わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
64 / 298

064 美魔女

しおりを挟む
 
 ベリドートへ向かう前にギャバナに立ち寄って、アルバを預ける。
 身の丈三メートル近い色白な鬼女を見上げたときのライト王子とマコトくんの表情こそが、見ものであった。

「おい、たしか新人メイドを育てたいという話ではなかったのか」

 胡乱そうなジト目を向けてくるライト王子に、わたしは「そうだ」ときっぱり肯定。
 さすがの王子さまもいきなり魔族の女を連れてくるとは予想だにしなかったようだ。「よりにもよってコレか」なんぞと小さな声でボヤいていたけど、それは聞かなかったことにする。

「デカ……、だがオレは嫌いじゃないぜ。背の高い女って」

 そう言ったのはマコトくん。
 長い髪をかきあげてちょっと格好をつけての、この台詞。
 どうやら彼は異世界にて異種族のかわい子ちゃんとのイチャコラを夢見る、初心な青年であったようだ。
 でも、それは叶わない夢。
 なにせここはノットガルド。ケモ耳っ子もモンスター娘もいやしない。それっぽいのがいたとしても生物として根本的に違うので、精神的な繋がりはともかく肉体的に繋がるのは不可能。鬼人な魔族にしたって、中身はまるで別物だ。よしんばセレニティ・ロードたちのように他種族との交配が可能な連中とて、末路は悲惨だ。攻略ルートの行きつく先はバッドエンド一択の肉団子。
 身も心も捧げるという意味では、これもまた愛なのか?
 わたしは迷える子羊に神妙な面持ちのふりをして、笑いを必死にこらえながら真実を告げた。
 幻想と妄想を捨てて、乾いた現実で生きてもらうために。
 世界の残酷な真実を知った青年は大粒の涙を零しながら慟哭す。

「そんなの嘘だーっ! キツネなお姉さんもバニーなかわい子ちゃんも、トラな姉御もいないだと! セクシーなバンパイアも、胸のおおきなラミアもちょっと天然なトリ娘もいないだと! そんな……、じゃあ、オレはいったいなんのためにはるばる異世界くんだりまでやってきたというのか」

 いや、あんた、それは勇者としてがんばるためでしょ。
 ライト王子からも「そんな種族は見たことも聞いたこともない」とは以前より告げられていた霞の勇者マコト。だがノットガルドの地は広大にて、種族もたくさん。探せばきっとどこかにマイハ二―がいるにちがいないと、かなり真剣に考えていた彼。
 なにせここは剣と魔法のファンタジーだし、いかにもどこかに居そうな気がしてもしょうがあるまい。
 だが、いないのだ!
 けっこうな高確率にてこちらの期待を裏切るガッカリさん、それがノットガルド。
 天地の津々浦々、それこそ森の奥から海の底、空の彼方を探してみても、欠片も見つかりやしない。
 だって世界のデータベースであるアカシックレコードにも、そうはっきりと明記されているのだもの。
 ルーシーさんによれば「前途ある若人たちよ、淡い夢をみて道を踏み外すことなかれ」との注意喚起の文言が、不在情報の横に添えられてあったという。
 データ入力担当がおもわずそう書かずにはいられないほどに、見果てぬ夢を追いかける多くのバカがいるということなのだろう。
 やれやれ、男ってヤツはなんて悲しい生き物なんだ。

 などという愉快な一幕を挟みつつ、アルバを預けてからベリドートへと向かった。
 現地にてわたしたちを出迎えたのは、豊かな黒髪の女性。
 ライト王子の伯母さんのミランダさん、年齢不詳。
 泣きボクロ標準装備の肉付きのいい美魔女。ぱっと見には三十代半ばの熟れ盛り女盛りにしか見えないというのに、これでも成人して独立した息子が三人もいるとか。
 あり得ないぐらいの美魔女っぷりだ。

「整形? それとも魔法かな」
「いいえ、気になってこっそり肌解析を行いましたが、信じられないことに自前のようです。つまり常日頃の努力の賜物にほかなりません。美は一日にしてならず。これは脅威ですよ。どうやらベリドートはとんでもない怪物を飼っていたようです」

 失礼なヒソヒソ話をしているわたしとルーシーにも、絶えずにこやかな笑みを浮かべている。
 圧倒的自信と大人の余裕がそこにはあった。
 そんなお方からのお悩み相談だという今回のお話。
 むしろこちらが色々と相談にのってもらいたいぐらいである。
 ルーシー印の「っぽいモノ」シリーズ化粧品部門立ち上げの際には、ぜひと名誉顧問に就任してもらえないか打診しようと思う。

「はじめは静観していたんだけど、さすがにちょっと……」

 そう言いながら美魔女が悩ましげなまなざしを向けたのは窓の外。
 遠くに見えるは天空に向けてそそり立つ塔の姿。
 これがミランダさんのみならず、ベリドート国を悩ましている元凶であった。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...