わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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001 乙女の回想

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「もーえろよ、もえろーよー。ほのおよ、もぉう、えろー」

 調子っぱずれで音痴な歌声を披露していたのは、青い瞳に金の髪をした可愛いお人形さん。
 見た目が人形っぽいとかではない。
 いわゆる西洋のビスクドールというやつなのだが、メラメラ炎の明かりに照らされた白い横顔が、ちょっと猟奇的な彼女。

「やめなさい。さすがに不謹慎」

 わたしがたしなめると、人形が首だけをぐりんと回して「はて? リンネさまの故郷では燃え盛る火をまえにして、うたう習慣があるとワタシの中に記録されているのですが」
「いや、たしかにキャンプでファイヤーとかすることはあるけど。さすがにコレはダメでしょう」

 なにせ燃えていたのは人間だし。
 紅蓮の炎に包まれて、十二人の男たちが踊り狂う。
 やかましい絶叫はすぐに聞こえなくなった。
 こいつらは、森の奥で困っていたわたしに襲いかかってきた下種野郎ども。
 ちなみに汚物を焼却処分したのは、このわたしだ。
 つい今朝方までは、ふつうの女子高生だったのに、いきなり大量放火殺人犯。
 まったくもって、人生何が起こるかわからない。
 まさかこんな形で童貞を捨てることになろうとは……。
 いや、女の子だから処女というべきか。
 とにもかくにも色々あってね。
 どうか少しばかり乙女の愚痴まみれの回想にお付き合い下さい。



 わたしの通っている高校はいちおう地元でも有数の進学校。
 とはいえ、本当に優秀なのは各学年の一組と二組の特進クラスだけ。
 あとはわりかしふつうだ。そしてわたしは二年の三組に所属するふつうの女子高生だ。
 その日、わたしは珍しく体調が悪かった。
 いくら試験勉強を頑張ったところで、八十点台しかとれない人間にて、唯一の自慢は体の丈夫さと皆勤賞ぐらいであったというのに。
 意地汚くも冷蔵庫の奥に忘れ去られていた、五日前に賞味期限が切れていた値切り品のポテトサラダに手を出したのが運の尽き。
 心配する家族をよそに、それでも意地を貫き通した結果、出席だけはかろうじてクリアするも、あとはダメだった。
 授業そっちのけでトイレに陣取るハメになる。
 もう、このまま、ハラワタまでぶちまけるのかとおもわれた矢先、
 世界が一変した。
 そこが、まぁ、神さまの特別ゲストルームというわけさ。
 パンツおろして、トイレ中に召喚とか、あまりにも間が悪すぎるだろう?
 呼ばれたこっちもパニックになるが、呼んだ相手もパニックになったよ。
 あと世の中のたいていのモノは、急には止まれないんだよ。
 あえて詳細は語るまい。
 ただ、お互いに一生モノのトラウマを背負うことになったとだけ述べておく。
 そこから先は異世界転移ラノトノベルのお約束。
 世に腐るほど溢れているから、こちらは面倒なのでまるっと割愛。
 ただし、個人的にちょいと物言いが入る点がちらほらとあったので、そこはきちんと愚痴る。

 愚痴その一。
 わたしは補充要員にて、先に送られた二年一組と二組の数合わせ。
 あちらの女神さまとこちらの老神さま同士の取り決めにて、八十人もの優秀な若人らが魔王が暴れて大ピンチのノットガルドとかいう異世界を救うために送られることになったのだが、一組と二組を足しても七十九名にて一人足りない。
 で、三組から出席番号順にて選ばれたのが、このわたし、天野凛音(アマノリンネ)なんだとさ。

「エリートの中に凡人一人とか、ひでぇな! 行く前からボッチが確定しているじゃないかっ!」

 あまりな仕打ちに、怒りで神さまの胸倉をつかんだわたし、悪くない。
 なお勉強漬けの特進コースの連中と、ダラダラその場しのぎで生きているわたしにろくすっぽ面識はない。同じ制服を着て同じ校舎に通っているだけで欠片も接点がない。せいぜい昇降口ですれ違うぐらいか。

 愚痴その二。
 異世界転移とか勇者の使命とか無茶をさせるかわりに、あちらの女神さまからの恩恵として授けられるギフトというのがあるのだけれども、きちんと人数分しか用意されておらず、種類や性能もバラバラ。しかも早い者勝ちにて、初日のバーゲン会場のごときあり様だったというのに、一番最後に呼ばれたわたしには選択も検討の余地もなし。
 そして誰からも見向きもされなかった残りものというのが「人形召喚」というギフト。
 何が出来るのかというと、文字通りのこと。
 人形とぬいぐるみとブリキのロボットが呼べるんだってさ。
 どんなのか実物も見せてもらったよ。
 人形は西洋風のやつで、青い目をした金髪のビスクドール。おしゃべりするよ。
 可愛いと感じるか不気味と感じるかは人それぞれかな。
 ぬいぐるみは、水族館の売店とかで見かけるサメのやつだった。
 ふにふにして感触は良し。
 ブリキのロボットは、昔ながらのカクカクしたボディの旧世代ゼンマイ式で、ギチギチ動く。プレミアがついてそうなレトロ具合。その筋に出せばけっこうな値がつきそう。箱がないのが悔やまれる。

「これで異世界を乗り切れとか、どういうつもりだっ!」

 怒りのあまり、神さまの首を締め上げたわたし、悪くない。
 なおギフトを用意したのは向こうの女神さまらしく、「自分のせいではない」と最後まで己の否は認めようとはしなかったがな。
 なんと意固地な老人だろうか。
 わたしは年をとっても、こんな大人にだけはならないでおこうと固く心に誓った。

 愚痴その三。
 あちらとこちらを隔てる世界の壁をまたぐと発現する、スキルなるものがある。
 これは元からその人物の中にあった素養が異能化するものにて、魔力特化とか、身体強化とか、剣の才能だったり、戦術や戦略などの軍才だったり、じつに多岐に渡るそう。
 いわゆる才能の発露、もしくは願望の具現化? とでもいうべきモノ。
 なかには戦いに不向きなものもあるが、それとても社会に貢献し、多大な影響を及ぼす可能性を秘めているという。
 つまり異世界渡りの勇者さまたちは、ギフトとスキルの二つの異能を武器に戦うわけだ。
 送られる先ではギフト持ちだけでも希少なんだって。
 一個でも破格なのに、これが二個。もうウハウハである。
 困窮しているであろうあちらの世界にとっても、そりゃあ、勇者さまさまだろう。
 で、肝心のわたしのスキルなのだが、これが「健康」であった。

「ふざけんなっ! 元気があれば何でもできるとおもうなよっ!」

 怒りのあまり、神さまを締め上げて、ぶんぶん振り回したわたし、悪くない。
 そりゃあ、元から丈夫な体だけが取り柄だったし、腹を下しまくっていたから、切実に望んでいたけれどもね。
 さすがにこれではどうにもならぬと、救済措置を断固要求。
 だがジジイはなかなか首を縦にふらない。
 規則がどうのとか、大人の事情がどうのとか、世界の理がどうのとか、なんのかんのと言い訳ばかりを口にする。
 そこでわたしは最終手段を行使。

「嫁入りまえの若い娘のあんなところやこんなところをバッチリ見といて、さすがにそれはツレないんじゃないの?」

 このスケベ、のぞき魔、チカン、ヘンタイ、マニアックなどなど……。
 思いつく限りの罵詈雑言を吐いて、ついでにウソ泣きをプラス。
 負い目だらけの老神さま、ついに陥落。
 交渉を重ねて、どうにか身を護る武器をオマケに付けてもらう約束をとりつけることに成功。

 こうして最初から最後までグダグダなやりとりの末に、ぽぃっと異世界に放出された先が、なぜだか暗い森の中。
 あれ? たしか煌びやかなお城の宮殿で、えらい人たちから笑顔でウェルカムドリンクにてもてなされ、そのまま歓迎レセプションという流れだと聞いていたのに。
 首をかしげていたら、召喚した覚えのないビスクドールがいつの間にやら隣に立っており、「それは、あまりにグダグダが過ぎたせいで、いささか時間軸と座標軸がズレたせいでしょう」と教えてくれた。

「ワタシの名前はルーシー。リンネさまの三つのしもべの一つにして、おもに知識面にてサポートさせていただきますので。今後ともよろしくお願いします」

 青いガラスの瞳にて、しゃべるビスクドール。
 とっても不気味だ。夜中に廊下とかで遭遇したら、絶対に悲鳴をあげる自信がある。
 とはいえ、右も左もわからない異世界にては、心強いお言葉。
 だから「こちらこそよろしく」と声をかけたところで、付近のしげみがガサゴソ。
 奥からのっそりと姿をあらわしたのは、いかにも野盗の類ですよと言わんばかりの十二人の男たち。
 全身から野卑た臭いを醸し出し、飢えた獣どもが乙女の肢体を上から下まで舐め回すようにして、いやらしい熱視線を送る。
 異世界到着早々にして、いきなりの貞操の危機。
 どうしようとルーシーに相談したら、相手に右のひと差し指を向けろという。
 とりあえず言われるままに従うと、なんと指先から轟ファイアー!
 そして冒頭へと至るというわけだ。
 以上、乙女の愚痴と回想おわり。


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