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044 くりあげ
しおりを挟むギャバナ国滞在五日目の午後。
リリアちゃん率いるリスターナの使節団一行は、この国の中枢である宮殿にお呼ばれしている。
もちろん戦後賠償の交渉のために。
昨夜、わたしと接触したライト王子。世界の裏側をいろいろと知ってしまった彼は、慌てて父親や兄に相談。
その結果、急遽、予定が大幅に繰り上がり、しかも交渉の席にはわざわざ第一王子のイリウム・ル・ギャバナと第二王子のライト・ル・ギャバナが同席するという事態に。
これは異例の好待遇っぷり。
なにせ次期主力となる二人が揃って、敗戦国の姫君を接待するというのだから。
おかげで中央周辺は朝からこの話題で持ち切り。リリアちゃんの可憐な美少女っぷりと相まって、ひょっとすると二人の恋のさや当てか? などというウワサまで流れ、近年まれにみる注目度なんだとか。
それを教えてくれたのは、会合が行わている隣室にてだらりと過ごすわたしにお茶を運んできてくれたメイドさん。
なんちゃら喫茶とかにいる紛い物とはちがい、気合の入った職業メイドの動きには一分の隙もない。背筋をピンとのばし誇りを持って仕事に従事しいてる、尻タッチなんてめっそうもない。出来る大人の女性の姿がそこにはあった。
長いスカートの裾が揺れるのに見とれているうちに、ちゃっちゃとセッティングをすませてしまう。
すべてが洗練されており、淹れてくれた香り高いお茶はほどよい温度にて、口をつけたとたんにふわんと爽やかな柑橘系の甘い香りが鼻に抜ける。
その仕事ぶりにはルーシー人形もたいそう感服。
「やっぱり一人ぐらいは欲しいですね、メイド」とルーシー。
「うん、ちゃんとしたの欲しいよね」とわたし。
とっても気に入ったので、その場で「へい、うちにこないかい」って口説いてみたけど、「ほほほ」と軽く受け流された。どうやらダメらしい。優れたメイドとは忠誠心もまた一級品。ちょいと好待遇をちらつかせたところで、見向きもされやしない。
うーん、でも欲しいよなぁ。
どっかに落ちてないかなぁ。
よし、今度から移住用の難民をかっ攫うときに、探してみるとしよう。ひょっとしたら一人ぐらい紛れ込んでいるかもしれないし。
遠慮なくおかわりを所望し、二杯目を手にまったりと過ごしていると、隣室からはときおり笑い声がもれ聞こえてくる。
交渉の席はいい雰囲気のままで推移しているようだ。
顔見せのときにチラっと見かけたが、第一王子はまるで金色の獅子かと見まがうようなオーラを放つ偉丈夫だった。
いい男だったけど目力が強い。じっと見つめられると圧がキツイ。
かとおもえば、ふっと柔らかな笑みを浮かべたりもする。ほんのわずかな接触ですら、相手の心に御身を深く刻みつける圧倒的な存在感。
王になるべくして生まれてきたような男。
あれなら弟のライト王子が早々に兜を脱いで、裏から支えようとするのもわかる気がする。
この分ではギャバナは当分安泰だな。
魔族とかの紛争地域は、ずっと北方にてこちらとは対岸の火事状態だし。無闇に軍勢を遠征させることもなく、教会を通じての支援するに留めている。
かといって油断や驕っているわけでもなく、勇者の価値は認めているものの、そのチカラをあてにするわけでもない。それどころか必要なとき以外には、わりと自由を認める度量まで示しているというからたいしたもの。
大国が大国であり続けるというのは、どうやら伊達ではないらしい。
「おもわず魔王のことなんかポロリしちゃったけど、結果オーライかな」
「そうですね。大国の有力者と伝手を得られたのは有益でした。それとなくリスターナの保護に回ってくれるだけでも、我々としてはかなり動きやすくなります」
わたしのつぶやきに、ルーシーが肯定の言葉を続ける。
昨夜、宇宙戦艦「たまさぶろう」の展望ラウンジにて、いろいろと王子たちに暴露したついでに、こちらが女神に抱いている疑念についても触れた。
すると王子の口から、ギャバナの首脳部でも似たような懸念が持ち上がっていることを告げられた。
そりゃあ、首から上にまともな頭がついてたら、ふつうは考えるよね。
各国に勇者をタダで配布とか、いくらなんでも大盤振る舞いが過ぎるもの。実際、それが原因でトラブルが起きているわけだし。
超人兵器なんていう分不相応なチカラを手に入れて、ハメを外すバカとか、ね。もしくは勇者自身の暴走もあるか。
ライト王子からはリスターナ以外にも、おかしなことになってる国がチラホラ出始めているとの情報も教えてもらえた。その辺の詳しいところも入手次第、今後はこっちに回してくれるというし、うちとしては大助かり。
もっともしっかり対価として、いくつかの技術提供は約束させられてしまったが。
でもおかげで混乱に乗じて火事場ドロボウがやり放題だぜ、ウヒヒヒ。
ひょっとしたらメイドもゲットできるかも。
「リンネさま、お顔がまたもや悪代官のように」
「おっと、いけない。つい頬がゆるんでしまった」
ルーシーにたしなめられて、あわてて表情をとりつくろうわたし。
そうこうしているうちに会談は無事に終了。
懸念していたメローナ姫と自称・光の勇者アキラくんの妨害もなかった。
けれども問題が起こったのは、その夜に王室主催にて行われたパーティーの席にて。
予想外な展開に女の嫉妬が噴出し、リスターナの面々はこれに巻き込まれることになってしまう。
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