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003 三つのしもべ
しおりを挟むいつまでも焼死体を眺めていてもしょうがないので、その場を離れることにした。
なんか臭いし。あといちいち埋葬なんてしない。面倒くさいから処分は森の子たちに一任する。モリモリ食べて大きくなれよ。
身長六十センチほどしかないルーシー人形。
まともに歩くとちまちま遅いので、途中からわたしが抱いて歩く。
軽いけど、これは存外、手間がかかるな。
「ふつうこの手の展開ならさぁ、ファーストコンタクトはぷにぷにのスライムとか、頭に角の生えたウサギとか、モフモフな犬みたいなやつとか、小鬼のゴブリンとか、やたらと面倒見のいい男前の冒険者とかじゃないの」
わたしがブーブーと文句を垂れると、人形が肩をすくめて呆れたといわんばかりの仕草をとる。
「モンスターが、人前にほいほい姿をあらわすものですか。リンネさまの世界でも野生の動物たちは、あまり人前には出てこなかったはずですよ。あと冒険者なんて意味不明な職業はありません」
生物としての在り方がまるで違う者同士。
どちらかが相手の領域を侵さないかぎりは、よほどの偶然がないと接近遭遇することはない。
言われてみれば、町から一歩出たとたんに狂暴なモンスターとぽんぽん遭遇する時点で、その文明圏に明日はないな。
玄関あけたら「こんにちわクマさん」とか、しゃれにならんし。ポストに朝刊取りに行くのも命懸けの日常とかイヤすぎる。
ファンタジーでは定番の冒険者やギルドとかの謎の組織が幅を利かせていても、同様か。
あったらあったで絶対に国の運営を妨げて、世に混乱しかもたらさないような気がする。わたしが王さまだったら、そんなヤバい連中、速攻でつぶすね。
と納得したところで、今後の方針を相談するとルーシーは「とりあえず能力の確認をしてから、王都を目指しましょうか」と言った。
人身御供もとい異世界渡りの勇者たちの人数は、召喚先の国側にばっちり把握されているらしく、一人だけ郊外に放出されたのにも気づいており、じきに迎えが来るだろうとのこと。
だが、大人しく待っているのも芸がない。
まずは自分自身のことをしっかりと把握すべし。
ルーシーさんの意見はごもっともにて、残りの二体のしもべを試しに召喚してみることにした。
呼べば目の前の何もない空間からぬるっと登場。
亜空間みたいなのがあるとのことにて、出し入れ自由。
ということはレンタルスペースが、すでに確保されているということに。空間収納庫として活用できそうなので、これはこれで便利そうだな。
車を買ったら専用の車庫までオマケでついてきたみたいなもの。
得した。
両手に収まる大きさのサメのぬいぐるみが、宙をふわふわ浮いて泳いでいる。
なにコレ、めちゃくちゃ可愛いんだけど。
名前はすきにつけて良いとルーシーに言われたので「たまさぶろう」と命名。母が追っかけをしている女形の旅芸人さんから、まんま拝借。理由はとくにない。
ネーミングセンスがひどいとルーシーには酷評であったが、当人は気に入ったのか、尾っぽをビチビチふってごきげんであった。
これはこれで癒し要員として重宝しそうである。かわいいは正義なり。
だが問題は残りのブリキのロボットであった。
神さまのゲストルームで見たときには、たしか一番小さかったはずだ。
なのに召喚されたソレは、見上げるほどの大きさ。
駅前とか限定イベントにて飾られるシンボル的オブジェぐらいはある。鋼の巨人にて立派な体躯。
なのにゼンマイは小さい手の平サイズ。かかとに専用の穴があったので、さっそく差し込んでキリキリ回す。そしたら目がキランと光って、がたがた体がふるえだして、動き出した。
「なんでこんなに大きさがちがうの?」
「そりゃあ、部屋の中でこんな大きな姿で現れたら迷惑だからでしょう」
当然の疑問を口にしたら、ルーシーのこの解答。
いや、あそこでこの勇姿を晒していたら、絶対にギフト争奪戦で誰かに選ばれてたよね?
「なるほど、無骨な見た目のわりに細やかな気配り屋さん。よし、キミは大きいから富士丸と命名する」
わたしが名をつけ褒めるとロボット「ガーッ」と吠えた。そして背中のロケットから火を噴いて空へと舞い上がる。
伸縮自在なだけでなく、空も飛べるのか。
おそらくは喜んでいるのだろうが、上空にて大きな体がぐるぐる旋回しているのは、じつにうっとうしい。
だからとて正直にやめろと言ってへこまれても、やっぱりうっとうしい。
困ったときのルーシーさん。
人形にこそっと相談すると、「とりあえず何か命令でも与えれば?」とのこと。
「命令ねえ……、なんだか強そうだし。いっそのこと魔王をやっつけちゃえ! なーんてね。うそうそ、じょうだ……んんん?」
ロケットを轟々鳴らしているくせに、地上にいるご主人さまのつぶやき声を耳ざとく拾った富士丸。「ウンガーッ!」と叫び、そのまま飛んで行ってしまった。
もの凄い速度にて、早や空の彼方。
豆粒のようになってしまった後ろ姿が、じきに雲に隠れて見えなくなった。
「ひょっとして、さっきの、まに受けたのかな」
「ひょっとしなくてもそうなのでしょう。どうやら固いのは体だけじゃなくって、頭の中もみたいです。あれは冗談の類が一切通用しないタイプのようですね。以後、気をつけてください」
「……はい」
「まぁ、さすがに無理がある命令でしたので、心配せずとも、じきに飽きたら帰ってきますよ」
ルーシーはそう言ってくれたが、わたしは一抹の不安がぬぐい切れない。
おかしい、健康スキルのおかげで神鋼精神のはずなのに、なんだか胸がドキドキしちゃう。
人形召喚をひと通り試し終えたので、とりあえず現状を打破すべく歩きだす。
たまさぶろうには亜空間にもどってもらった。かわいいけれども、いまは使い道がないしね。
トボトボ森を抜けて、ようやくたどり着いたぜ、異世界の村。
さぁ、純朴なる村人どもよ、勇者さまを存分にもてなし甘やかすがよい。
と期待していたのに、そこはものの見事にボロボロの廃村であった。
人っ子一人いやしない。
ただし若干ながらも生活の痕跡が見つかったので、どうやら先ほど焼却処分した野盗どもが根城にしていたようだ。
まぁ、魔王が大軍勢を率いて暴れ回っていたら、辺境の村なんてどこもこんなもんだろうね。
連中の残した荷を漁り、使えそうな品を物色する。
だってモノには罪がないもの。
とはいえろくなものがなかった。
ちっ、しけてやがる。使えねえ連中だ。
労力にまるで見合わない成果に腹を立てたわたしは、ルーシーに見張りを頼み、あばら家にて不貞寝した。
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