんだかどっかのバンドの解散理由みたいだねえ。だけど結が言いたいことはわかるよ。どっちも仮面をかぶって役を演じていたけど、芝居を見せる客層がちがっていたからねえ」
月野愛理と霧山雄彦は立場はちがえどたしかに似ている。
それゆえに理解できる点も多いが反発する点も多い。
たしかに話は合うのだろう。それこそ意気投合というやつだ。でもだからこそ噛み合わない。ジグソーパズルを完成させるのに同じピースは二つもいらない。
そんなことをわたしと生駒がこそこそおしゃべりしていたら、ふいにヨーコ先生から当てられて、教科書を朗読するように言われわたしはあたふた。
◇
五限目が終わった直後に月野さんが教室に顔をみせた。
とり巻き四人組から心配されて「大丈夫だから」とにこやかに応対している。
まるで何ごともなかったかのような自然体にて、わたしも内心でホッ。
だからすっかり油断してしまった。
次の授業の準備をしながら多恵ちゃんとおしゃべりしていると、ふいに背後から肩をポンと叩かれて、びくぅ。
ギギギと首だけまわしてみれば、そこには霧山くんの姿が。
「なにやら一件落着したみたいな雰囲気のところ悪いんだけど、ぼくの方の用件がまだだよね?」
霧山くんが口にした用件とは、彼の遠縁のオジにて覆面ミステリー作家岬良こと渡辺和久とわたしの関係について。
渡辺は周囲に正体を隠して活動している。その周辺をうろついていたわたしの存在を彼はかなーりいぶかしんでいる。でもこの様子では渡辺からはたいした情報を得られていないっぽい。
まぁ、六十過ぎ男の恋愛と友情のこじらせ話なんてそうそう気安く話せるようなことではないし、ましてや当事者ともなれば。それこそ酒でも入ってないと、しらふではとてもとても。
だからこそ霧山くんはわたしの方に当たりをつけてきたのだろう。
霧山くんがいつにも増してにっこりいい笑顔。
以前のわたしならば無条件に「きゃー」と舞い上がっていたのであろうが、いまやその王子さまの仮面の裏に潜む苦悩を知ってしまっているので、素直によろこべない。
わたしは顔をひくひく。なんとなくそのまま誤魔化せるかと思っていたけど、考えが甘かったみたい。
ヘビににらまれたカエル状態のわたしは、ついに圧に屈する。
「えーと、その件につきましてはここではアレなので、放課後あらためましてということで」
「わかった。でもこの前みたいに逃げるのはかんべんしてよね」
「……はい」
話がまとまったところで霧山くんは友人らの輪へと戻っていった。
たまさか現場に居合わせた多恵ちゃん。クリクリしているどんぐりまなこを、いっそうクリクリさせて大興奮。
「ねえ、ねえ、結ちゃん! いまのってどういうこと? 放課後に待ち合わせとか、もしかして、もしかしちゃうの? きゃーっ!」
ひとり妄想をたくましくして盛りあがっている多恵ちゃん。
よろこんでいる彼女には悪いのだが、これは待ち合わせというよりも呼び出しに近い。
うぅ、どうしよう。さすがに稲荷やら生駒のことを話すわけにはいかないし。
どうしたものかとわたしは頭を抱える。
だというのに相棒の三尾の子ギツネときたら「ばかだねえ。自分から期限を切ってどうするんだい。ああいう場合は『後日あらためまして』っていうんだよ。そうすれば、明日だろうが明後日だろうが、一年後だろうが、のらりくらり逃げられたってのに」なんぞとのたまう。
「そんな大人のズルい高等テクニック、わたしは知らないよ。というかそんな便利なものがあるんだったら、さっさと教えてくれたらよかったのに」
わたしがぶーぶー文句をいえば生駒はにへら。「よかったねえ、結。これでまたひとつかしこくなれたんだから、あたいに感謝しなよ」ときたもんだ。
おかげでわたしは六限目を丸々費やして、霧山くんへの対策にない知恵を絞ることになる。
うーん。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
【運命】と言われて困っています
桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。
遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。
男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。
あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。
そんな彼が彩花にささやいた。
「やっと会えたね」
初めましてだと思うんだけど?
戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。
彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。
しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。
どういうこと⁉
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる