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064 美魔女
しおりを挟むベリドートへ向かう前にギャバナに立ち寄って、アルバを預ける。
身の丈三メートル近い色白な鬼女を見上げたときのライト王子とマコトくんの表情こそが、見ものであった。
「おい、たしか新人メイドを育てたいという話ではなかったのか」
胡乱そうなジト目を向けてくるライト王子に、わたしは「そうだ」ときっぱり肯定。
さすがの王子さまもいきなり魔族の女を連れてくるとは予想だにしなかったようだ。「よりにもよってコレか」なんぞと小さな声でボヤいていたけど、それは聞かなかったことにする。
「デカ……、だがオレは嫌いじゃないぜ。背の高い女って」
そう言ったのはマコトくん。
長い髪をかきあげてちょっと格好をつけての、この台詞。
どうやら彼は異世界にて異種族のかわい子ちゃんとのイチャコラを夢見る、初心な青年であったようだ。
でも、それは叶わない夢。
なにせここはノットガルド。ケモ耳っ子もモンスター娘もいやしない。それっぽいのがいたとしても生物として根本的に違うので、精神的な繋がりはともかく肉体的に繋がるのは不可能。鬼人な魔族にしたって、中身はまるで別物だ。よしんばセレニティ・ロードたちのように他種族との交配が可能な連中とて、末路は悲惨だ。攻略ルートの行きつく先はバッドエンド一択の肉団子。
身も心も捧げるという意味では、これもまた愛なのか?
わたしは迷える子羊に神妙な面持ちのふりをして、笑いを必死にこらえながら真実を告げた。
幻想と妄想を捨てて、乾いた現実で生きてもらうために。
世界の残酷な真実を知った青年は大粒の涙を零しながら慟哭す。
「そんなの嘘だーっ! キツネなお姉さんもバニーなかわい子ちゃんも、トラな姉御もいないだと! セクシーなバンパイアも、胸のおおきなラミアもちょっと天然なトリ娘もいないだと! そんな……、じゃあ、オレはいったいなんのためにはるばる異世界くんだりまでやってきたというのか」
いや、あんた、それは勇者としてがんばるためでしょ。
ライト王子からも「そんな種族は見たことも聞いたこともない」とは以前より告げられていた霞の勇者マコト。だがノットガルドの地は広大にて、種族もたくさん。探せばきっとどこかにマイハ二―がいるにちがいないと、かなり真剣に考えていた彼。
なにせここは剣と魔法のファンタジーだし、いかにもどこかに居そうな気がしてもしょうがあるまい。
だが、いないのだ!
けっこうな高確率にてこちらの期待を裏切るガッカリさん、それがノットガルド。
天地の津々浦々、それこそ森の奥から海の底、空の彼方を探してみても、欠片も見つかりやしない。
だって世界のデータベースであるアカシックレコードにも、そうはっきりと明記されているのだもの。
ルーシーさんによれば「前途ある若人たちよ、淡い夢をみて道を踏み外すことなかれ」との注意喚起の文言が、不在情報の横に添えられてあったという。
データ入力担当がおもわずそう書かずにはいられないほどに、見果てぬ夢を追いかける多くのバカがいるということなのだろう。
やれやれ、男ってヤツはなんて悲しい生き物なんだ。
などという愉快な一幕を挟みつつ、アルバを預けてからベリドートへと向かった。
現地にてわたしたちを出迎えたのは、豊かな黒髪の女性。
ライト王子の伯母さんのミランダさん、年齢不詳。
泣きボクロ標準装備の肉付きのいい美魔女。ぱっと見には三十代半ばの熟れ盛り女盛りにしか見えないというのに、これでも成人して独立した息子が三人もいるとか。
あり得ないぐらいの美魔女っぷりだ。
「整形? それとも魔法かな」
「いいえ、気になってこっそり肌解析を行いましたが、信じられないことに自前のようです。つまり常日頃の努力の賜物にほかなりません。美は一日にしてならず。これは脅威ですよ。どうやらベリドートはとんでもない怪物を飼っていたようです」
失礼なヒソヒソ話をしているわたしとルーシーにも、絶えずにこやかな笑みを浮かべている。
圧倒的自信と大人の余裕がそこにはあった。
そんなお方からのお悩み相談だという今回のお話。
むしろこちらが色々と相談にのってもらいたいぐらいである。
ルーシー印の「っぽいモノ」シリーズ化粧品部門立ち上げの際には、ぜひと名誉顧問に就任してもらえないか打診しようと思う。
「はじめは静観していたんだけど、さすがにちょっと……」
そう言いながら美魔女が悩ましげなまなざしを向けたのは窓の外。
遠くに見えるは天空に向けてそそり立つ塔の姿。
これがミランダさんのみならず、ベリドート国を悩ましている元凶であった。
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