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034 スクスク
しおりを挟む広大な農地に黄金色の麦穂が揺れている。
ちょっとまえに運動会を開いて、オービタル・ロードたちに耕してもらった大地に、もう恵みが。
なんてワケがあるかい!
ちなみに見渡す限りの麦は、すべて毒麦だ。
喰ったら猛烈に腹を下す。悶絶ものの腹痛をもたらすがゆえに、飢えたケモノですらも見向きもしない代物。
そして毒草のくせして、ものすごい繁殖力。
一本見つけたら千本いる。そして見つけ次第、付近の地面を深く掘り起こして土ごと焼け!
国を滅ぼすのに魔王はいらぬ、毒麦十本あればよい。
なんて言葉が農家さんに伝わるほどに、ヤバい植物。
そいつがいまリスターナの都周辺にびっちりと生えている。
が、これはでっかいセミっぽいグランディア・ロードたちのアドバイスによって、わざと植えたもの。
では、どうしてわざわざこんな危険植物をバラまいたのかというと……。
大空を集団にて編隊飛行するのはグランディア・ロードたち。
ミンミン鳴きながら、黄金色の大地に向かって、ペカーとナゾの怪光線を照射。
魔法に長けた森の賢人と名高い彼らの手にかかれば、あらふしぎ!
毒麦が良質の麦へと姿を次々に変えていく。
春夏秋冬おかまいなしにて、月一ペースで収穫できて、病気なんぞクソくらえな夢の麦種。
「すっげー、これで食糧問題、いっきに解決だよ」
わたしが感心しているとグランディアの連中、こんなことを念話で言いやがった。
《いや、本来、この麦はこの変質魔法とセットなんですよ。ずっと昔にひどい飢饉になったときに、なんとかしようと開発したのですが、なぜだか魔法の方はさっぱり普及せずに、毒麦ばっかりが広まっちゃって》
植物汚染はお前たちの仕業かいっ!
あと変質魔法とか地味にスゴすぎて、ハイボ・ロード級でないと使えないから、ちっとも世間に浸透しなかったんだよ!
ヤバイ、とってもイヤな予感がする。
なんとなくおっとりとした落ち着いた雰囲気に騙されていた。
グランディア・ロードたち、この調子であちこちでやらかしている気がする。ばりばり遺伝子操作とかしちゃってるよ。
ひょっとしてわたしはノットガルドの世界にとって、一番危険な種族を樹海の奥から連れ出してしまったのかもしれない。
リスターナの食糧事情の目処がたったので、いったん城へと報告に向かう。
ここのところウロチョロしているおかげで、いまでは顔パス。
本当はダメだけど固いことは言いっこなし。
で、執務室に行くと宰相のダイクさんがいた。
そのかたわらには利発そうな黒髪の少年の姿もある。
モランくんは思いのほかに出来る子だったので、宰相さんが気に入って直弟子にしちゃった。将来的にリリアちゃんの片腕となって国を支えられる人材へと育成すべく、おじいちゃん大張りきり。
そしてモランくんのお母さんのユーリスさんは、現在、さる人物の身の回りのお世話をすべく雇われている。
わたしが宰相さんに報告をしていると、背後の扉が開いて顔をみせたのは将軍のゴードンさん。
この髭もじゃ筋肉ジジイこそがユーリスさんの雇い主兼保護者。
ゴードンさんってば、「ワシは国にこの身を捧げておる」とか言っちゃって、ずっと独身を貫いていたんだけど、男ヤモメゆえに立場のわりには、いろいろとダラしないところがある。
たたき上げの生粋の軍人ゆえに、貴族たちみたいにわざわざ使用人を雇うとかいう発想が乏しい。だからせっかくの屋敷も放置気味にて、何日も同じシャツを着てたり、ベッドなんて万年床、部屋の掃除なんていつしたんだよ状態にて、食事も腹に入れば何でもいいとか……。
よく言えば男らしい。悪く言っても男らしい生活。
そんなむさ苦しい男を躾け直すべく、わたしがユーリスさんをあてがったという次第。
ユーリスさん母子を保護した際に、わたしが考えたのは彼女たちの今後。
いろいろと辛い目にあってきた母子。これからはやっぱりしあわせになってもらいたい。
でも、他の移民たちと同じように領内の村とかに振り分けたら、ぜったいにヤバいとおもったんだ。
なにせ彼女は世界遺産級の胸の持ち主。
器量よしの胸がデカい未亡人なんて、うっかり野に放ったらオオカミたちが群がるに決まっている。そうなるとせっかく手に入れた安寧が脅かされてしまう。
なかには身分をかさにパワーハラスメントとかセクシャルハラスメントに走るバカもいるかもしれない。
彼女たち母子には保護者が必要だ。それもいざともなれば体を張って守ってくれるような人物が。
わたしがリスターナで知己を得ている大人は三人。
美中年の王さまは論外。うっかり手を出されて側室とかになっちゃうと、またぞろ後継者問題とかの火種になりかねない。
宰相のダイクさんは、長年つれ添った比翼の愛妻がいる。一度挨拶を交わしたが可愛らしいおばあちゃまだ。わざわざ平穏な家庭に火種を持ち込むわけにはいくまい。
で、消去法にて将軍のゴードンさんが残ったと。
独身だし、いざとなれば大剣を振り回して守るだろうし、最悪、独身同士だからくっついても問題なかろう。
「……そんなワケで、手を出すなとは言わないけれども、ちゃんと責任とれよ。ちゅうと半端な真似したらモグからな」
「なっ!」
わたしにからかわれて年甲斐もなく顔を真っ赤にした老将軍。
おやおやこの反応、意外と脈アリ?
いやはや、この調子で作物も恋の花もスクスク育って欲しいものである。
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