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天地人
しおりを挟む時は十五から十六世紀の頃。
世はまさに大航海時代。
狂ったようにみなが海の彼方に夢を見ていた。
しかしそんな世間の喧騒とは縁のない、のどかな田舎の街道を、のろのろと進んでいく乗合馬車が一台。
どれくらいのどかかというと、日にすれ違う馬車を数えても、片手の指で足りるほど。
聞えてくるのは馬のカッポカッポという足音と、ギシギシ回る車輪の音ぐらい。
そんな馬車の旅に偶然、乗り合わせたのは三人の客。
二人は学徒で一人は行商人の老女。
若者たちは、とある学説について熱い論争を繰り広げていた。
「地球が太陽の周りを回っているのだ!」
地球が自転しながら太陽の周りを動いているという、コペルニクスが唱えた『地動説』
実は彼が唱えるよりも、遥か古代の紀元前二百八十年に、アリスタルコスなる傑物が、その原型となる説を唱えていたが、当時の人たちが理解できるワケもなく、長らく歴史の闇に埋もれていたというから、驚かされる。
「いいや。大地が動くなんぞありえん。星々が地球を中心に回っているのだ!」
地球は宇宙の中心であり、その周りを太陽や星たちが動いているという、プトレマイオスが唱えた『天動説』
冷静に分析すれば色々と矛盾の多い説であったが、とくに日常生活において不都合が生じるわけもなく、
信仰的にも精神的にも学術的にも受け入れやすい考えだったので、教会などの後ろ盾もあり、長いこと人々の間で信じられていた。
あらんかぎりの知識と言葉を総動員して、論争を繰り広げる二人の学徒。
おかげでせっかくの、のんびりとした馬車の旅が台無し。
話に夢中になっていると、いつの間にか太陽は姿を隠し、空には満点の星空が広がっていた。
乗合馬車は街道沿いの休憩所に停まり、本日のお仕事は終了。
外で焚火を燃やし、その周囲にて、おもいおもいのところに腰を下ろす乗客たち。
老女は、うるさい学徒から少し離れたところで、荷物を枕にゴロンと横になっていた。
しかし二人の若者らの話は、どこまでいっても平行線。
そもそも信じるモノが根底から違うので、話がまとまる道理もない。
これに業を煮やした二人は、ついには他人の迷惑も省みず、寝ている老女を揺り起こして『地動説』と『天動説』の、どちらを貴女は支持しますかと訊ねた。
しかたなしに老女は眠い目をこすりながら渋々答える。
「あたしには学がないんで、ムズかしいことはわかんねぇけども……」
「遠慮せずに、忌憚(きたん)のないご意見をおっしゃって下さい」
老女の意見を固唾を呑んで見守る二人の学徒。
ただならぬ雰囲気の中で彼女が発した言葉は、
「天も地も関係ねえ。少なくとも世の中はカネで回っている」であった。
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