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042 王子さまとわたし
しおりを挟むギャバナに在籍している十一名の勇者のうちの一人、マコトの用向きは彼の上司である第二王子からの夕食のお誘いであった。
呼ばれたのはわたし。リリア姫と使節団の一行は日を改めて正式に招待するという。
こちらとしても、ちょっと言いたいことがあったので応じることにした。
で、宿舎のみんなにことわりを入れてから、早速ついて行く。
案内されたのは先日、豪遊したあのレストランだった。
王子の賓客ということもあってわざわざ出迎えにきたオーナー。
わたしの顔を見るなりギョとなるも、気にしない。
レストランでも一番高いグレードの個室へと案内される。
そこで待っていたのは、黒髪黒目の東洋人っぽい見た目の長身の青年。
細目にて、にこにこと微笑みが顔に張りついているけれども、その奥はちっとも笑っていない。こちらを値踏みするかのような鋭い視線が潜んでいる。
彼こそが大国の第二王子ライト・ル・ギャバナ。
個人的な印象は法の合間をぬって荒稼ぎしているブラック企業の若社長か、マフィアのやり手幹部といったところ。ちょいと堅気には見えない。
初対面時に、そんな本音がついお口からポロリしてしまったら、マコトが大爆笑。
そしてライト王子は特に機嫌を損ねるでもなく、「彼にもまえに似たようなことを言われたことがある」とニヤリと笑みを浮かべた。
この国の第一王子と第二王子は表面上は対立している風を装って、裏ではがっちりと手を組んでいる。
つまり長男で後継者であるイリウム・ル・ギャバナを、裏で次男のライト王子が支える格好。とどのつまり、ゆくゆくは国の暗部のすべてを握るのが、目の前の王子さま。
そんな彼がわたしに興味を持ったのは、部下から「なんかヤバイ女がいる」との報告を受けたから。
リスターナが先に起こした戦争のこともあるし、またぞろ騒動を起こされてはたまらないとの判断から、こちらの動向を見極めようと考えたようだ。
飛び地にある寂れた小国との戦なんて、大国にとっては得るものが何もないしね。
で、すぐに自ら出張ってくるあたりが、なんとも恐ろしい。
城の奥にてふんぞりかえり、余裕ぶって手下にでもまかせてくれていたら、いくらでも誤魔化しようがあるのに。
間近で接した感覚だと、「こりゃあダメだ」といった印象。
経験値や生きてきた世界がちがいすぎる。権謀術数が渦まく宮廷の中をすいすい泳いできたライト王子は、いうなれば数多の修羅場をくぐり抜けてきた野生のシャチ。
対してぬるま湯生活にて、のらりくらりと適当に生きてきたわたしは、安全な水槽にかこわれた養殖のアユ。
こちとら全身凶器につき、面と向かってのどつき合いならば楽勝だけれども、逆に考えればそれ以外に勝てるところが微塵もない。
リリアちゃんとかもそうなんだけど、王族は王族であるがゆえに、一般人とはちがう何かを持っている。そしてそいつは即席でどうこうなるようなモノじゃなくって、血と歴史の重みがあわさり醸造される特別なモノ。
こいつを前にしたら、免疫のない者ならば、すぐさま自主的に頭を下げる。
本能的に格のちがいを思い知らされるから。
おそらくはマコトくんも、ライト王子に何かを感じて心酔したからこそ、彼の下で手足となって働いているのだろう。
勧められるままに席へとつき、しばし静かにコース料理と向き合う。
ちらりと見れば意外にもマコトはテーブルマナーが完璧であった。
だらしない髪の毛のくせに生意気な。
そうこうしているうちに、はやデザートの段階になって、ようやくおしゃべりタイム。
そこで第一声にてわたしが口にしたのは、あることに関するクレームである。
「おたくの姫ちゃん、いい加減になんとかしてよ。初日の嫌がらせからこっち、どんどんヒドくなっているんだけど」
姫ちゃんとは、ギャバナの第二姫メローナ・ル・ギャバナのこと。
なにやら外交デビューを果たしてブイブイいわせている、うちのリリアちゃんに対抗心と嫉妬の炎がメラメラらしくって、いろいろ仕掛けてきているのだ。
飲み物に下剤投入から始まり、各種地味な嫌がらせが続いたと思ったら、ついにはゴロツキを雇っての乱暴狼藉。
もっともそのすべてを未然にこっそりと処理してしまっているので、リリアちゃんやリスターナの随行員たちは誰も気づいていないはず。
飲食に混入されていた毒の類は、グランディアたちがペカーと怪光線を当てて、変質魔法で処理。
直接的な武力行使については、オービタルやセレニティたちがサクっとプチプチ。
で、今日は単独で出かけたわたしにお鉢が回ってきたと。
指折り数えて、受けた嫌がらせを列挙していったら、ライト王子が額に手を当て苦悶の表情。
「まさか……、メローナのやつがそんな愚かな真似をしていようとは。てっきり交渉の席を邪魔するものとばかり考えて、そちらの対応に目がいっていたのだが」
ライト王子さま、どうやら想定していたより妹の行動の次元が低くて、かえってまたぐらをすり抜けられたようだ。
「女の嫉妬、おっかねー」ビビるばかりのマコトくん。これはこれで役に立ちそうにもない。
男と女ではその辺の思考回路がちがうから、それもしょうがないか。
だからとりあえずいちおうの釘を刺すだけに、わたしは留めておく。
「まぁ、そんなわけで、日に日に行状がちょいと過激になってるの。それであらかじめ断っておくけど、もしもリリアちゃんに直接的な危害が及びそうになったら、こっちも本気を出すから」
ヤバイ連中を引き連れているヤバイ女が本気をだす。
これに表情を硬くした王子とマコト。
とはいえ相手は大国にて、勇者がいっぱい。
対するこちらは弱小国に女勇者が一人。
言葉だけだといまいち信憑性に欠けそうなので、ここはもうひと押ししておこうと思う。
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