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062 聖魔戦線、異常なし。
しおりを挟むアルバの故郷だけでなく、倒した残党狩りの面々からもしっかり漁ったあとは、宇宙戦艦「たまさぶろう」に乗艦。
鬼メイドはひとしきり「なんだこれ!」と騒いだのちに、急に静かになった。
達観したかのように遠い目をしている。あんまりにもいろいろあり過ぎて、思考することをやめたようだ。
実際にいろんなことが重なったことだし、しばらくはそっとしておいてあげよう。
たまさぶろうは、わたしの指示によって第七十九次聖魔戦線の中でも一番の激戦区と言われているモナズセキ平原へとゆるゆる飛ぶ。もちろんカモフラージュ機能にて正体は隠したままで。
なんでもここは戦略的にも重要な土地らしく、過去にも幾度に渡って激戦が繰り広げられてきた因縁の場所。
ここの草木は死者の魂を糧に芽吹いているとまで言われるぐらいに、多くの者たちが散っているそう。
死霊を操れるネクロマンサーとかいたら、すごく喜びそうな土地だな。
「いますよ、ネクロマンサー」とルーシー。
「いるの? だったら無敵のゾンビ軍団とか大量生産しまくりじゃないの」
「あー、いや、それはムリですね。なにせ死ぬと肉体はすぐに痛みますから。蘇ったところでまともに動きやしませんよ。なにより脳みそが活動停止中につき、言うことなんてロクすっぽききやしません。大量に呼び出したところで、臭いニオイで悶絶するのがオチですよ。もしくは最悪、病気になります」
なんだか想像していたのとだいぶちがう。
いかにも悪の親玉みたいなネクロマンサーが、死んだヒロインとかを蘇らせて、主人公と戦わせて、なんだかんだでお涙頂戴なストーリーとか。近頃流行の元気よく走るゾンビ軍団とかを期待していたのに。
ちっ、これだからノットガルドは。
そんなちょっとがっかりしているわたしに、お人形さんは言いました。
「ネクロマンサーの仕事は、リンネさまのもとの世界でいうところの、イタコですね」
インチキじゃなくてマジもんの口寄せ。
いにしえの大盗賊とか海賊王とか呼んだら、財宝げっちゅうできちゃう?
えっ、ダメ。ケチは死んでもケチ、強欲は死んでも強欲、ロクデナシは死んでもロクデナシにつき、他人様が得をするような情報は絶対に吐かない、だと。
だからネクロマンサーが呼ぶのは、もっぱら故人を偲んで。母親を亡くした幼子とか、恋人を亡くした人とかを慰めるのが主な仕事。死霊使い、めっちゃいいヤツ。
主従にてイタコ漫談に華を咲かせているうちに、じきに戦場上空に到着。
はるか眼下では魔王軍と連合軍がわらわらと激突。
魔法とか魔力とかのナゾパワーがあるわりには、両軍ともにおもいのほかに整然と隊列を組み、粛々と軍事行動に勤しんでいる。ダブル異能持ちの勇者とかも多数投入されているはずなのだが、あまり派手な動きはみられない。
というかかなり地味? もっとドッカンとんでもバトルが展開されているのかとおもっていたのに。
「それは対魔法装備や魔力封じの術の影響かと」
首をかしげるわたしにアルバが教えてくれた。どうやら自力にて思考の海での難破から復帰を果たしたようだ。鬼メイドはおもいのほかに精神もタフであったらしい。
アルバの説明によると、女神が大量にばら撒いた勇者たちは、魔族側にとってもかなりの脅威とみなされたようで、それはもう熱心に対策を研究したそうな。
当初は通常の対魔法装備技術の発展延長にて、ギフトやスキルなどの異能を突っぱねるつもりであったのだが、いかんせん勇者の数だけ種類があって、それこそ千差万別。個別に対応していたのでは、雨後のタケノコのようにポコポコあらわれる新手にとても追いつかない。
そこで考案されたのが魔力封じの術。
理屈はとっても簡単。
相手の肉体内部の動きを阻害することで、能力の発動を狂わせるというもの。
そのために用いられるのが水魔法。
生きとし生けるもの、だいたいが体内に水分を飼っている。これのバランスがちょいと崩れるだけで、すぐに変調をきたす。血の流れは滞り、筋肉が動かなくなり、意識は混濁。
どんなに強力な異能だとて、発動するには魔力がいる。その素がうまく起動しなければチカラのふるいようがない。
狙いはウマくいき、絶大な効果を発揮する。
とはいえ、それを行うには熟練した魔法の腕がいる。それこそスナイパーのごとき正確無比な狙いと、天才外科医のごとき繊細な魔力操作。それらを兼ね備えた人材がとんでもない集中力を発揮してようやくなので、そうそうおいそれとは使用できない。
対する連合側とて、この事態を指をくわえて眺めていたわけじゃない。
総じて戦場では片方が強力な武器を手にすると、もう片方も同じような手段を得るもの。
結果として、双方が切り札足り得る術を持つことになり、それがあるがゆえに戦場での動きが近年、様変わりしたとのこと。
個の武勇に奢って、調子に乗って突出すれば、たちまち術の餌食にあって動けなくなったところをボコられる。
封印術の使用頻度が限られるがゆえにムダ撃ちはしない。
使うのならばここぞという相手や時や場所を選ぶがゆえに、運用が慎重にならざるをえない。
それが一見すると静かな戦場の正体。
率いている将は、戦局を見極め、少しでも自軍が有利に行動できるようにと、細心の注意を払っていたのだ。
何も知らない素人娘が、適当に地味とか言ってごめんなさい。
「ダブルチートの異世界渡りの勇者さまも、油断するとヤバいんだね。わたしも注意しないと」
ちょっと神妙な面持ちにてマジメなことを口にしたら、「いえ、リンネさまには関係ないですよ」とルーシー。「だって、お体の武器類は魔法じゃありませんから。リンネさまのそれは神さま印の一点モノの密輸品。もっともそれを抜きにしても健康スキルのおかげで、体が変調をきたすとかありえませんけどね」
それを聞いたアルバ、「さすがです、リンネさま」「ステキです、リンネさま」
鬼メイドの惜しみない賛美を受けて、ちょいと得意げにムフンと鼻の穴をふくらませる。
そうか、わたしはスーパーチートだったのか。
だがおかしいぞ。そのわりにはモテモテにもならなければ、ウハウハにもなっていないとは、これいかに?
「チャンピオンとは常に孤高なる存在。他の追随を許さず、他を寄せつけないモノ。つまりこれで正常です。ライトノベルとかのお話がウソなのです。天才と凡人を隔てる溝はとてつもなく深いのです。だからリンネさまはこの先もずっと基本ボッチ寄りです」
ルーシーがひどい。
わたしは無性にリリアちゃんに会いたくなったよ。この傷ついた乙女のハートを癒すには、彼女の無垢な笑顔に触れるしかない。
とりあえず当初の目的は達したし、そろそろリスターナに帰るかな。
もちろん夜陰に乗じて、戦場跡を根こそぎ漁ったあとにだけれどもね。
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