わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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072 二号

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 授業参観の合間の休憩時間に、教室の片隅でリリアちゃんとわたしが戯れていたら、怒り出したのは、栗毛のくるくるカール頭のかわいらしいお嬢ちゃん。
 マロン・グラッセという美味しそうなお名前にて、リリアちゃんとは仲のいいお友だち。リスターナでもかなり高位の家の子。将来的には悪役令嬢の名をほしいままにしそうな雰囲気がある子だけれども、まじめな委員長タイプにて、クラスのまとめ役でもあるんだとか。
 そんな子が極めて良識的な指摘をするも、これを受けたわたしはこう考えた。

「ははーん。これは焼きもちだね。仲のいいお姫さまを年上のステキでスマートでデキるお姉ちゃんにとられるとおもったわけだ。もう、そんな心配しなくても、お姉ちゃんはそんないじわるはしないよ。というか、むしろマロンちゃんをマイシスター二号として迎え入れようとも。さぁ、恥ずかしがらずにバッチコーイ」
「なんで不敬を注意したら、そんな話になるんですの!」

 駄々洩れしていたわたしの心の声に、ぷりぷり顔を真っ赤にして抗議するマロンちゃん。
 いい反応だ。どうやら彼女はマジメなツッコミ体質のようだ。そしてガルルといまにも噛みつきそうな姿が子オオカミのようで、とっても愛らしい。
 ほら、怖くないよ。だいじょうぶだから。
 頭をなでなでしようと、やさしくそっとのばした指先は、パシリとはたかれた。
 彼女は頑なだった。
 だがそれがいい。いや、むしろそれがいい。
 ツンツンされるほどにわたしの闘志が燃え上がる。ツンの壁が高ければ高いほど、乗り越えた先に広がるデレの大地は、よりいっそう燦然と光りかがやくのだから。
 かつて誰かが言った。「どうしてそうまでして過酷なツンにチャレンジするのか。それはそこにツンがあるからさ。山があれば登るのが登山家、教科書の隅っこにパラパラマンガを書かずにはいられないマンガ家、それと同じさ」

「そんな大地どこにもないから! この人、なんかヤダーっ!」

 マロンちゃんは戦略的撤退を選んだ。
 教室から脱兎のごとく逃げ出す乙女。それをカメラ片手に追うわたし。
 背後から迫るシャッター音におののく、くるくるカール。「リンネお姉さま、わたしもー」と追いかけてくるフワフワお姫さま。
 そして三人でキャッキャうふふと廊下を駆けていたら、おじいちゃん先生に見咎められて、三人そろってしこたま怒られた。
 いやはや教師のマジ説教は、いくつになってもこたえるね。

 午前の授業がすべて終了し、お昼になった。
 なおこの学園には食堂なんぞというものはない。
 学園といえば食堂、すべての学園ドラマは食堂から生まれるといってはさすがに言い過ぎかもしれないが、それがない。
 理由は「大事な子どもを預かっているし、貴重な書物も多数収蔵しているような場所で、火を扱うのはちょっと」というもの。
 それに金持ち学校であるがゆえに、下手に食堂で料理とか提供していたら、お昼休憩がいくらあっても足りやしない。
 ここはあくまで学び舎にて、勉強第一。だから見た目の派手さに反して、過剰なサービスは実装されていないのだ。
 生徒たちはお弁当持参。みんなおもいおもいの友だちと好きな場所で食べることになる。
 というわけで、わたしは笑顔のリリアちゃんと嫌がるマロンちゃんを連れて中庭へと向かう。
 アルバに命じて、この日のために特製ランチを用意させておいたのだ。
 ギャバナのメイド育成虎の穴での訓練を経て彼女はかわった。もともと母親の薫陶よろしく家事全般をこなしていたアルバはとっても勉強熱心にて、ルーシー経由にて入手可能な様々なレシピや調理法をまたたくまに吸収。日々、鬼メイド道を極めようと邁進している。おかげでいまでは「そこそこできるメイド」へと進化した。

 ナゾの肉で作ったのに、何故だか名前が「カラアゲ」な揚げ物料理。
 ナゾのタマゴで作った厚焼き玉子は、甘いのと出汁味の二種類。
 具だくさんで食べ応えのあるサンドイッチ。
 リンゴっぽいゴウサワンの実をふんだんに使ったパイ。
 新開発のガガガガの実で作られたチョコ―レートが使用された、ガトーショコラっぽいケーキ。
 豪華五段重の渾身のお弁当を広げて、わたしたちの来るのを待っていたアルバ。
 そしてそんな彼女の周囲を物欲しげにうろついてるのは、でっかいネコみたいな種族のカネコ。

「うまそうなにゃ、ちょっとくれにゃ」
「シッシッ、これはリンネさまたちのために作った料理なんだ。だからダメだ」
「少しぐらいわけてくれてもいいにゃ、ケチケチするなにゃん」
「ケチではない。これはケジメだ。主人のための料理に、先に手をつけさせるわけにはいかん」
「えー、いいにゃん。ダマってたらわからないにゃ。こっそり、つまみ食いにゃ」

 隙あらば手を出そうとするデカネコから、懸命にお弁当を死守しようとする鬼女。
 だがこれは別に珍しい光景でもなんでもない。
 カネコたちは、こんな感じで日々の糧を得ている。
 基本的に生産能力と労働意欲に乏しい彼らは、沈んだギガン島から脱出しリスターナへと島民そろって移住してからこっち、ずっとこんな感じで生きている。
 食事時になればシレっと手近なご家庭に入り込んでは、飯にありつき、気づけば家の中に潜り込んで寝ている。やってることはノラネコとあまりかわらない。ただし、その図体が二メートルぐらいあって、顔が一つ目で出っ歯だけどな。
 なお最初にリスターナに現れたカネコのルナティは、ちゃっかり宰相のダイクさんの屋敷に転がり込んで奥方にとり入り媚びへつらい、全力にて悠々自適生活を満喫している。

「いいよ、アルバ。適当に分けてあげて」
「はぁ、リンネさまがそうおっしゃるのならば」
「さすがにゃ、体が大きいわりにシミったれな鬼メイドとちがって、体も胸も貧相なわりにリンネは太っ腹にゃ」

 ……カネコに悪気がないのはわかっている。
 でも、わかっているからといって許せることと許せないことがある。世の中には迂闊に発していけない禁句というものが存在するのだ。
 ぶっちゃけ瞬間的に左手の人差し指マグナムの引き金をひきそうになった。
 それを思いとどまらせてくれたのは、ルーシーの小さな手。
 青い瞳のお人形さんは肩をぷるぷるふるわせながら、ご主人さまにこう言った。

「ここはこらえて下さい。せっかくのカラアゲにカネコケチャップのトッピングは不用。それに下手に暴れると、ますますマロンさまに嫌われてしまいますよ。ぷー、くすくす」

 ぐぬぬぬ、おのれ、カネコめ。
 そういえばネコってチョコレートがダメだったよな。
 ……にやり。


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